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ひとつ屋根の下 ~It`s happening life~  作者: 建野海
陽菜の章
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17/40

初めての出会いは衝突から

陽菜が起こした騒ぎから約一ヶ月。この日は夏休み前最後の登校日であり、クラスメイトたちは担任教師から手渡された通知表の結果に一喜一憂していた。

 クラス内の仲のいい友達同士で通知表に記載された評価欄や担任のコメントを見せ合い楽しそうに過ごす中、陽菜はただ一人ポツンと集団の輪から弾き出されて一人、自分の座席にて通知表を見ていた。

 真面目に授業を受け、テストの点もよかったこともあり成績は優良の評価がほとんど。だが、担任のコメント欄に書かれていたものはこれまであった〝クラスの中心となり、皆のいいまとめ役になっています〟といったものから当たり障りのない内容へと変わっていた。

 クラスの雰囲気もあのときの事件をキッカケに少しずつではあるが変化をしていた。

 それまで陽菜と仲の良かった友人達はあの日を境に陽菜と関わることをやめた。

 他の中のよかったクラスメイトたちは、陽菜の想像していなかった一面を見てしまったショックからか、彼女に対する接し方に戸惑い遠巻きに様子を見ている状況だ。

 腫れ物を扱うようなこの状況。生まれて初めて味わう孤独と苦痛な時間に陽菜の心は少しずつ磨耗していった。

 学校に居場所がなくなった彼女の唯一の拠り所は優しい家族が待つ家庭だけであった。

 唯一彼女を受け入れてくれる家族たちは今、受験の時期を迎えて普段は欠片も興味を持っていなかった勉強に勤しむ千沙都と、その面倒を見て彼女を志望校に合格させるために協力する美咲。

 そんな家族の姿を見た陽菜は、今自分のために要らぬ心配や問題の解決のために彼女たちの貴重な時間を使わせるわけにいかないと問題を一人で抱え込んでしまっていた。

 日に日に増していく寂しさ。孤独感。

 母を失ったときとは違った虚無感が彼女の心を次第に苛んでいった。


「はい、それじゃあこのホームルームで夏休み前最後の授業は終わりです。

 みんな、水害や事故に気をつけて夏休み明けに元気な姿を見せてくれることを先生は楽しみにしてます」


 通知表を配り終え、担任教師の決まり文句が教室に響き渡る。その言葉に元気に返事をするクラスメイトたち。

 小学校最後の夏休みはこうして始まった。陽菜はクラスメイトの顔を一度も見ることなく、その場から逃げ出すように、荷物をまとめて真っ先に教室を飛び出した。


……


…


 学校を出た陽菜であったが、すぐに自宅に帰るわけにはいかない理由が彼女にあった。

 彼女は未だ家族の誰にも自分が今学校でどのような状況に陥っているのかを相談していなかった。幼い陽菜なりの家族を思っての行動であったが、それを聞けば礼次郎や美咲や千沙都、その誰もが何でもっと早く相談してくれなかったと憤慨したことだろう。

 だが、大切な家族だからこそ話せないこともある。

 特に父である礼次郎はここ数ヶ月何かいいことがあったのか、上機嫌でいることが多く、特に仕事終わりに外食してきた際にその態度が良く見られた。

 一度陽菜が美咲に理由を尋ねたことがあったが、美咲は複雑そうな様子を見せながらも笑顔を浮かべて、『もう少ししたら分かることだから』とお茶を濁して詳しく答えをくれなかった。

 理由はハッキリしなかったが、ここ最近まだ母が生きていた頃のように楽しそうに毎日を過ごしている礼次郎の表情を見て陽菜もまた嬉しい気持ちになっていた。

 心の底から笑顔を浮かべる父の表情をまた悲しいものに変えることは陽菜にはできなかった。

 だからこそ今日も本当は何も予定などないのに『友達の家に呼ばれていてお昼もそこでいただいてきます!』などと、ありもしない予定を作り家族に嘘を重ねた。


「とはいえ、どうしましょう……」


 いくら夏休みを迎えたといっても一人で街中をブラブラしていたら下手をすれば彼女の心配をした大人が警察に連絡をして補導の対象になってしまうかもしれない。

 かといって、自分がいける場所など限られている。しばらくの間どのようにして今からの時間を潰そうかと考えた陽菜であったが、不意に彼女の脳裏にある妙案が浮かぶ。


「そうだ、あそこなら!」


 脳裏に浮かんだとある場所。陽菜のような小学生がいても違和感がなく、時間を潰すことができる場所。

 自宅から歩いて三十分ほどにある、その場所に向けて早速陽菜は向かいだした。

 額に汗を滲ませながら目的地へと辿り着いた陽菜。彼女が訪れたのはこの地域でも大きな市営の図書館であった。

 元々外で遊ぶことはもちろん、本を読むことも好きだった陽菜にとってこの場所は今の彼女の目的を達成するのには最適な場所であった。

 学校の図書室よりも遥かに豊富な蔵書が用意されているこの場所はある意味で彼女にしてみればテーマパークに出かけるよりも遥かに楽しく時間を過ごせる場所でもある。

 学校で落ち込んだ気持ちは図書館の中に入り、涼やかな空気に触れた途端に吹き飛んだ。

 ひとまず図書館のお勧め小説コーナーへ向かおう。そう思った陽菜はテクテクと気持ちに比例するように歩く速度は自然と早足になる。

 目的地であったコーナーへ辿り着いた陽菜であったが、早足から駆け足になってしまっていたこともあり、ちょうどお勧め小説コーナーの棚から出てきた人物とぶつかってしまう。


「おわっ!?」


「あ! す、すいません!」


 反射的にぶつかった人物に謝罪の言葉を口にする陽菜。言葉と共に頭を下げるが、顔を上げた先にある人物の姿を見た陽菜は思わず固まってしまう。

 そこにいたのはいかにもガラの悪そうな顔立ちをした一人の少年だった。学生服を着ていることから中学生くらいというのがわかるが、どうみても不良のような様相をしており、関わりあいになりたくないような人物であった。


「ご、ごめんなさい……」


 思わず再度謝罪の言葉を口にしてしまう陽菜。そんな彼女の姿を見た少年は困ったように苦笑いを浮かべる。


「楽しみにしていた本でも探しにきたのか? 気持ちは分かるけど、館内を走ると危ないぞ」


 怒られると身構えていた陽菜は思いがけず優しい声音で掛けられた少年からの忠告にキョトンと間抜け面を晒してしまう。

 そんな陽菜の様子を見て少年は何故か落ち込んだ様子を見せて「やっぱり、俺の外見って損してるのか?」と小声で呟いていた。

 そのまま少年は肩を落として陽菜の横を通り過ぎていった。思い返せばこれが後に家族の一員となる陽菜と晃一の最初の出会いだった。

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