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第四十三話:笑顔の裏の瞬殺劇と、ちっとも甘くない生徒指導

旧校舎前広場に陣取る残党部隊長率いる本隊。

妹リリィちゃんを守るため、生徒会総出の「完全舞台偽装」が始まります!

銃弾の雨はタクトの偏向膜でお遊戯会の木琴の音に変換、ノアが照明をファンタジーに書き換え、セリアの脱力香とセナのワイヤーで敵兵はミノムシ状態に!

そして残るボスには――激怒したリサの氷結と、私の破砕撃のツープラトン!

妹ちゃんの笑顔と平和を取り戻し、山積みの始末書と戦う大団円をお楽しみください!


旧校舎前広場の入口に生徒会一行が到着。タクトとセナが左右からリリィを挟み込み、死角を作らないようさりげなく身を寄せる。

石階段の上、結界制御盤をハッキング中だった残党部隊長が、重々しい足音を立てて階段の縁へ進み出る。

「クク……拡声器で脅されて、ノコノコと全員でやってくるとはな。名門学園の温室育ちどもめ、妹可愛さに判断力まで失ったか」

「そのポシェットの中の『極光の核石』をこちらへ放り投げろ。さもなくば、この結界中枢を完全に過負荷自爆させ、学園ごと吹き飛ばすぞ」

黒く角ばった重装魔導甲冑に身を包み、手には大型の魔導重火砲を抱えている。

背後には、軍用戦闘服と防寒マントを纏った本隊の残党兵10名が扇形に陣取り、一斉に銃口を生徒会へと向ける。

ノアが私の背後で端末を操作し小声で言う。

「結界炉のバイパス完了まで残り3分です。奴の持っているマスターキーを奪還すれば、即時復旧できます」

銃口を向けられた物々しい空気に、リリィが再びビクッと身体を震わせ、リサの服をギュッと掴む。

そこでセナがおどけたポーズを取り、両手を広げて大袈裟に拍手してみせる。

リリィの目線に合わせ、満面の笑みで階段の上のボスを指差す。

「わーっ! 見て見てリリィちゃん! あれがスタンプラリーの最終チェックポイントにいる『悪のお人形さん親玉』だよ〜! 甲冑とか着て超本格的じゃん!」

「ふぇ……? あれも……お人形さんなのですか……? なんだかおっきくて、ゴツゴツしてるのです!」

「そうそう! アトラクションのラスボスだからね! あのボスをぽてんと倒せば、リリィちゃんが生徒会名誉チャンピオンだよ!」

「めいよ、ちゃんぴおん……! お姉たま、アイラお姉ちゃん、がんばってやっつけるのです!」

自分たちの威嚇がまるで子供だましの劇のように扱われ、残党部隊長が額に青筋を浮かべて激昂する。

銃を構える部下たちへ向けて、苛立たしげに右手を振り下ろす。

「舐めた真似を……! お人形ごっこだと? ガキどもめ、現実の血の色を教えてやる! 全員撃て! 足を撃ち抜いて小娘から石を奪い取れェッ!」

「「ハッ!!」」

一斉に10丁の魔導小銃の銃口が火花を散らし、広場へ徹甲魔導弾の弾幕が撃ち放たれる。

降り注ぐ銃弾に対し、私は一歩も引かず、魔導指揮杖を優雅にくるりと回して構える。

その横で、リサの眼鏡の奥の瞳から完全に光が消え去り、極限の冷気とともに口元にだけ張り付いたような笑みが浮かぶ。

そしてリリィへ極甘の囁きをする。

「リリィ、目を閉じて3秒数えなさい。目を開けた時には、お人形さんたちの楽しいダンスが始まっていますよ」

「はーいなのです! いーち、にー……」

そして私も天使のような笑顔のまま、ドスの利いた声で言う。

「――タクト、セナ、舞台装置オン! 妹ちゃんの前で、盛大な生徒指導ショーの開幕よ!!」

「了解っす! リリィちゃんの視界も聴覚も、全部お花畑に変えてやりますよ!」

タクトが魔導腕甲を前方に交差させ、光の屈折膜を広場全体へ展開する準備を整える。


残党兵10名が一斉に撃ち放った無数の徹甲魔導弾が、雨あられとなって生徒会一行へ降り注ぐ。

タクトが両腕の魔導腕甲を豪快に地面へ叩きつけ、藍色の高密度魔力を広場全体へ波紋状に展開。

リリィの周囲数メートルを覆う半球状の『多重偏向屈折ドーム』と『指向性音響変換結界』を瞬時に同時励起。

激突した徹甲弾はすべてドーム表面でツルツルと直角上方へ滑るように偏向され、夜空の彼方へ跳ね返される。

「なっ……弾丸がすべて上空へ滑り落ちていく……!? なんだあの障壁は!」

同時に、防音結界の音響フィルターにより、本来なら鼓膜を破るはずの「ズダダダダッ!」という轟音が、子供用のおもちゃのような「ポコポコポコ……」という軽やかな木琴の音へと強制変換される。

タクトは歯を見せてニヤリと笑い、腕甲の出力を維持する。

「へっ、俺の障壁はただ弾くだけじゃねぇんだよ! 音も衝撃も、リリィちゃんには全部『お遊戯会のBGM』に聴こえてるぜ!」

リリィは目を閉じたまま楽しそうに言う。

「……さん! わぁ、ぽこぽこ鳴ってて楽しい音楽なのです!」

タクトの障壁の内側で、ノアが黒革の魔導端末を高速フリック。

旧校舎の外壁に設置されていた防犯用投光器と、非常灯の制御回路へオーバーライドパケットを一斉送信。

警告用の赤色灯が瞬時に書き換えられ、ピンク、エメラルドグリーン、パープルの鮮やかな光が広場全体をリズミカルに照らし出す「ファンタジーなスポットライト」へと変貌する。

「校内非常照明プロトコルを改変。照度を最適化し、催事用イルミネーションモードへ移行しました」

「ナイス演出ノアくん! ほらリリィちゃん、アトラクションのスペシャルステージが開演だよ〜!」

目を開けたリリィの視界には、硝煙と暗闇ではなく、きらびやかなテーマパークのステージが広がる。

リリィは目を開けて目をキラキラと輝かせる。

「わぁぁぁっ! キラキラのステージなのです!」

階段上の残党兵たちが次弾装填のために散開しようとする。

その風上から、セリアが優雅に腕を振り、淡い桃色の粉末が入ったフラスコを扇状に振り撒く。

微細な香気粒子が風に乗り、兵士たちの鼻腔へ音もなく吸い込まれる。血生臭い火薬の匂いが、甘いフローラルの香りへと一瞬で上書きされる。

吸い込んだ兵士たちの膝がガクガクと震え、魔導小銃を取り落としてその場へヘナヘナと崩れ落ちる。

「な、なんだ……身体に力が入ら……腕が……!?」

「ふふ、生徒の教育環境に乱暴な武装は不要ですわ。『広域筋弛緩パウダー』、お気に召していただけましたかしら?」

間髪を入れず、セナが広場の街灯や旧校舎のバルコニーを足場にして空中を縦横無尽に疾走。

両手から放たれた極細の「高伝導魔導ワイヤー」が、倒れかけた残党兵10名を一網打尽に絡め取る。

「はい、ミノムシカーテンいっちょあがり〜! リリィちゃん見て見て、お人形さんたちの空中サーカスだよ!」

ワイヤーをキュルルッと巻き上げ、10名の兵士たちを旧校舎の軒下へミノムシのように綺麗に宙吊りにして並べていく。

「すごーい! お人形さんたちがぷらぷら揺れてダンスしてるのです!」

わずか十数秒の間に本隊10名を無力化&宙吊りにされ、石階段の頂上で部隊長ただ一人が取り残される。

部隊長は「ば、馬鹿な……我が部隊が一瞬で……!?」と顔を青ざめさせ、慌てて大型魔導重火砲を構え直す。

「お、のれ……化け物どもが! 貴様ら全員、この重火砲で消し炭にしてくれるわァッ!」

その男を見上げる位置から、私は指揮杖を肩に担ぎ、リサが静かに眼鏡のブリッジを押し上げる。

私たち二人はリリィに向けては極上の笑顔を保ちつつ、階段の上のボスへ向けては容赦のない殺気のプレッシャーを叩きつける。

私は天使のような笑顔のまま、階段へ一歩足を踏み出す。

「ふふっ、リリィちゃん、サーカスの後は何だと思う?」

「なになに? アイラお姉ちゃん!」

リサはリリィの頭をそっと撫で、絶対零度の冷気を足元から立ち上らせる。

「……ええ、アトラクションの主役による、悪者退治のフィナーレですよ」


部下が一瞬で全滅させられ、泡を食った部隊長が「ふ、ふざけるなァッ!」と絶叫。

両腕で抱えた大型の軍用魔導重火砲のトリガーを握り込み、砲身の冷却スリットから禍々しい赤黒い閃光を噴き散らして最大充填を開始する。

階段を駆け上がってくる私とリサを、階段ごと吹き飛ばそうと照準を合わせる。

「舐めるなよ学生風情が! 我が軍の技術を結晶させた圧縮魔導砲だ! まとめて消し炭にして――」

リサは階段を一段飛び越えながら、冷涼な瞳のハイライトを完全に消す。

「……その汚らわしい指を、二度と妹へ向けられないようにして差し上げます」

リサが空中で眼鏡のブリッジを優雅に直すと同時に、左手を石階段の踊り場へ向けて一閃。

「『絶対凍土の氷棺コキュートス・コフィン』。冷気で脳細胞まで冷やし、己の不敬を悔いなさい」

パチンと澄んだ指パッチンが鳴り響いた瞬間、旧校舎の石階段全体が青白い永久凍土の氷原へと一瞬で変貌する。

氷の蛇のようなクリスタルが部隊長の足元から噴き上がり、重装魔導甲冑の両脚、腰、そして重火砲の砲身ごと両腕を瞬時にカチコチに凍結・拘束する。

撃ち放たれようとしていた高熱の魔力砲が、砲口ごと絶対零度の氷に塞がれて「バチチッ!」と内部で不発・強制冷却される。

「な、重装甲冑が……凍りついて動かん……砲身が暴発……!? 馬鹿な、無詠唱でこの規模の氷結だと!?」

氷結拘束されて四肢の自由を完全に奪われた部隊長の眼前。

階段の氷面を滑走するように、私は魔導指揮杖を上段に構えて音速の踏み込みを見せる。

リリィにはまるでお姫様のドレス翻しに見えるような優雅なターンから、一転して瞳に熾烈な黄金の闘志を宿す。

指揮杖の先端に、大気中の魔力分子を極限まで圧縮した『瞬間凝固』の衝撃波を凝縮。

部隊長の胸部、もっとも頑丈なはずの重装甲冑のど真ん中へ、完璧な一点集中の突きを撃ち込む。

私は満面のアイドルスマイルのまま、ドスの利いた声で言う。

「――生徒の安全と妹ちゃんの笑顔を脅かした罪! 桐花学園生徒会長として、特別指導完了よ!!」

「ぐ、がはァッ……!?」

ドゴォォォォンッ!!という重低音の衝撃波が炸裂。

厚さ数センチの重装甲冑がくの字にひしゃげて粉々に砕け散り、部隊長の巨体が石階段の上から旧校舎の外壁へ向けて一直線に吹き飛ぶ。

背後のレンガ壁にクレーター状の蜘蛛の巣状のヒビを刻み、白目を剥いて完全に気絶・崩落する。

砕け散った氷と装甲の破片は、タクトの偏向膜によってリリィの足元には一粒も届かず、宙でキラキラと光る演出用の紙吹雪のように舞い散る。

私は指揮杖をくるりと回して背中に納め、リサが息を整えて眼鏡を押し上げる。

「ふぅ……! これでボス戦終了!」

リサはすかさずリリィの方を振り返り、慈愛に満ちた聖母の笑みを浮かべる。

「ふふ、リリィ。悪者のお人形さんは、綺麗にお片付けされましたよ」

リリィはタクトの結界の中で両手を上げてピョンピョン跳ねる。

「わぁぁぁぁっ!! お姉たま、アイラお姉ちゃん、すっごくかっこいいのですーーっ!!」

歓声を上げて駆け寄ってくるリリィを、リサがしゃがみ込んで満面の笑みで抱き止める。


ノアが旧校舎石階段の上の結界制御端末にケーブルを繋ぎ、高速タイピングでマスターキーを再認証する。

端末の警告赤色灯が消え、学園を包む淡い青緑色の防衛結界が正常稼働へ復帰する。

「学園全域の防衛結界中枢、再掌握完了。外部ハックを遮断し、憲兵本部と学園長室へ『旧軍部残党の不法侵入現行犯拘束』のデータを送付しました」

下の広場では、壁にめり込んだ部隊長とミノムシ状態の部下10名を、セナの魔導ワイヤーとタクトの拘束杭で完全にグルグル巻きに梱包。

セリアが「目覚まし用の解毒アンプル」を憲兵隊引き渡し用のタグと一緒に敵の胸元へ添える。

「ハイ、お人形さんたちの梱包完了〜! 憲兵のおじさんたち、明日これ見たらビビるだろうね〜!」

「偏向膜で衝撃音は逃がしたっすけど、壁のヒビだけはどうにもならなかったっすね……」

タクトが広場の偏向結界を解除し、夜風と月明かりが穏やかに広場を照らし出す。

アイラがポケットから、ノアが急造した「桐花学園・特製生徒会ゴールドバッジ(金色のリボン付き)」を取り出す。

リサの腕から降りてトコトコ駆け寄ってきたリリィの前で、アイラが膝をついて胸元にバッジをパチンと留めてあげる。

「特別体験入学スタンプラリー、全ミッションコンプリート! リリィちゃん、生徒会名誉チャンピオン合格よ!」

「わぁぁぁぁっ! きんぴかのメダルなのです! リリィ、チャンピオンなのです!」

リサは駆け寄ってリリィをギュッと抱きしめ、頬ずりしながら極甘の声をあげる。

「ええ、ええ、本当によく頑張りましたねリリィ! 世界一勇敢で、世界一誇らしいお姉ちゃんの自慢の妹です……!」

セナはスマホを構えて激写する。

「はいチーズ! あの冷徹副会長のトロけ顔、本日ベストショット更新〜!」

リサはリリィを抱いたままセナへ極冷の目線を向ける。

「……後でその端末のデータをすべて提出しなさい」

……殺されかねないぞ、セナ。

ほのぼのとした空気が流れる中、夜空の彼方から「ヒヒィィン!」と天馬の嘶きが響く。

ヴァルハイト公爵家の家紋が輝く、夜間飛行用のペガサス馬車が旧校舎前広場へと滑らかに着陸する。

ドアが開き、降り立ってきたのは療養から復帰したばかりのギルバート。

ギルバートは相変わらず真顔のまま、壁にめり込んだ残党ボスと、ミノムシ状の兵士たちを一瞥し、深く腕を組む。

「……アイラ、リサ殿。帝都の本邸で妹君が失踪したと大騒ぎになっていた故、捜索に出てみれば……相変わらず派手にやっているな」

「お兄様! もう動いて大丈夫なの!?」

「セリア殿の薬のおかげでな。それより……リリィ嬢、ご両親が泣き崩れておられるぞ。至急本邸へお連れせねばならん」

「ギルバートのお兄ちゃんなのです! あのね、リリィ、お姉たまと体験入学で悪者をいっぱい倒したのです!」

「……うむ、壁にめり込んでいる残党を見るに、実に教育的で有意義な実習だったようだな」

「お兄様、変に納得しないで!?」

『極光の核石』は公爵家および魔法省の最高機密金庫で再封印するため、ギルバートが厳重な魔導ケースへ回収。

リリィは馬車の窓から身を乗り出し、「お姉たま、また遊びに来るのです!」とちぎれんばかりに手を振る。

リサはハンカチを握りしめて今生の別れのように名残惜しそうに見送る。

馬車が飛び去り、静まり返った生徒会室へ戻ってきた一同。

「リリィ……風邪を引かないようにね……暖かくして眠るのですよ……」

しかし、執務机の上には、ノアによってガサッと新たな書類の束が置かれる。

「はいはい副会長、妹離れしなよ〜。……って、ノアくん何その紙束?」

「学園長室および施設管理部からの緊急令達です。『旧校舎外壁損壊修繕費』および『夜間校内魔力兵装無許可発動始末書』、全36枚です」

私は白目を剥いて机に突っ伏す。

「げぇぇぇぇぇっ!? また始末書ぉぉぉ!? 妹ちゃん守って敵の残党捕まえたのに、なんで私が書類と戦わなきゃいけないのよ〜〜〜っ!!」

リサはスッと涙を拭い、一瞬で冷徹な副会長の顔に戻って眼鏡をクイと直す。

「当然です、会長。……公爵家の威厳と妹の安全を守り抜いた代償です。今夜中にすべて清書していただきますよ」

「リサの切り替え早すぎぃぃぃぃっ!!というか私にもあの天使スマイル向けてくれたっていいじゃない!?」

「あっあれは……!!リリィ限定ですっ」

「ちぇ、少しくらい私に優しくしてくれたっていいのに〜」

「そんなバカなこと言ってないで早く書類に目を通してください」

「あーもうリサの鬼!!」

タクトたちは顔を見合わせて苦笑している。


夜の生徒会室にアイラの絶叫と仲間たちの笑い声が響き渡る。

第四章完結です!お疲れ様でした!

すみません、五章を凄まじい勢いで更新したせいでストックが尽きて、一日一更新になってしまい……

七章も多分それくらいの更新になると思います。

リサの妹愛が暴走する第六章、いかがでしたでしょうか。

鉄の仮面のリサにもこんな一面があるのです。

とても楽しく書かせていただきました。いや五章が辛かったねん。

五章は本当に辛かった、同じ戦闘シーンでもシリアスになるとこんなしんどいのかと。


七章はちょっぴりシリアスになります、でも五話くらいで終わるかな?って感じでプロット書いてます。

引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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