3話:『鑑定』が暴く大地の秘密
「さて、まずは状況把握からだな。……『鑑定』」
アルスが目を細めると、彼の瞳が淡い青色の光を帯びた。
彼の特殊属性『鑑定』は、対象の名称だけでなく、その隠された性質、魔力の伝導率、果ては最適な加工方法までをも脳内に直接引き出すことができる。
アルスは周囲に転がっている、一見するとただの不気味な黒い岩――ガルザス領のあちこちに突き出している奇妙な岩石に歩み寄り、その表面をそっと撫でた。
「……なるほどな。こいつは面白い」
「何か分かったの? アルス」
ルミナスが首を傾げながら覗き込む。アルスはニヤリと笑って、その岩の「正体」を口にした。
「これ、王都の文献にも載ってない特級の鉱石だぞ。名前は『ガルザスの黒岩』。特徴は、周囲の魔力を吸収して蓄積する性質があること。しかも、特定の属性魔力を流し込むことで、その属性に応じた超高硬度の防壁に変化するらしい」
「属性魔力を流す……? でも、この地には私とあなたの二人しかいないわよ?」
「だからこそだよ、ルミナス。この岩が求めているのは、お前のあの、めちゃくちゃ純度の高い『雷の魔力』だ」
アルスは一つの大きな黒岩を指差した。
「実験だ。あそこにある岩の塊に向かって、少しだけ電気を流してみてくれ。壊さない程度に、優しくな?」
「優しく、ね……。やってみるわ」
ルミナスは黒岩の前に立ち、右手をそっとかざした。
深呼吸をし、胸の奥に眠る魔力の泉を刺激する。王都では「忌むべき力」として抑圧され、決して自由に使うことを許されなかった彼女の魔力。それが今、主の意志に応じて一気に目を覚ます。
パチパチ、と美しい紫色の火花が彼女の指先から迸った。
「――っ」
ルミナスが集中すると、紫電は一本の細い光の束となり、吸い込まれるようにして黒岩へと流れていった。
普通、生木や並の石に雷を落とせば、爆発して粉々に砕け散るか、黒焦げの灰になる。しかし、その黒岩は違った。ルミナスの雷を浴びた瞬間、岩の表面に彫刻のような美しい紫色の幾何学模様が浮かび上がり、ゴゴゴ……と不気味な音を立てて変形を始めたのだ。
「すごい……! 岩が私の魔力を吸い込んでいく……!」
「そのままキープだ、ルミナス!」
数秒後、光が収まると、そこには元の歪な黒岩の姿はなかった。
結晶化した紫色の鉱石が規則正しく噛み合い、まるで城壁の一部を切り取ったかのような、圧倒的な硬度を誇る「防壁」がそこにそびえ立っていた。
アルスがすかさずそれを『鑑定』する。
【雷結晶の強固な防壁】
『ガルザスの黒岩』が紫電の魔力を得て進化したもの。物理防御力・極大。さらに、外部から衝撃を受けると、蓄積された雷撃を自動で放出して反撃する特性を持つ。
「完璧だ。お前の雷は『破壊』だけじゃない。この土地においては、最強の『建材』になるんだよ、ルミナス」
アルスの称賛に、ルミナスは自分の両手を見つめながら、じわりと涙が滲むのを感じていた。私の力は、何かを生み出すこともできるんだ――その事実は、彼女の傷ついた心を救うに十分だった。




