23話:張り巡らされる諜報網
ある日、雷光帝国の中央市場や高級宿屋に、
旅の商人や巡礼者を装った不審な影が、
いくつも紛れ込んでいた。
同盟国から送り込まれた、超一級の隠密や
暗殺者たちである。
彼らの目的は、街のエネルギーの核である
『魔導蓄電塔』の爆破、および総理大臣アルスの
『アイテムボックス』の奪取、そして何より――
女帝ルミナスの暗殺だった。
「……ふーん。ネズミがずいぶんと入り込んで
きちゃったね」
総督府の影で、キルトが指先から伸ばした透明な
鋼糸をパチパチと弾く。
彼の網は、すでに街に侵入した工作員
たちの正確な位置と、その心音すらも捉えていた。
「アルス、周辺4カ国の軍隊が、国境付近で
大規模な演習名目の兵力集結を始めているわ。
その数、合わせておよそ75万」
総督府の執務室。
ルミナスはキルトが仕立てた美しい部屋着に身を
包み、冷えた果実水に口をつけながら、
淡々と報告を口にした。
75万という、大陸の歴史上見たこともない大軍勢の数字を前にしても、彼女の美しい眉が動くことは
なかった。
「75万か。食料の配給だけでも毎日どれだけの
ロジスティクスが必要か、あいつらは分かって
ないな。……まぁ、『鑑定』で筒抜けだけどさ」
アルスは手元の魔導端末(アルスの鑑定能力を
組み込んだ都市管理ボード)を操作しながら、
鼻で笑った。
敵の兵站の状況、兵器の質、
将軍たちの弱点にいたるまで、アルスの前ではすべてが裸同然だった。
「陛下、アルスさん。近衛騎士団の連中は、
すでにいつでも出陣できるように最高の状態に
仕上がってます。
75万なんて、俺たちの『新型装備』の実験台にちょうどいいくらいですよ」
大剣を傍らに置き、不敵な笑みを浮かべる
勇者カイル。
彼の後ろでは、キルトが嬉々として大量の「対軍用・魔糸トラップ」をアイテムボックスへ納品していた。
「彼らは、私たちがただ怯えて王都で泣いていた頃の子供だと思っているのね」
ルミナスが静かに立ち上がると、その全身から、
かつてないほど高密度で、神聖な輝きを放つ紫色の
電撃がパチパチと迸った。
周辺諸国が仕掛けた、国家の存亡を賭けた大包囲網。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
自分たちが牙を剥いた相手が、人間の枠を遥かに
超えた「世界の理そのものを変革する
怪物たち」であるということを。




