利用
息をするのもやっとな様子の少女と、その子を見下ろす男が薄暗い部屋にいた。
「もう、無理です。出きません」
「誰が休めと言った?さっさとやれと言ってるの。俺はラミゲル様の命によって、娘に【治癒魔法】を教えることになってる。期間は1年だ。それまで鍛えてやるよ」
「でも、だって……ミアはもう……疲れた。もう魔法は使えない」
ミアは寝込んでいる男に【治癒魔法】をすることを止めた。
「やれよ」
「朝から4回目の【治癒魔法】を使った。どれもミアでなければ治らないような症状だった」
「で、それが?」
「お父様に貴方の事を言いつけてあげる。これで終わりね。貴族を怒らせてこの国で生きていけると思う?」
「できるさ。俺の【治癒魔法】の力があれば、どこの国でも引く手あまたさ。当然この国でもな。国で一番の実力の治癒士であるお前や、ラミゲル様が治せない症状を俺が治せた。この意味が分からないわけはないよな」
「……分かった。もういい。家に帰る」
「ああ、そうだ。言い忘れてたけど、ラミゲル様が君に言っておいて欲しいとのことがあった」
ミアは父の名前が出て、勝ち誇った表情になった。その表所はすぐに崩れるが。
「1年間は決して娘を家に入れないとさ。心を鬼にしてでも俺に心身共に鍛えて欲しいと。ひひひ」
良いカモが手に入ったとケンは内心喜んでいた。代々続く治癒士の家系。下級貴族のラミゲルの繋がりから娘のミアの教育を1年間の期間任された。
代わりに、決して安くない代金を支払う約束をギルドを通じて取り交わした。少しでもお金を稼ぐ理由があるケンには嬉しい限りだ。金だけではなく、国内にいる様々な便宜を図ってもらえることになった。ラミゲルはケンを気に入ってくれたようだ。コネも手に入り一石二鳥以上だ。
ケンは【治癒魔法】を使えるが、理屈なぞ知らない。また、理解する気もなくなった。だから、ミラには精神論で適当に厳しく教えることに。
今はケンの代わりにミラが【治癒魔法】を行使して、治療をしている。何でも治せるが一日一回しかケンは魔法を使えない。そこで目につけたのがミラだった。もともと治癒魔法の実力は他の治癒士と比べて飛びぬけて高い。だからミラに訓練と称して仕事をしてもらってる。金も手に入る。実地訓練をして技術を上げてやる。
「利用」できるものは何でも「利用」してやろうとケンは思った。
「う、うう」
寝込んだ男が苦しそうに呻き声をあげる。
「手が止まってるぞ?この男はもう死ぬかもな。死んだら、お前のせいだな」
「そ、そんなあ……」
ミラと3日も行動を共にした。彼女は【治癒魔法】の才能がある。簡単な傷なら何十回でも治せる魔力を持っている。だが……ケンが受けた依頼は難易度が高い(金額が良い)仕事ばかりだ。今日一日で4回目の依頼に突入。流石の彼女もクタクタになり、精根を使い果たしたようだ。
ケンは高難易度の治療を多く行えば、【治癒魔法】の力が伸びると考えている。ミラがもっと治療できる回数が増えれば早く金を貯められる。
ミラは絶望に表情を曇らせた。が、歯を食いしばり立ち上がる。
「お願い。ミラはもう……魔法は使えない。だから!あんたが【治癒魔法】を使って」
「分かった」
「本当!早く」
嬉しそうな声でケンを急かす。
「ああ、分かった。依頼は失敗だ。違約金を払うことになるが仕方がない。このことで俺の力が大したことがないと知れ渡る?結構。それでも人は最後に俺にすがりつくさ。ケン様~助けて~ってな。ひひひ」
「最低。あんたは最低の屑ね。もうあんたに頼らない。ミラが治す。絶対治してあげる」
ミラは力を振り絞る。男の治療を再開した。
そのかいもあり、男は快方に向かった。
「もう無理?できない?やればできるじゃないか。俺の指導がいいからかな?」
「……」
ミラはケンの言葉を無視して自分の宿に戻って行った。
「この町で金稼ぎが終わり次第、南に向かうか。従順な奴隷が欲しい」




