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『私の筋肉は、貴方の軽蔑でできている』  作者: たい丸
第1章:開門!「あいつよりマシ」理論の確立

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第5章:名剣の受難、あるいは職人の矜持(を汚す快感)

王都の片隅、今日も「マゾヒスト・アイアン」には不穏な気配が漂っている。 受付のミラが、ゼノスが床に這いつくばって描いた「不快な親父ギャグ相関図」を無表情にシュレッダーにかけていると、重々しい足音と共に一人の短躯の男が現れた。

現れたのは、ドワーフの鍛冶屋・バラム。彼は王都でも指折りの腕利きとして知られていたが、その顔は深い苦悩に歪んでいた。

「……頼む。ワシの魂を、この迷いを断ち切ってくれ」 バラムは、抱えていた布包みをカウンターに置いた。中から現れたのは、息を呑むほどに美しい、白銀の輝きを放つ長剣だった。

「いらっしゃいませ。入会ですか? その鈍器は入り口の傘立てにでも突き刺しておいてください。どうせ、あそこの変態ゼノスを叩くための棒にしか見えませんから」 ミラの、芸術品に対する敬意を欠片も感じさせない言葉が飛ぶ。

バラムは力なく首を振った。 「……これはワシの最高傑作だ。だが、丹精込めて打てば打つほど、これを他人に売るのが寂しくて堪らんのだ。自分の娘を嫁に出すような、いや、それ以上の苦しみだ……。売らねば食えん、だが手放したくない。この執着がワシの腕を鈍らせておるのだ」

「執着、ですか。下らないですね」 ミラは事務的に書類を指し示した。 「あちらに、執着と性癖の塊のようなゼノスがいます。彼にその剣を使わせてごらんなさい。あまりの光景に、その剣が『汚された』と感じ、一刻も早く手放したくなるでしょう。さあ、職人の誇りをゴミ箱へ捨てに行ってください」

バラムが震える手で剣を持ち、トレーニングルームへ足を踏み入れると、そこにはいつも通りの地獄があった。

「あぁぁ……! 静電気! この乾燥した空気が私の体毛を逆立たせ、微細な電撃で私を責め立てている! 世界が私を拒んでいるようで、心臓がバクバクするぞぉぉ!」

ゼノスは、上半身裸で全身に「超伝導ジェル」を塗りたくり、特製の静電気発生装置の横で四つん這いになり、微弱な電流を浴びては「ひぎぃっ!」と悶絶していた。

「ゼノス、客です。自分の打った剣に恋をしている、重症の武器職人様ですよ。あなたの卑劣な肉体で、その『神聖な剣』の価値を根底から破壊してあげなさい」

「はぅっ! ミラさんの声! 私の鼓膜を静電気で直接マッサージされているようだ……!」

ゼノスは這い寄るようにバラムの前に跪くと、その白銀の剣を見上げ、卑屈な笑みを浮かべた。

「鍛冶屋様……! 素晴らしい剣だ! この刀身の輝き、私のようなゴミが映り込むことすら申し訳ないほどの気高さだ! ……だからこそ、お願いがあります」

ゼノスはバラムの足元に額を擦り付けた。 「その剣で……その丹精込めて打たれた最高傑作の峰で……私のこの、不浄で強靭な筋肉を、思いっきり叩いて(峰打ちして)くれませんかぁぁ!」

「なっ……何を!? ワシの剣は、魔物を討つため、国を守るために打ったのだぞ! 変態の筋肉を叩くためではない!」 バラムは激昂した。だが、ゼノスはさらに卑屈に食い下がる。

「いいえ! この剣の真の価値は、私のような『最悪の使い手』に触れられることで証明されるのです! 想像してください! あなたが愛したこの美しい剣が、私の不快な脂ギッシュな筋肉に触れ、あろうことか『叩き心地が良い(はぁはぁ)』と刀身が悦びに震える光景を! それこそが、この剣にとって最大の屈辱……そして最高の教育ではありませんかぁぁ!」

ゼノスはそう言うと、自らの背中をバラムの方へ向けた。 「さあ! 峰打ちです! 叩かれるたびに私が放つ親父ギャグの衝撃波で、この名剣の誇りをズタズタに引き裂いて差し上げましょう! ほら、『鍛冶屋かじや』が、『家事かじ』を忘れて私を叩く! はぁ、最高に寒い!」

「……今の、マイナス90度ですね」 ミラが背後から冷たく追い打ちをかける。 「剣の温度も一気に下がって、硬度が上がるどころか、精神的な脆さが限界突破しそうです。職人さん、早くその剣でこのゴミを始末してください」

「お、おおおおお! 許さん! ワシの芸術を、ワシの娘をこれ以上汚されてたまるかぁぁ!」 バラムは激しい怒りと「この男にこの剣を近づけたくない」という強烈な拒絶反応に突き動かされ、無我夢中でゼノスの背中を(峰打ちで)叩き始めた。

「ひぎゃあああ! 痛い! 痛いのに、剣から伝わる職人の愛情が、私の不浄な血を沸騰させるぅぅ! 剣が……剣が私を『不快』だと言っている! 最高のファンサービスだぁぁ!」

バラムは叩き続けた。だが、叩けば叩くほど、ゼノスの反応が気持ち悪すぎて、剣に対する執着がみるみる冷めていくのを感じた。

(……ああ。ワシは何を執着していたんだ。こんな、変態を叩くための棒に成り下がったものを……。一刻も早く、この剣をどこか遠くへ、誰かまともな騎士の手に渡して、この記憶を洗浄したい!)

一時間後、バラムは憑き物が落ちたような、しかしどこか虚脱した表情でトレーニングルームを出てきた。その手には、かつてあれほど愛した剣が、まるで「汚物」を扱うように無造作に持たれていた。

「お疲れ様でした、頑固職人さん」 ミラが、バラムに(指先でつまむように)入会特典の錆止めオイルを渡す。 「あんなゴミを叩いた剣ですから、もう愛着なんて微塵も残っていないでしょう? 今なら、どんな安値でも市場に流せそうですね」

「……ああ。今すぐにでも売り払って、酒を飲みに行きたい。ワシは、剣を打つのは好きだが、あんなもの(ゼノス)に触れさせるのは二度と御免だ」

バラムは力強い、しかしどこか急ぎ足でジムを去った。翌日、彼の店には「迷いの消えた、研ぎ澄まされた名剣」が並び、瞬く間に売れていったという。

「ミラさん……職人さんのあの、剣を鞘に収める時の『もう二度と視界に入りたくない』という殺意……。私の鞘に、最高の刺激を刻んでくれました……」 「そうですか。そのままあなたの全存在が、誰にも思い出されない不燃ゴミとして、次元の狭間に収穫されることを願っています。埃が舞うので、あまり鼻を鳴らさないでください」

「あぁぁ、次元の抹消! ミラさんによる宇宙規模の蔑み!」

ゼノスが再び喜びのあまりのたうち回る中、路地裏に新たな迷い子が現れる。それは、囚人に情が湧いてしまい厳しくできないと悩む「牢番(看守)」。ゼノスの「世界一脱走しそうな、しかし卑屈な囚人」ごっこが、彼の規律を最悪な形で再定義することになるのだが……それはまた、次のお話。



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