第94話 『竜王の悲しみ』
竜王は空を舞いながら俺を睨む。
空を飛んでいるからか、見下しているようにも見える。
「何をするつもりだ……?」
緊張の汗が頬を伝る。
俺は警戒を止めずにじっと竜王を見つめた。
すると、竜王は翼を広げたまま、俺のいる方向に向かって、頭を下にして落ちてきた。
俺を踏みつぶそうとしてるのか?
やばい、かなりやばい。
どうすれば、この状況を切り抜けられる。
竜王を見ていると、少しずつ赤色になっていってるのがわかった。
次第にその体は炎に包まれ、燃え盛るようになった。
「あ、あれは、竜王様だけが使えるという、伝説の技。『フェニックス・ドライブ』!」
周りにいたただの竜の一人が丁寧に技について説明してくる。
いらん説明ありがとよ!
不死鳥のような見た目をした竜王は、隕石の如く俺に向かってくる。
竜王が近づいてくる度に、焦りも高まっていく気がした。
どうすればいい。何か武器でもあれば少しでも対抗できるのだが。
…………武器………………!
竜の里に来る前に行ったあの廃校の光景を、走馬灯のように頭を過ぎる。
そういえば、ここに来る前に廃校で、槍を手に入れてたな。
もしかしたらそれが役に立つかもしれない。
勝てるか、勝てないかは知らないが、生き残るルートがあるのなら、足掻いて足掻いて足掻きまくってやる!
俺は覚悟を決めると、瞬時に闇の中から豪華な装飾がされた槍を取り出し、刃先を竜王に向けた。
「そんな見掛け倒しな武器でなんになる」
「そんな戯言、この武器の力を味わってからいうんだな。言っとくが、この武器はナメない方が身のためだぞ」
「フン、なら味わわせてもらうか!」
竜王は俺を睨みながらそう吐き捨て、俺のすぐ近くまで落下してきた。
「終わりだあああああああ!」
終わるのは、おまえだ。
俺は槍を片手でギュッと握り、引いて、竜王が間近までたどりついたところで槍を飛ばし、竜王に放ちつけた。
「ぐはっ!」
槍は放った瞬間に、光を放ち、一瞬で竜王の身体を突き破る。
その瞬間、竜王は体中から大量の血液が溢れ出し、体とともに地面に崩れ落ちた。
ちなみに槍は、俺の右手にワープして戻ってきた。
心に落ち着きを取り戻し、竜王に近づく。
近づいて体を見る限り、もう細胞の再生は不可能だろう。
体の半分以上が粉砕しているんだからな。
でも、まだ息がある。
「なんで、俺が負けた」
「……少なくとも俺の方が運が強かったってことだな」
「く………なんでだ!なんで俺がこんな目に合う!」
感情が盛り上がってきたのか、いきなり怒涛の声をあげる。
「悪いな。おまえの都合は聞いてない」
俺は自分の感情を殺し、槍でトドメを差そうとしたそのとき。
「なぁ、なんでおまえは俺の仲間を殺したんだ。なんで俺を殺そうとする」
「強くなるため。ただそれだけだ」
「おまえには………感情がないのか?」
感情なんて、とっくの昔に捨てた。
今の俺に、『喜び』『悲しみ』などの、そんな人らしい感情はない。
「悪いが、俺の心を揺さぶらせようとしても無駄だ。諦めて死ね」
俺は今度こそ、トドメを差そうと槍を斜めに振り付けた。




