運命の始まり 運命の相対
病院は無陸にとって絶望の始まりを意味する
「また・・・・・・守れなかった・・・・・・」
いつも端的に起こるこの誘拐は
無陸を無力だと突きつける現実
そして不思議な夢を見る前兆
そんな絶望に支配されている空間にドアの開く音が響く
ガラガラと鳴るその音はいつもの医師を連れてくる
「金城さん、危ない目に遭う時は逃げてくださいと言いましたよね?」
少し苛立ち気味に何度もしてるであろう忠告を放ち
ため息をして
「でも、守ったんだよね?じゃあ助けに行かなきゃね・・・・・・
まあ、いくらでも行ってらっしゃい」
この言葉は無陸を信じているからだ
無陸はこの誘拐の後、必ずと言っていいほどに二週間ほど眠る
「すみません・・・・・・ベッド借ります」
そういうと神経がぷつっと切れたようにベッドに倒れこむ
この理解は最初からではない
当初、これを目の当たりにしたこの医師は
泣きながら待った
新人だった頃のこの医師には恐ろしい光景だ
寝ているのは確かだが死んでいるようでトラウマになっている
そんな中でベッドを貸したのは
実績があるからだ
不思議な夢を見たと聞いた時は信じれなかったが
実際に周子は戻ってきているという事実が根拠になったのは周子の証言だ
《無陸に似た騎士が助けに来た》
それは日本ではなく海外で助けられたという証言もあったからではあるが
脳に異常はないし精神障害のような幻聴でも幻覚でもない
海馬が働きながら証言したからだ
記憶を介してそれは話され
そして行方不明も事実
だから信じるしかない
無陸は目を開く
しかし肉体は少し違う
体格の良いわけではないし
それほど背が高いわけでもない
それまでは同じだが
着ている服と持っているもの
そして鏡面磨きされた剣に移る顔は精悍で勇ましい
ツリ目で怖いというのではなく
本当の意味でイケメンだ
「どこが似ているんだ?」
疑問はいつも浮かぶがそんなの今は関係ない
「帰って来たのですね、無陸」
不意に後ろから声がした
それは女性の声で年上のような落ち着いたトーンだ
「では、またあれが?」
「多分ね」
何年経とうがこれは三回目
周りの風景もまた、城だった
しかも一人部屋だ
「無陸はあれから成長しましたか?」
「すみません、相変わらずわかりません」
ほっと優しい笑顔でふふっとほくそ笑む女性は
今の状況を話す
この世界が三年前と同じ
魔神王という存在がまた現れ
姫という贄を攫ったと宣言したこと
世界は前とは違い劣勢だということ
「今から劣勢を崩すのですよね?無陸」
「当然だ、その前に聖王刃は?」
「先ほど言った劣勢とは相手側に聖王刃の管理者が捕まっているということです」
それは最大の劣勢
聖王刃は相手を倒すためだけの切り札で
前に勝利を呼び込んだ最後の希望
「なら取り戻すか・・・・・・」
「言うと思ってましたよ」
そういうと外を見れるベランダの様な所を指さす
そこから見る景色は大勢の歓声と期待を帯びている
その歓声に手をかざし大きくしたところで部屋に戻り
女性に向き直り
「さあ、始めよう」
決意と覚悟を決め部屋を出る
「おおっ!」
「勝利は確定だ!」
周りの声は英雄を見て士気を高め
廊下の脇に整列を作る
作戦を練るためのブリーフィングルームでは
口喧嘩がドアの外まで聞こえていた
「またあいつらか・・・・・・」
無陸の頭では口喧嘩している人間が把握できていた
カリンスバールと言う少女と
クリウスバールと言う少年
しかし、それは三年前だ
今では声も特徴こそあれど
少し大人びていた
そして扉の前に着き開こうと手を掛けると
自然に開く
そこにはあきれ顔でやれやれと表情を歪ませる女性がいた
そして目の前を見る女性は
少しの間、顔を見ると
「まさか!無陸さん?」
どうやら特徴があるらしい
自分ではわからないが他人の目ではわかる
仕組みなんて知らない
しかし、この世界ではその特徴を持ち無陸と名乗るものは
大英雄で世界を二度も救った熟練の騎士
無陸を題材に絵本や叙情詩もある
「無陸、シュトレンフォーレンスの世界冒険」と
「無陸というなの病み無力騎士」
嫌味が混ざる叙情詩よりかは絵本の方がおススメだ
そんな状況は無陸は知らない
知ったらむずかゆくなるだろう
無陸と見破った女性の名は
カトリ、ジュウコ
異世界である無陸がいた世界から来た
帰ろうとしても帰れない女性
ちなみに剣術は恐ろしいほど強い
通称、異世界の刃〈カタナのカトリ〉
そんな女性の後ろで笑顔になった
口喧嘩していた二人は近づいてくるなり
「無陸お兄ちゃん!」
「無陸の兄さん!」
各々の呼び方が重なり
また喧嘩しそうになったため
「おーい、カリンス!クリウス!作戦を練ろうぜ!」
その鶴の一声で
「無陸お兄ちゃんが言うなら・・・・・・」
「仕方ないな」
となだめられる
カリンスバールはこの世界では珍しい銃使いで翻弄できるほどの速さで
敵に弾丸と拳を叩きこむ
通り名こそないものの影の功労者だ
そしてクリウスバールは盾を使い戦う特殊な戦法の騎士で
カリンスとは違い通り名がある
〈守りの攻王〉(ガードパラディン)
そんな三人は無陸を尊敬しており
少し崇拝気味だ
そんな無陸からの言葉は戦線の指揮官以上だ
そんな朗らかな景色とは違い
牢屋で一日を過ごす
敵側に捕らわれている周子は
この世界では贄姫
言語はなぜか一緒なので
恐らく無陸の世界のパラレルワールドか
昔、異世界の人が来て広めたかだ
話を戻すと
贄姫と言われる周子はそのうちに
魔神王と呼ばれる
キカーラという元人間で
悪魔を食った災厄の王の成れの果てに
贄として食われる
過去、ほとんど食われかけるまで
二週間ほどで
いつもギリギリだ
しかし聖王刃があったからで
今、無陸達の国
《グランハーレ》は所持していない
そしていつもよりも余裕で贄姫を手に入れた
敵国のフルスバールは
焦燥はない
それはまだ救いだ
フルスバールは宗教国家で
悪魔崇拝の面倒な国だ
条件が変わることはあり得る
無陸の世界で言うところのテロ国家で
世界を支配することを成し遂げられる力を持ってしまっている
本当に面倒な理屈で動く集団
色んな意味で恐ろしい
そして周子を攫うことを命令した王の名は
カネヒラ、トウゴ
無陸の世界から来た傭兵で
テロ国家そのものにいた
キカーラを崇拝することで
王になった
単にキカーラに媚びておこぼれをもらう
いわば、寄生虫だ
そして、実行役の神官は女性で
頭がいいためかわざわざ王座をカネヒラに譲り
裏からやりたい放題だ
名はクリシン
本当の名かさえわからないが
それで通っている
この相対する国々が
今から世界を賭けた戦いを繰り広げる




