16、いわゆる...。
勇者は少食だった。
どうやら彼は日本人のようだが、こちら大柄な人間と比べるとすごく小さくて、ダボッとした服を着ているのに華奢に見える。
日本人の中でも小柄なほうなんじゃなかろうか。
もっと食え!栄養を行き渡らせるんだ!
と、言っても、こちらの人間にしては小柄で華奢な俺より、ほんの少し小さいだけだけど。
ほら俺はこれからだから。
おじい様とか結構背高いから。遺伝子的にものびしろあるハズだから。
もっと食わねば!栄養を以下略。
「風呂の使い方はわかる?大丈夫?」
「あ、うん。たぶん?」
「一緒に入って説明しようか?」
魔法関係でシャワーが出るから、あちらの人には使いにくいと思うんだ。
魔力が必要な作りではないから、使い方さえ知っていれば誰にでも使える物ではあるんだけど。
「だだ大丈夫!じゃあ先にお風呂いただくねっ!」
男同士でそんなに拒否しなくても良かろうに...。
うちの風呂そこそこ広いからね。旅館の貸切風呂(3~4人はゆうに入れるやつ)ぐらいの大きさはあるからね。2人ぐらい余裕だからね。
「...まぁ、わからなかったら声かけてくるだろ。着替えだけ持って行こう」
急だったしあんな騒ぎの後だから、悪いが俺の寝巻きを着て貰おう。下着は新品の替えがあるからそれを。うちの使用人に頼んで脱衣場へ運んで貰った。
「待たせてごめん。ああ、俺の服じゃちょっとサイズが大きかったかな、明日には準備するから」
俺も風呂を出て、勇者の使う客間へ来ている。
「レイモンドさん、何から何まですいません。なんだか、食べてお風呂入ったら、一息つけました」
「わかるよ。俺もだよ。呼び方、レイでいいよ。日本語の時みたいに普通に話してよ。歳も近いだろうし」
肉体の年齢はな。
さてさて、こっからもう一勝負といきますかね。
「改めまして、俺はレイモンド・メーガネ。
ここメーガネ家の嫡男で神父、そして...。
前世では日本人の、岡崎玲って名前のサラリーマンだった」
レイモンドの17年分の人生と、玲の人生を語る。
たぶん、異世界転生していて、前世の俺は死んでる可能性が高い、などなど。
「そうか...、じゃあ、レイは、...その、元の世界に帰るとか...」
「難しいかなと思う。この姿で帰っても、父さんも母さんも俺だって気づいてくれないよ。きっと」
そう考えるだけで悲しいから、もし万が一帰れても、今の姿のままなら父さん達に話しかけられないと思う。
息子じゃない、って直接言われたらって思うだけで、辛い。
「散々これは夢だ、って。明晰夢だと思って。
でも、毎日毎日こっちの世界で目が覚めるんだ。
さすがに諦めた、と言うか。俺にとってはもう今の生活が現実で、日本での事が夢なんじゃないかとすら思い始めてたよ。
君の日本語を聞くまで」
「ああ、こっちの世界で目が覚めた瞬間、夢じゃなかったって思うね。夢なら覚めてって」
「わかるわー。最初の1年かな、しんどかったなー。言葉もわからないから、本当頭がおかしくなりそうだったよ」
「え?言語チートは?」
...言語チート?
「なにそれ」
「最初に神さまと会話した時、言語チートとかアイテムバッグの説明受けなかった?ステータス表示の仕方とか」
「なんかチュートリアルみたい...。神さまと話した...、って言えるのかなアレは。一方的だったし。とにかく、神さまの声を聞いたのは今日がはじめてだよ」
「チュートリアルみたい、じゃなくてチュートリアルなの!
信じられない、なんのチートもなくスキルもわからないまま赤ちゃんの姿でこっちに放り込まれたの!?」
「まあ、俺の場合は家族がいたから...」
「それにしたって、ちょっとハードモードすぎるよ...。
あの神さま、すごく適当そうだったもんなあ...」
「宜しくねー、とか言ってた」
「言ってた!ノリ軽すぎ!」
「本当に」
呆れが入っていると言うか、なんだかね、って感じで笑いが漏れた。
勇者もちょっと笑ってた。
「じゃあ、なに?こっちの言葉最初からわかったの?」
「うん。こっちに連れて来られて半年経ったかな?
言語チートなかったら話せなかったと思う。レイは凄いね」
「こっち来て17年だしね。半年かぁ...。あれかな、勇者の場合は異世界転移って感じ?」
「うん。そう。神さまが連れてきたって自分で言ってた。
あなたが一番理想的なプレイをしてたから、勇者になって魔王を倒してきてーって」
「ははっ、ゲームかよ」
「えっ!?」
「え?」
えっ、て?
なんで驚くの?
「ゲームだよ」
「えっ!?」
「だから、ここはゲームの中の世界だよ」
『 キミと魔王を倒したい ~勇者は誰と恋をする?~』
聞くところによると、
いわゆる、乙女ゲー。




