弟子
依頼主に、両目を治療するとのことなので、最低2日かかることを伝えた。また準備に3日欲しいと言ったら了承してくれた。金額も交渉して金貨1000枚から2000枚に増えた。本当は準備の日数なぞケンに必要ないが、早く治ったらありがたみが感じないと思ったからだ。どうにか、口八丁で治療を延期できた。
(俺って交渉の才能がある?)
「では、ケン約束の日時にここで。受付のスタッフには話をつけておく」
「はい、何かあれば宿かギルドに伝言をお願いします」
一度の【治癒魔法】の仕事で2億円か。目標額には及ばないが、十分終わりが見えてきた。依頼主の男ラミゲル。彼とはパイプを構築しなければ。そのためには失敗は許されない。当日は何が何でも【治癒魔法】を使わないようにしないとな。
「そろそろ、俺の命令に忠実な奴隷でも手に入れるか?2億あれば足りるだろ」
ケンは約束の日時まで小さな依頼を受けたり、奴隷市場の決まり事などを調べていた。
「興奮したせいか早く、目が覚めたな。とりあえず、ウンドウの高級宿に行くか。飯くらい出してくれるだろう」
独り言をいいながら宿から外に出る。
しばらく道を歩いていると、小さな女の子を連れた親がケンの前に立ちふさがった。
「治癒士のケンさんですよね?」
「はい」
最近ケンは他人から話かけられることが多い。【治癒魔法】の腕が広まったことと、外見のせいだろう。俺のような外見の住人はまだ見かけない。黒髪もいないので目立つ。
「良かったぁ。どうか、お願いします。娘を治療して欲しいです」
「はぁ。それは“今”必要なのですか。それと、俺は直接依頼は受けていません。俺の力に御用があれば冒険者ギルドを通してもらえませんか?」
「それでも治癒士かよ。“何でも治せる”凄腕なんだろ。娘を今すぐ診てやってくれ」
「今日は予約が入っているので無理です。明日以降なら値段次第で“治療”しましょう」
「は?天下の治癒士様だろ。金はたんまり持ってるはずなのに、貧乏人から巻き上げるとか恥ずかしくないのか。娘はまだ4歳なんだ。タダで診てくれ」
「……」
小さな子を治療して周りから人気を得るか?否。世の中金だ。金がなければ客ではない。
「……どこが悪いのですか?」
「みて分からねえのかよ。あ?それでも治癒士かあ?」
「……。答える気がないようなので失礼します」
父親とみられる男はケンが去ってもずっとなにやら叫んでいた。
「機嫌がわるいようだな」
「すみません」
ケンは依頼主のラミゲルを前にしても、先ほどあった親子の事を考えていた。気持ちを切り替えなくては。
「それで、どちらから治癒しますか?」
「全く見えない左目から頼む」
「お任せください。では、目を閉じてください」
「はは、いい年して不安で震えてきたよ」
「いきますよ。【奥義】むん」
適当に奥義とか言ってれば、相手もケンがすごいことをしてると思ってくれるはず?だ。
ケンは右手をラミゲルの左目にあてる。ケンの手のひらがほのかに青く光り、やがて光は徐々に明るくなる。2~3秒たった。
「もう目を開けて大丈夫ですよ」
「ぉおお。み、見えるぞ。正に奇跡だ」
ラミゲルは年甲斐もなく喜び、ケンに握手を求めた。
「まだ、半分です。残りの右目は明日にまた治します」
「うむ。………いや、…………これは!でも……?本当に……治すとは」
「では、失礼しますね?」
挨拶を済ませて部屋を出た。
次の日も同じように治した。両目の治癒を終えた。
「ケンよ。ありがとう。感謝するぞ」
「これが俺の仕事ですので、当然の事をしたまでです」
「当然か。……ケンよ。お前は何者だ。お前ほどの【治癒魔法】の使い手をわしは見たことも、聞いたこともない。なぜそれほどの者が最近になって突然現れた?どうやって技を磨いた?」
俺は神様からチートを貰った選ばれたものだ。そこいらの治癒士と比べてもらっては困るから。
「才能です(俺が優れているのは見ればわかるだろ)」
「は、は。才能か」
ラミゲルは何がおかしいのかずっと笑い続ける。
「わしの話をしよう」
断れない。
「え、貴族様だったのですか?」
ラミゲルはケンの予想通りに貴族だった。金貨1000枚も普通は出せないよな。
「ああ、ただ小さな村二つ管理する弱小貴族だった。わしは小さな頃から【治癒魔法】が使えてな。やれ、天才だともてはやされていた。やがて、治癒の力で富を得て、村は発展していった。わしは【再生】の【治癒魔法】が使えてな」
「……?え?それなら自分の目を自分で治療すればよろしかったのではないですか?」
「もちろん、試したさ。わしが出来たのは左目の光を取り戻すのみ。右目は全く効果がなかった。わしの両目は魔の【呪い】によるものだ。こればかりはどうにもならん。いくら治癒士の最終奥義である【再生】が使えても【呪い】は解呪できない」
「で、もう一度聞く。お前は何者だ」
「金さえ出せば、“何でも治す”治癒士です」
「そうか、言わぬか。ミア、出てきなさい」
「はい、お父様」
女の声が後ろから聞こえる。
声の主は14歳ほどに見える少女だった。格好は地球で言うところの修道服?のような黒色の服装を着ていた。
「こちらはミア。わしの娘である。そして、国でわしを入れて3人目の【再生】の【治癒魔法】の使い手である。金は払う。便宜も図らってやろう。ミアをケンの弟子にしてやってくれないか?」




