第96話 『ラングの兄』
「次は剣術の修行をしに行くぞ」
「「「剣術の修行!?」」」
「でも、そんなとこ、どこにあるの?」
「剣術の修行ができる場所なんて聞いたことないぞ?」
「………実はな。俺はみんなに伝えてなかったことがあるんだ」
「伝えてなかったこと?」
「俺には兄がいるんだ」
「へぇ~、兄か」
「兄がいたんですね」
「そうなのか」
「「「って、ええええぇぇ!?兄ぃ!?」」」
「兄がいたの!」
いや、驚くの遅ぇよ。
一瞬反応薄いなと思ったぞ。
「で、兄とその剣術の修行に何の関係があるんだ?」
「俺の兄は魔人だけど、職業は『剣聖』なんだ」
「剣聖、ですか?」
「そうだ。兄貴の名前は『ラウィリシャ・ガンデイル』。兄貴はある森の中で一人で毎日修行をしている」
「その場所に行って修行してもらうってことね」
「そういうことだ」
「そうと決まれば、早速行くか」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
昼間の明るい時間にも関わらず、静かな雰囲気を放つ森の空間から靴の歩く音だけが周りに鳴り響く。
俺たちは俺の兄に会うために森の中を歩いていた。
頬を伝る汗が、どれだけの距離を歩いたのか物語っている。
「まだなの?ラング」
汗を拭き、情けない声を漏らすルシア。
「安心しろ。もうすぐ着く」
声を出して無駄な力を使いたくないんだが、俺は仕方なくルシアに説明した。
とは言ったものの、どこにいるのか正確な情報は持ってないんだよな………。
でも、ここにいるのは確かなはずだ。
そんなことを考えながら歩き続けていると、俺たちが進んでいる奥に光が差し込むのが見えた。
「見つけたぞ」
気づいたら俺は疲れているはずなのに走り出していた。
なぜだろう?
久しぶりに兄貴に会えるから?
自分の質問に答えが見つかることなく、俺たちは森から出てしまった。
一気に光が差し込み、思わず手で目を軽く覆う。
「いきなり走らないでください」
「疲れたじゃない!」
後から息を荒らしながらみんながやってきた。
いた!
俺は兄貴を見つけると、みんなの言葉を無視してつい走り出してしまった。
「兄貴!」
大声で兄貴を呼ぶと、彼は振り返り、俺と目があった。
「誰だ、貴様等!」
兄貴は俺の顔を覚えてないのか、剣の先を俺の顔に向けた。
思わず手をあげる。
「ま、待ってくれ兄貴。俺だ、忘れたのか?」
「ん?…………もしかして、ラングか!?」
覚えててくれたか、と安堵のため息をする。
「久しぶり」
「いや、本当に久しぶりだな!」
実にニ年ぶりだな。
兄貴は今年で二十二歳だ。
「ちょ、勝手に話進めんなよ」
「この人たちは?」
「俺の仲間だよ」
「仲間…?」
「ケリウスだ」
「ルシアです」
「ルーベスです」
「レイナ」
兄貴に見つめられて思わず自己紹介をする仲間たち。
「いい仲間を持ったようだな」
「だろ。こんなにいい仲間を持って、俺も誇りに思ってる」
「…………ラング、変わったな」
みんなが俺の表情を伺う。
「……そうか?」
「あぁ、そうだよ。昔はそんなんじゃなかったじゃないか。昔は一人称が『僕』で、純粋な目をしていた。でも今は、『俺』になって、目つきも少し悪くなってる。何か触れてはいけない領域に踏み入れたような目をしているぞ………何かあったのか?」
「…………別に大したことはねえよ。それに大体みんなこんなもんだろう。二年もすれば性格も変わる。別に普通のことだ」
「そうか?ならいいんだが……」
少し疑念を残しつつも、これ以上深入りは止めた方がいいと察したのか、兄貴は俺が何の用でここに来たのかを訊き始めた。




