第四十二話:星空の渡り廊下と、不可視の生徒指導
鉄壁の副会長リサの限界ポンコツ化で大盛り上がりだった生徒会室に、突如降りかかる非常事態!
リリィちゃんのお土産を巡り、武装残党部隊が学園を包囲しちゃいました。
怯えるリリィちゃんを前に、生徒会の過保護スイッチが完全オン!
リリィの前では「楽しいスタンプラリー」、背後では「容赦のない瞬殺劇」!
タクトの障壁で目隠しして、セナが派手に盛り上げ、アイラとリサが笑顔で敵を片付ける!?
笑顔の裏のバイオレンスアトラクションをお楽しみください!
ノアが魔導端末を高速操作し、ホログラムスクリーンに学園敷地全体の立体防衛マップを投影する。
外周の第一防衛結界付近に、赤く点滅する複数の侵入者シグナル(約20名規模の武装小隊)が急速に接近しているのが映し出される。
「外周結界の北西ゲートおよび旧体育館側のセンサーが反応。……侵入部隊は軍用の消音装備と光学迷彩を展開しています。プロの強襲小隊です」
室内の張り詰めた殺気と重苦しい空気を敏感に察知し、リリィがリサの制服の裾を両手でギュッと握りしめて涙目になる。
「お姉たま……? なんだかお外がピリピリしてて、怖いのなのです……。リリィ、やっぱり悪いもの持ってきちゃったのですか……?」
リサは胸が張り裂けそうになりながら、リリィを抱き寄せ言う。
「い、いいえ! そんなことはありません! リリィは何も悪くありません、お姉ちゃんが絶対に守りま――」
パニックで再び限界化しかけるリサを遮るように、私はポンと元気よく両手を打ち鳴らし、満面の笑顔でリリィの前へしゃがみ込む。
「ふぇ……? アイラお姉ちゃん……?」
こんな可愛らしい子を怖がらせるなんてとんでもない。
「実はね、そのキラキラの石は、今夜の桐花学園でしか遊べない『特別体験入学ゲーム』のゴールのお宝なんだよ!」
セナも即座に話を合わせてノリノリで割り込む。
「そうそう! リリィちゃん超ラッキーじゃん! 年に一度のシークレットイベント引き当てたんだよ〜!」
「たいけん、にゅうがく……? ゲームなのですか……!?」
「そう! 学園の中にある3つのチェックポイントを回って、最後にお宝を一番安全な『秘密の金庫』に納めたら、リリィちゃんが生徒会名誉チャンピオンになれちゃうの!」
リリィが「わぁぁ……!」と目を輝かせた瞬間私は生徒会メンバーへ鋭い視線を走らせる。
メンバー全員が阿吽の呼吸で無言の頷きを交わし、リリィの視界からバイオレンスを徹底的に隠蔽しつつ敵を殲滅するための役割を瞬時に確定させる。
タクトは苦笑しつつ魔導腕甲の出力を静かに上げる。
「……了解っす会長。俺はリリィちゃんの視界を塞ぐ『目隠し偏向』と防音結界を担当します」
セナはノリノリで言う。
「アタシは案内役兼盛り上げ担当ね! リリィちゃんの視線を派手に引きつけて、背後のバイオレンスから完全にお手玉してあげる!」
ノアも眼鏡を直しながら言う。
「校内放送設備と防犯カメラの回線をジャックします。敵の侵入ルートを分散させ、1班ずつ各個撃破できる『誘導ルート』を構築します」
セリアも棚のポーションを取り出しながら言う。
「ふふ、血生臭い匂いは教育上よろしくありませんわね。一瞬で眠りに誘う特製の無臭催眠ポーションをご用意いたしますわ」
リサは眼鏡をクイと押し上げ、絶対零度の冷気を静かに纏う。
「……敵部隊の物理的排除は、私と会長で行います。妹の純真を汚す外道どもには、骨の髄まで冷え切った生徒指導を叩き込みましょう」
リサがリリィの小さな手を優しく包み込み、聖母のような極甘の笑みを浮かべる。
「お姉たま! リリィ、ゲーム頑張るのです!」
「ええ、ええ、リリィは本当に良い子ですね……! さあ、参りましょう。お姉ちゃんが最高に安全で楽しい学園をご案内しますからね」
ふふ、リサにこんな一面があるなんてね。
私は生徒会長の魔導指揮杖をくるりと回して肩に担ぐ。
「それじゃあ、桐花学園・夜の体験入学ツアー……しゅっぱーつ!」
一行は生徒会室の扉を開け、静まり返った夜の校舎へと足を踏み出す。
無邪気にスキップするリリィを囲みながら、生徒会一行は第一のチェックポイントへ向けて移動を開始する。
ガラス張りの長い渡り廊下を、リリィがリサと手を繋いで楽しそうに歩いている。
先頭を歩くセナが、インカムでノアからの「頭上ダクトに敵性反応3、直上です」という警告を受信する。
セナは表情一つ変えずに満面の笑みを作り、大袈裟なジェスチャーでガラス窓の外、満天の星空を指差す。
「見て見てリリィちゃん! あっちの窓から見える星、超キレイじゃない!? あのキラキラ光ってるやつ、もしかしたら『お宝の星』かもよ〜!」
「わぁぁ……! 本当なのです! 星がいっぱいあるのです!」リサはリリィの頭を優しく窓の方へ向けさせつつ、背後へ冷え切った殺気を放つ。
「……ええ、とても綺麗ですねリリィ。そのまま外をよく見ていなさい」
リリィの注意を完全に窓の外へ釘付けにし、背後の廊下中央から完全に意識を逸らさせる。
リリィが窓の外へ顔を向けたコンマ数秒の隙。
渡り廊下の天井点検ダクトのフタが無音で外れ、黒づくめの戦闘服を着た残党兵3名が逆さ吊りの姿勢で滑り降りてくる。
敵の手には消音魔導銃と、青黒い毒刃のサバイバルナイフ。
廊下にいるタクトが即座に反応し、両腕の魔導腕甲から藍色の魔力を瞬時に展開。
リリィの後頭部からわずか数十センチの空間に、『不可視の偏向屈折面(光の目隠し)』と『防音結界』を同時に展開。
タクトは小声で囁くように言う。
「……『屈折偏向面・サイレント遮断』展開。リリィちゃんの視界と聴覚、完全に隔離したっす!」
「(通信)目標の小娘を確保――なっ、空間が歪んで……!?」
「撃て、邪魔な学生どもを排除しろ!」
焦った残党兵2名が消音魔導銃の引き金を引く。
放たれた数発の徹甲魔導弾がアイラとタクトへ迫るが、タクトが張った偏向障壁の表面で「ボスッ、ボスッ」と軽い風切り音程度に威力を減衰・吸収される。
弾かれた銃弾の軌道はすべて天井の吸音材の中へと直角に逸らされ、ガラス一枚割ることもない。
タクトは涼しい顔で腕甲を構えたまま、背後のアイラへ合図を送る。
「銃声は全部カット済みっす。跳弾もゼロ。……会長、どうぞ!」
相変わらずナイスねタクト!
私は魔導指揮杖を優雅に構え、極上の笑顔を浮かべる。
「……ご苦労さま、タクト。生徒会の廊下で鉄砲ごっこなんて、いい度胸じゃない」
リリィは窓を見ながら
「ん……? お姉たま、なんだか後ろで『ぽすん』って音がしたのです?」
と言う。
リリィが不思議そうに振り返ろうとする。
リサが素早くリリィの両肩を優しく抱き寄せ
「あちらの星の方がもっと輝いていますよ」
と巧みに視線を戻させる。
リリィには天使のような声で
「ほらリリィ、あちらに大きな星が見えますよ」
と、言う。
背後の敵へはハイライトの消えた絶対零度の声で
「……我が妹の楽しい学園見学を邪魔した罪、その命で購いなさい」
……と言う。
差が激しすぎて私は思わず吹き出しそうになる、が
「笑顔のまま、秒速で片付けるわよ!」
と、号令をかける。
タクトの障壁に銃弾を弾かれ、動揺して体勢を崩した残党兵の先頭へ向け、アイラが床を音もなく蹴って肉薄する。
生徒会長の魔導指揮杖を逆手に構え、満面の作り笑みを浮かべたまま踏み込む。
指揮杖の石突に『瞬間凝固』の魔力をピンポイントで乗せ、男の鳩尾へ吸い込まれるように正確無比な打撃を撃ち込む。
空気がギチリと軋む無音の圧縮衝撃波が男の体内にのみ浸透し、声すら上げさせずに肺の空気をすべて吐き出させる。
私は天使のような微笑みのまま、ドスの利いた小声で
「……廊下は走っちゃダメって、教わらなかったかしら?」
と言う。
残党兵は
「ガッ……!?」
と、白目を剥いて前のめりに崩落する。
先頭が一瞬で沈んだことに戦慄した残りの2名が、ナイフを構えて左右からアイラへ飛びかかろうとする。
その瞬間、リリィの頭を優しく胸元に抱き寄せ、ポンポンと頭を撫でていたリサが動く。
リサは極甘な声でリリィへと囁く。
「ふふ、リリィ、今日のお星様は一段と綺麗ですね」
何その声私聞いたことないんですけど!?
リリィに背を向けさせたまま、空いている左手を背後へ向け、眼鏡の奥の瞳から完全にハイライトを消す。
そして背後の敵へ絶対零度の声を向ける。
「……『氷葬連環』。我が妹の視界に入ることすら、万死に値します」
パチンと微小な指パッチンを鳴らした瞬間、廊下の床から青白い永久凍土の氷が蛇のように這い上がり、飛びかかった残党兵2名の両脚から首元までを一瞬で駆け上がる。
「バキバキッ!」と超低温の氷柱が凝固し、2名は武器を構えた空中の体勢のまま、首から下を完全にカチコチに氷漬けにされる。
残党兵二名は氷漬けのまま恐怖で歯をガチガチと鳴らす。
凍りついて震える兵士たちの前へ、セリアが優雅に歩み寄る。
袖口からフラスコ型の「特製・無臭催眠アンプル」を取り出し、兵士たちの鼻先でプチッと割る。
「ふふ、良い夢をご覧なさいな。目が覚める頃には生徒指導室の地下牢ですけれど」
甘く微細な粒子が吸い込まれた瞬間、残党兵3名は完全に白目を剥き、幸福そうな寝息を立てて脱力する。
間髪入れず、セナが天井の梁から極細の魔導ワイヤーをシュッと投げ下ろす。
気絶した3名の身体を手際よくミノムシのようにグルグル巻きにし、天井点検ダクトの暗がりの中へ音もなくキュルルッと釣り上げて隠蔽する。
セナは小声で言う。
「はい、ゴミ回収完了〜! タクト、障壁解いてオッケー!」
「ふぅ……戦闘開始から完全隠蔽まで『4秒』。ギリギリセーフっすね」
タクトが偏向障壁を解除し、光と音が自然な廊下へと戻る。
ちょうど外の星空を眺め終えたリリィが、「お姉たま!」と満面の笑顔で振り返る。
そこには、何事もなかったかのように優雅に佇むアイラ、眼鏡をクイと直すリサ、爽やかに微笑むセリアとタクトの姿。
リリィは天井裏へ吸い込まれていった一瞬の影を「アトラクションの演出」と信じ込み、小さな両手をパチパチと叩いて大喜びする。
「わぁぁ! いま、あたまの上にお人形さんがビュンッて飛んでいったのです! 生徒会の手品、すっごくかっこいいのです!」
私は完璧なアイドルスマイルで言う。
「えへへ、楽しんでもらえたかな? まだまだ体験入学は始まったばかりだよ!」
「ええ、リリィ。次は第二のチェックポイント――『中央図書館の大書架』へ向かいましょう」
「よーし、リリィちゃん! 次はもっとおもしろい本棚の迷路だよ〜!」
天井まで届く吹き抜けの大書架ホール。
魔導で自動浮遊・巡回する脚立や、空中をふわりと飛ぶ魔導書たちの幻想的な光景が広がる。
セナが案内役として、本棚のからくりを動かして星型のスタンプが押せるチェック台へリリィを誘導する。
「じゃじゃーん! ここが第二のポイント、魔法の大図書館だよ〜! ほら、この本棚のボタンを押すと……?」
リリィはボタンをポチっと押す。
「……わぁぁ! お星様のスタンプが出たのです! お姉たま、見て見て! 二つ目集まったのです!」
リリィは手帳にペタッとスタンプを押し、両手を挙げて大喜びする。
リサはしゃがみ込んでリリィの頭を優しく撫でる。
「ええ、とても上手に押せましたねリリィ。この調子で最後のゴールを目指しましょう」
私は周囲の本棚の影を警戒しつつ微笑む。
「うんうん、名誉チャンピオンまであと一つだよ!」
和やかな空気の背後で、ノアが壁際に立ち、魔導端末のキーボードを猛烈な速度で叩く。
端末の画面が真紅に染まり、「WARNING: DEFENSE CORE COMPROMISED」の点滅が走る。
ノアが青ざめ、アイラとタクトへ向けて身を寄せて小声で緊迫した報告を上げる。
「……まずいです会長。渡り廊下の部隊は単なる陽動でした。敵の本体――部隊長率いる本隊が、旧校舎地下の『学園防衛結界中枢』へ直接突入しました」
「なっ……! 旧校舎の結界炉だと!? あそこ、体育祭の時に細工されたあの場所か!?」
「はい。外部からの遠隔ハックを受け、防衛結界の安全プロトコルが順次強制解除されています。あと数分で学園全体の防護膜が消失し、待機している残党本隊が一気に敷地内へ雪崩れ込んできます!」
「生徒たちが寮で就寝している時間帯ですわ。外周の結界が完全に落ちれば、無関係の生徒たちまで巻き込まれかねませんわね……」
その時、図書館の天井スピーカーから「キィィィン……」と耳障りなハウリング音が響く。
旧校舎の放送室設備を掌握した残党の部隊長の冷酷でしゃがれた声が、全館拡声放送を通じて生徒会へ通信を割り込ませてくる。
『……聞こえているか、桐花学園生徒会。それから、ヴァルハイト家の小娘ども』
図書館の空気が一気に冷え込み、リリィがビクッと肩を跳ねさせてリサの足元に隠れる。
「ふぇ……? こ、こわい声のおじさん……?」
『貴様らが持ち去った古代遺物『極光の核石』は、本来我が軍部強硬派の悲願たる巨神機の再興に必要な至宝。……大人しく旧校舎の広場まで持ってこい』
『さもなくば結界を全面停止させ、この学園を火の海に変える。……素直に石を差し出せば、その愛らしい妹の命だけは助けてやるぞ』
「妹の命」という単語がスピーカーから響いたその瞬間。
リサの銀縁眼鏡の奥の瞳から、完全に光が消え失せる。
リサの周囲の大気中の水分がミシミシと音を立てて結晶化し、図書館の絨毯が足元から円形に凍りつき始める。
リサは極限まで冷え切った声で言う。
「……万死。いや、億死に値します。我が妹を……その汚らわしい口で脅迫の道具にするとは……骨の髄、細胞の1つ残らず絶対零度で凍結粉砕して差し上げます」
あ、まずいまずい。
私は慌ててリリィの耳をふさぎ、リサの肩にポンと手を置いてその怒りを制しつつ、自身も不敵で猛烈な闘志の笑みを浮かべる。
私も指揮杖を肩に担ぎ、真紅の瞳をギラリと光らせる。
「……言ったわね、残党のおじさん。生徒指導室の始末書どころか、今夜中に全員ブタ箱へ叩き込んであげるわ」
私はリリィへ極上の笑顔を向けて言う。
「リリィちゃん! いよいよ体験入学アトラクションのクライマックス――『悪者のお人形さんたちの親玉退治』の時間だよ!」
「おやだまたいじ……! お姉たまたち、やっつけちゃうのですか!?」
リサもリリィに向き直り、天使の笑顔で微笑む。
「ええ、リリィ。お姉ちゃんたちが一瞬で、とても綺麗にお片付けして見せますからね」
タクトも魔導腕甲をガシンと鳴らし不敵に笑う。
「旧校舎まで最短でカチコミっすね。防壁も突入路も、俺が全部こじ開けますよ!」
「アタシら生徒会を怒らせたらどうなるか、あの残党ボスに骨身にしみる体験入学を受けさせてあげようじゃん!」
リリィを中央に護衛しながら、生徒会一同は怒りと殺気を笑顔の裏に隠し、結界中枢の旧校舎前広場へと駆け出す。
まぁ後ほどセリフとして入れようかなと思ってるんですけど、アイラは「何よその天使スマイル!!私に普段向けてくれたっていいじゃない!!」って思ってると思います、はい。




