26話:紫電の陰り、そして天才軍師の焦燥
周辺4カ国連合による75万の大包囲網が国境へと
迫る中、雷光帝国の頭脳として陣頭指揮を執る
ルナ・コーラインは、総督府の作戦室で猛烈に
魔導ペンを走らせていた。
「いい? ルミナスが中央から広域雷撃を放つ瞬間に、私の『広域元素干渉』で大気中の水分を限界まで
高めるわ。
そうすれば、ルミナスの魔力消費を最低限に
抑えつつ、敵の全軍を一網打尽に――」
熱弁を振るうルナの前で、地図を見つめていた
ルミナスが、ふと床に手を突いた。
「……っ」
「ルミナス?」
傍らにいたアルスが、瞬時にその異変に気づく。
ルミナスの顔からは血の気が引き、いつも彼女の
周囲で優しく瞬いていた紫色の微弱な電流が、
まるでガラスが割れるように脆く霧散した。
「ルミナス、体調が悪いのか!?」
アルスが咄嗟にルミナスの肩を支え、即座に『鑑定』を起動する。
脳内に表示されたステータス画面を見た瞬間、
アルスの表情が凍りついた。
【ルミナス・アルートス】
状態: 魔力枯渇(超深度) / 因果の揺らぎ
魔力出力: 通常時の「10%」以下に低下
原因: 15万人の民の全インフラ(ルミナス光熱)
と、都市を覆う巨大結界の維持に自身の魔力を
休むことなく供給し続けたことによる、
根源的な魔力回路の過負荷。
「嘘だろ……。お前、自分の限界を超えて街の電力を賄い続けてたのか……!」
アルスの悲痛な声に、ルミナスは力なく、しかし申し訳なさそうに微笑んだ。
「ごめんなさい、アルス……。みんなが温かい
ご飯を食べて、夜も安心して眠れるのが嬉しくて……少し、張り切りすぎちゃったみたい……」
「はぁ!? ちょっと待ちなさいよ!!」
二人のやり取りを聞いていたルナが、椅子を蹴立てて立ち上がった。
トレードマークの金髪ツインテールを振り乱し、
顔を真っ赤にしてルミナスに詰め寄る。
「な、なによそれ! あと数日で75万の軍勢がここに
攻めてくるのよ!?
この国の最大兵器であるあんたの魔法が使えない
なんて、冗談じゃないわよ!
べ、別にあんたの心配をしてるわけじゃない
んだからね!
私の完璧な作戦が台無しになるのが
許せないだけよ!!」
ルナはそう怒鳴り散らしながらも、必死に大魔導書をめくり、ルミナスの魔力を回復させるための古代魔術や秘薬のページを探していた。
その指先は、恐怖と焦りで小さく震えている。
最悪のタイミングは重なる。
総督府の扉が勢いよく開き、近衛騎士長のカイルが
血相を変えて飛び込んできた。
「アルスさん、ルミナス陛下! 敵の先遣隊、
およそ20万が、想定以上の爆速で東の国境線を突破しました!
街の防衛結界の出力がガクンと落ちたのを、
敵の魔術師たちに察知されたようです!」
「チッ、動きが早すぎる……!」
アルスは奥歯を噛み締めた。
いつもならルミナスが一瞥しただけで消し炭にできる軍勢。
しかし、今のルミナスにあの規格外の紫電を放つ力は残っていない。
「アルス……私、大丈夫だから、戦場へ行くわ。
国境の結界さえ補強すれば……」
青白い顔でなおも立ち上がろうとするルミナス。
その細い肩を、ルナが両手で強引にベットへと
押し戻した。
「バカ言わないで、このポンコツ女帝!!」
ルナはルミナスを真っ直ぐに見据え、不遜に、
しかしどこか誇らしげに胸を張った。
「あんたはこれまで、15万人の民を一人で守ってきたんでしょ? だったら、あんたが動けない時くらい、他人に頼りなさいよ!
あんたの隣にはその無駄にチートな幼馴染がいるし、私っていう『世界最高の天才軍師』がわざわざ来てあげたのよ!?
15万だか何だか知らないけど、私の戦術とアルスの物流があれば、あんたの出番なんてないんだから!
だから……大嫌いなあんたは、ここで大人しく
寝てなさいよね!」




