29話:『千陣の戦術眼』×『鑑定物流』
「ルナ、1秒やる。作戦を組み立てろ」
アルスが魔導端末を机に叩きつける。
その画面には、『鑑定』によってリアルタイムで
更新される45万の敵軍の「正確な座標」「心拍数」
「装備の重量」が、完全に可視化されていた。
「これ……敵の地中進行ルート、1メートルの狂い
もなく全部分かるの!?」
画面を見たルナの脳細胞が、限界を超えて加速する。
彼女の固有スキル『千陣の戦術眼』が、アルスの提示した完璧なデータと噛み合った瞬間、絶望的な戦況はただの「解くべき数式」へと姿を変えた。
「だったら、西の15万は地中でそのまま『お墓』に
入ってもらうわ! アルス、今すぐ西の進行ルートの
地上10メートル地点に、あんたが持ってる一番重い『ガルザスの黒岩』を5万トン配置して!」
「5万トンだな? ――配置」
アルスが指先を弾く。
地中を進んでいたガルディニア帝国の魔導機甲師団の頭上、突如として空間が歪み、数百万ニュートンに
及ぶ超高密度の質量が「一瞬」で出現した。
自重に耐えきれなくなった地盤が轟音を立てて大陥没を起こし、地中兵器ごと敵の15万は完全に身動きを取れなくなった。
「よし、西は完全に詰んだわ! 次は東の20万よ!」
ルナは一呼吸も置かず、東のマップを指差した。
「敵は砂塵に紛れて突撃してくる。アルス、
私の『広域元素干渉』で、東の平原の空気中に
残ったわずかな水分を、全部敵の『鎧の内側』に
結露させるわ! あんたはそこに、キルトが作った
あの『吸電鋼糸』を、地表を覆いつくすように網の目状にバラ撒きなさい!」
「なるほど、敵の鎧を丸ごと『避雷針』に変えるわけか。……おいおい、お前、見た目に反してえげつない作戦考えるな」
「う、うるさいわね! 効率的なだけよ! ほら、
早くしなさいよ!」
アルスの『アイテムボックス』から、数万メートルに及ぶ極細の鋼糸が、東の平原へと文字通り「豪雨」のように一瞬で降らせられた。
「ルミナス、準備はいいか?」
アルスが作戦室の奥、少し顔色の戻った女帝を
振り返る。
ルミナスの魔力は通常の10%。しかし、ルナの構築した「水分結露」と、アルスが配置した「吸電鋼糸」の檻が、そのわずか10%の魔力を「1000%の効率」へと跳ね上げる舞台を整えていた。
「ええ……。ルナちゃんが作ってくれたこの機会、
無駄にはしないわ」
ルミナスが静かに微笑み、指先から微弱な紫電を床の導線へと流し込む。
その一瞬の後、東の平原は、音のない紫色の光に
包まれた。
鎧の内側を濡らされた20万の敵兵は、地表を覆う
鋼糸を通じて、身体を優しく麻痺させる絶妙な電流の洗礼を同時に浴びた。
そして指一本動かすこともできず、15万の軍勢は
平原にそのままバタバタと頽れていった。




