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今日のショートショート〜掌短編集〜  作者: 高山小石


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07.海鳴りの噂

「このあたりはねぇ、出(・)る(・)んだよ」


 なにが、と聞き返さなくても、幽霊的なナニカが出るのだとわかる声音で、海辺で遭遇した見知らぬ老人は言った。


「でも、いつも出るわけじゃあない。前兆があるんだよ。海鳴りだ」


「海鳴りって、神鳴りみたいだけどちょっと違う音のことですよね」 


「そうだよ。だからね、浜辺でその音を聞いたら、すぐに海から離れるといいよ。連れて行かれて仲間にされちまうからね」


「……気をつけます」


「本当に気をつけな。すぐに離れるんだよ」


「はい」


 見知らぬ老人は、通りがかりの私に言いたいことだけ言うと、素直に頷いた私に満足して去っていった。


 老人は私を怖がらせるために言ったんじゃない。親切に忠告してくれていた。


 「幽霊に遭ってしまうかもしれない」「幽霊の仲間にされてしまうかもしれない」恐怖心で、私を助けようとしてくれていた。


 かつての景色がすっかり変わってしまった浜辺に訪れた私を、老人は心配してくれたんだろう。


 人でなくなった今もまだ、訪れた人に心を配ってくれる老人に、私はそっと手を合わせた。

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