第101話 『修行の終わり』
「シューイチ」
「?」
「おまえが良ければなんだが、俺の仲間にならないか?」
「え」
数秒間、沈黙が流れる。
俺はこの冷めきった空間を破るように話を続けた。
「あ、否、嫌ならいいんだ——」
「いいぞ」
「え……いいのか?」
「あぁ、俺の復讐のサポートをしたくて言ったんだろ?その優しさを無駄にするわけないだろ?」
「シューイチ……」
「なんだ、また仲間つくる気か?」
「ラングだから仕方ないことよ。同情した人は全員仲間に入れたがるんだから」
ああ、ルシアの言う通りだ。
「おい、何話してんだ。真面目にやれ」
兄貴が話を遮るように言ってきた。
「すまん、兄貴。じゃ、これからよろしくな、シューイチ」
シューイチにだけ聞こえるように小声で呟くと、俺たちはまた修行を始めた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今日の修行が終わると、俺は森の近くにある川付近で一人で座っていた。
あたりはすっかり真っ暗になっていた。
すると、いきなり後ろから足音が聞こえた。
その音に過敏に反応し、俊敏に振り返る。
そこにはエデウスが立っていた。
「なんだ、エデウスか………ビビらせんなよ」
「ここにいたのか、探したぞ」
いつものようにだるそうに呟く。
「なんだ、なんか用か?」
「あぁ、シューイチのことでな」
彼はさりげなく俺の隣に座り込むと、話を持ち掛けてきた。
「おまえ、あいつのこと仲間にするとか言ってたが、いいのか?」
「………?…どういうことだ?」
「なんか、あいつが何か企んでるように見えたんだ」
「おまえは疑り深い性格だな。考えすぎだ」
「おまえは危機感がなさすぎだ。そろそろ世界もおまえを危険視しているはずだ。だからおまえを狙う者も現れるはず」
「そんな奴が現れても俺に敵うわけがねぇだろ。俺も色々と経験を積んでるし」
「自分が強いからって楽観的になってんじゃねえよ、このバカ!」
エデウスは偉そうに悪態をつく。
いきなりエデウスに貶され、少し腹が立ったが、それくらいなら我慢はできた。
「でも、あいつはタケルという友人に裏切られたんだぞ?少しは信じろよ」
「それに関しても嘘の可能性があるだろ」
俺が反論しても、構わず跳ね返してくる。
「おまえも過去に裏切られたことがあるんだろ。そのときに学ばなかったのか?それならまた痛い目を見――」
「おい!」
俺も怒声でエデウスの声はピタリと止んだ。
「調子に乗るな」
「……………」
「勘違いすんなよ。俺はおまえの力が欲しいだけだ。おまえは単なる道具でしかない。それを自覚しろ。おまえ、俺のことが信用できねぇのか。なんなら今この場でおまえを殺してもいいんだぞ。また別の堕天使を仲間にすればいいんだからな」
エデウスを鋭く尖った目で睨みつけ、殺意の籠った声を発した。
「………………」
俺の威圧に怖気づいたのか、エデウスは何も喋らない。
俺が怖くなったら萎縮するのか。
フン、とんだ臆病者め。
こいつを選んだのは失敗だったか。
強くても、小心者なら意味がない。宝の持ち腐れというヤツだ。
せめて俺に抗うことぐらいしろよ。
まぁでもそんなことされたら、俺は抵抗できずに死ぬんだがな。
そうだ。この際だから、こいつに奴隷紋を刻み込もう。
こいつに逆らえられたらたまったもんじゃないからな。
俺は空間から『紋章の刻筆』を取り出し、慣れた手つきでエデウスの胸に刻み込んだ。
これでこいつに襲われることはないし、逃げられることもない。
口ではあんなことを言ったが、こいつを失うと後々面倒だからな。
そう簡単に失うわけにはいかない。
「俺はもう戻るからな」
俺はその台詞を吐き捨て、エデウスを置いてみんながいるところに戻った。
それから日が経ち、兄貴の修行も終わりを告げた。
「この数日間、修行してくれてありがとな」
「なぁに、容易いことだ。弟の頼み事でもあるしな」
「…………ありがとう」
俺たちは兄貴に別れを告げ、森を抜けた。




