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組み手

ひっそりと更新

 何周かこなし、休憩しているときにふと思ったことが口に出た。


「そういえばぬこまるがいないな」


 その言葉にロロナは反応し顔を上げ、答える。


「・・・いるよ?・・・ぬこまるー」


 ロロナがぽやっとした声でぬこまるの名前を呼べばロロナの胸元が光りだす。

 その光が成形されていき、やがて見慣れたあの姿が現れた。


「にゅん!」


 ぬこまるはすぽっとロロナの腕の中に納まる。


「今どこから出てきたんだ?」


 そう思ってロロナの胸元を見るとなんだか魔力を帯びた装飾品、ブローチだろうか?があり、そこから光が発生したように思う。


「それがぬこまるを呼び出したのか?」


 コウはロロナの胸元にあるものを指さし、確認をとる。


「・・・うん。・・・これはぬこまると契約した時に生成された魔具」


 また新しい情報が出てきたな、と思いはするが根気よく聞いていく。


「・・・これを通じて契約した精霊と話したり呼び出したりする」


 なるほどなぁ、と思っていると、そのつぶらな瞳でこちらを見上げるぬこまると目が合う。


「にゅ?・・・にゅん!にゅんにゅん!!」


 最初はこちらを見て首を傾げていたが、何か思い出したのかこちらに飛びついてくるぬこまる。


「うお!?なんだ?」


 コウに飛びつき、そのまますりすりと体を擦り付けてくるぬこまるにコウは戸惑う。

 それを横でバテバテになったアルメリアはうらやましそうな目で見ていた。


「コウさん、いいなぁ・・・わたしにもすりすりしてくれないかなぁ・・・」

「こいつはどうしたんだ?」


 ぬこまるの行動がよくわからないコウはロロナに視線で助けを求めた。


「・・・昨日のお礼を言っている。・・・おいしいご飯をありがとうって」

「ご飯?・・・もしかして魔力のことなのか?」


 言われて最初はわからなかったが、そういえばぬこまるに魔力をもりもりと食われたことを思い出す。


「上げるために集めたわけじゃないんだがな」


 そう口では言うが、ここまで好意的な行動をされて悪い気はしない。

 もともとコウは動物好きである。殺伐とした生活をしていただけに、愛玩動物などはコウにとって見ていて癒されるのである。

 むろん、そんなことは表面的にはわからないようにしているが。


 そんな感じで休憩をしていると、知り合ったばかりの冒険者たちが見回りをしていたのかこちらに向かって歩いてきた。

 その中の一人と目が合うと、あちらが手を上げ声をかけてくる。


「よう、さっきから何してたんだ?村の周りぐるぐる駆けずり回って」


 そう声をかけてきたのはエイギルであった。

 お前もか、とは思いはしたが口に出さずに簡単に答える。


「ほう、体力作りねぇ・・・。武器の素振りなんかいいんじゃないか?剣の扱いもうまくなって一石二鳥ってやつだ」

「確かにそれでもいいんだがな、走るのと素振りでは体力の付き方が違うからな」

「・・・体力に着き方の違いなんてあんのか?」

「走るのは全身運動って言って身体全体がバランスよく鍛えられるな。基礎が足りない場合はお勧めするぞ。まぁ、冒険者で食っていってるあんたに基礎がないなんて思わないから素振りでいいと思うがな」

「ふーん、そんなもんかねっと、そうだ、今時間あるんなら前言ったやつ教えてもらっていいか?」


 そういうエイギルに、前?と疑問に思ったがそういえば体術を見せてほしいとかいってたな、と思い出す。


「ああ、かまわないぞ。・・・そうだ、何なら組み手でもするか?」

「組手?」

「言ってしまえば模擬戦だな、あんたは普段通り大剣使えばいい。俺はもちろん、素手だが」

「おいおい、見たところ装備って装備をつけてないが、それでオレと戦うってのか?確かにお前さんは強いんだろうが・・・」

「まぁ、いいじゃないか。俺もあんたの力をみてみたいしな、まずはやってみればいいだろう」

「・・・怪我しても知らねえぞ」


 そういうエイギルだが、またとない機会と思っているのだろう、口元に笑みが浮かんでいる。

 コウを痛めつけられる、とかそういったいやらしい笑みではなく、純粋に強い者と戦えることがうれしいようだ。冒険者として戦う術は多ければ多いほどいいとこれまでの人生で知っているのだろう。

 『魔人』と呼ばれたものと命をかけずに戦えるというのは得難い経験となるはずだ、とエイギルは思っていた。

 アルメリア、ロロナ、エイギルの仲間の冒険者たちが並び、その横約20mほどのスペースでコウとエイギルは組み手をする事に。

 うっすらと周囲に結界のようなものが張られているのは、エイギルの仲間の魔法使いラインの仕業だろう。外に出さないためでなく、この範囲内で戦えということだろう、実際腕と当てようとしてもすり抜けるし。

 そして両者は構える。エイギルは大剣を、コウは拳を。

 特に始まりの合図などはなかったが、お互い構えたときから組み手は始まっていた。


 エイギルは大剣を構え、コウを見据えるが、攻め入るスキが見当たらないと感じていた。

 相手は素手なのだからどこからでも攻撃は当たってもおかしくないとは思うのだが、なぜか己の武器を振っても当たるという気がしないのである。

 しかし、せっかく強者と戦える好機なのだ。

 ただ隙がないからやめるなどということはあり得ない。

 胸を借りるつもりで行くと決める。

 エイギルは大剣を振りかぶり、初手を大上段からの振り下ろしに決めた。

 隙の大きい攻撃だが、コウなら初手を譲ってくれると思った。


「うおおおおおおおおおっ!」


 気合い一閃、唐竹わりにするつもりで放った一撃。

 当たったらとんでもないことになるが音に聞く『魔人』がこれでやられるとも思わなかった。

 しかし、その一撃はコウには当たらずにすぐ横を通り過ぎる。


(外れた・・・?いや、逸らされたってのか!?素手で!?)


 コウの動きは最小限で、まるで動いていないように見える。

 しかし当たる寸前で、大剣の腹の部分に手を添えているのが見て取れたが、なぜそれで大剣の軌道がそれるのか。

 エイギルはすぐさま振り下ろした大剣を切り上げるが、今度は身体を傾けるだけで避けられる。

 またすぐに角度を変えて振り下ろすが、これはくるりと体さばきで避けられる。

 そのまま、何度も切り上げ振り下ろし、横なぎなど使える技を駆使して攻撃するが、そのことごとくが避けられ、また逸らされる。コウはしかし決して大剣の攻撃範囲外には脱出していない。なのにもかかわらずエイギルの攻撃は一度も当たることがなかった。

 やがて、エイギルの攻撃にスキが多くなるとコウは攻撃に移る。

 コウの拳がゆっくりとエイギルに向かう。

 それを見たエイギルは遅いなと疑問に思いつつも大剣でさえぎる。

 そしてコウの拳が大剣に触れ、一瞬の間の後に「ガィン!」と、とても生身の拳の攻撃とは思えない音がする。

 そしてその衝撃に、エイギルは数歩後退させられる。

 その一撃にエイギルはまた驚かされる。

 コウの攻撃は続くようで、懐にするり、とまるでそこにいるのが当たり前かのように入ってきた。

 コウの拳は先程と違い素早いが、決して軽いわけでなく、一撃一撃が重かった。

 エイギルはコウの攻めをしのいでいるように見えるが、実際はコウが武器を攻撃しているのである。

 やがて、エイギルは手がしびれたか、大剣をとり落とす。


「まいった、完敗だ」


 そういって両手を上げて、降参の意を示す。

 こちらの攻撃はことごとく当たらず、あちらの攻撃は手心を加えられていた。

 エイギルはコウの実力の一端を確かに体感したのである。



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