13話:十万の民と、謎の「お針子」冒険者
王都からの身勝手な親書を叩き返してから数ヶ月。
『雷光都市ルミナリア』の発展は、周囲の小国や
中央の予想を遥かに超える速度で続いていた。
夜間の完全な治安維持、ルミナス光熱による無償に
近いエネルギー供給、そしてアルスの空間流通。
この「三大大陸規格外インフラ」に惹かれ、押し寄せる人の波は止まらない。ついに戸籍登録者は10万人を突破し、街の周囲には新たな居住区や巨大な中央市場が、アルスの設計のもと爆速で増設されていった。
活気あふれる中央市場の片隅、ルミナリア独自の
「精鋭冒険者ギルド」の門をくぐる一人の
青年がいた。
その身なりは、冒険者にしてはあまりにも風変わり
だった。
仕立ての良い、しかしどこか動きやすそうな漆黒
の外套を羽織り、腰には剣ではなく、いくつもの
小さな鋏や、鈍い光を放つ特殊な金属製の「針」を
大量に仕込んだホルダーを下げている。
「へえ……ここが噂のルミナリアか。漂うマナの密度が、王都なんかとは比べ物にならないね」
青年は細い目をさらに細め、楽しげに街の空気を吸い込んだ。
青年の名はキルト。王都のギルドでは「変わり者」として有名だったが、その実力は一握りの強者しか到達できないAランク冒険者だった。
彼がギルドの受付で登録の更新を行っていると、
奥から訓練を終えたばかりの勇者カイルが歩いて
きた。
カイルはキルトの腰元に視線を落とした瞬間、全身の肌が粟立つような鋭いプレッシャーを感じ、思わず
大剣の柄に手をかけた。
「……おい。あんた、ただの旅人じゃないな?」
「おや、手荒な歓迎だね。僕はただの仕立て屋
(テーラー)兼、しがない冒険者だよ、勇者様?」
キルトは人当たりの良い笑みを浮かべたが、
その指先はすでに、目に見えないほど細い
「何か」を弄んでいた。
そこへ、ギルドの視察に訪れていたアルスと
ルミナスが通りかかる。
「おいおい、ギルドの中で揉め事は勘弁してくれよ、カイル」
アルスが苦笑しながら二人の間に割って入り、
何気なく新入りであるキルトに『鑑定』を飛ばした。
その瞬間、アルスの脳内に表示された情報に、彼は思わず目を見開いた。
【キルト・アインハイト】
職業: Aランク冒険者 / 特級仕立て職人
特殊属性: 『鋼糸遣い(ワイヤーマスター)』 / 『魔糸錬成』
説明: あらゆる魔物の素材を「糸」へと加工し、
それを自在に操る戦闘技術を持つ。彼の紡ぐ糸は、
ドラゴンの鱗すら容易く切断し、同時にあらゆる衝撃を吸収する究項の防具の素材となる。
「……なるほどな。ただのお針子さんが、Aランクまで上り詰めるわけがないか」
アルスの言葉に、キルトは驚いたように眉を上げた。
「へえ、僕の属性を一瞬で見抜くなんて。君が噂の
『影の支配者』アルス君だね?」




