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11話:アルートス伯爵家の焦燥

ルミナリアが栄華を極める一方、ルミナスを追放した本国は深刻な危機に瀕していた。


有能な一流の職人、大商人、そして魔物を狩って

治安を維持していた凄腕の冒険者たちが、こぞって

ルミナリアへ移住してしまったため、王都の税収は

前年度の3割にまで激減。


活気を失った市場には閑古鳥が鳴き、かつての大国の栄華は見る影もなく衰退していた。

「なぜだ! なぜあの不吉な女を追い出してから、

我が家の運気が下がる一方なのだ! 領地の税収も

半分以下ではないか!」


アルートス伯爵邸の大広間で、父親が机を叩いて

荒れていた。


贅沢三昧だった義母や異母妹のセレナも、

お気に入りの高級ドレスや、ルミナリア経由でしか

手に入らなくなった最新の化粧品が手に

入らなくなり、ヒステリックに叫んでいた。


彼らはまだ、世界中が噂するルミナリアの主が、

自分たちが捨てたルミナスであるという事実を

知らなかった。


そんなある日、王都の最高隠密から、国王と伯爵家へ向けて「確実な調査報告」がもたらされた。


『ガルザスの地を統べ、国の経済を牛耳っている未知の巨大都市ルミナリア。


その最高権力者たる『紫電の女帝』の正体は

アルートス伯爵家が追放した長女、

ルミナス・アルートスである。


その報告が読み上げられた瞬間、王城の御前会議は

凍りつき、アルートス伯爵はあまりの衝撃と

信じがたさに、履いていた靴のまま椅子から

転げ落ちて呆然とした。

「あ、あの無能の魔女が、そんなはずはない……!」


真実を知った王層の反応は、反省ではなく、

底なしの「強欲」だった。


あの不吉だと思っていた雷の力が、街一つを完全に

賄う無限のエネルギー源であり、その隣にいる男が、国家の物流を一人で支配できる超空間輸送技術を

持っている。


「これらを我が王家の所有にすれば、我が国は大陸全土を支配できるのではないか?」


彼らは自らの愚かさを棚に上げ、ルミナリアの

すべてを合法的に「徴収」するための、身勝手極まりない計画を立案し始めた。


数日後、ルミナリアの美しい白亜の総督府に、

王都からの公式な使者が持参した1通の親書が

届いた。


差出人は国王、そしてアルートス伯爵の連名。


アルスは応接室で『鑑定』を使用し、

手紙の紙質から、裏に仕込まれた魔術的な追跡罠が

ないかまでを数秒でチェックした後、あまりの

くだらなさにフッと苦笑いを漏らしながら、

ルミナスにそれを手渡した。


手紙の内容は、読む者の神経を逆撫でするほど

傲慢で、自己中心的なものだった。


『ルミナスよ。お前が辺境でそれなりの成果を上げたことを聞き、王家も伯爵家も深く感銘を受けた。


よって、これまでの無礼と追放処分を特別に取り消し、お前を伯爵家の正式な第一継承者、

ならびに王国の最高魔導顧問として迎え入れてやる。ついては、速やかにルミナリアの全財産、権利、

および魔導発電の技術を王家に献上し、

王都へ帰還せよ』


ルミナスは手紙を最後まで静かに読み進めると、

乱れることもなく、優雅な所作でそれを大理石の

テーブルの上に置いた。


そして、アルスが彼女の好みに合わせて淹れてくれた、ほんのり甘いハーブティーを一口すする。


「アルス。王都の偉い人たちは、ずいぶんと斬新で、面白い冗談を思いつくのね」 


その声には、怒りすらなく、ただ純粋な「哀れみ」の響きが含まれていた。


「冗談にしては、ちょっとセンスがなさすぎるけどな」


アルスは腕を組み、冷ややかな笑みを浮かべた。


「お前を『天災の魔女』と呼んで、着の身着のままで

荒野に放り出しておいて、自分たちが貧乏になったら『戻ってきて技術をよこせ』か。


俺の『アイテムボックス』は容量無限だけど、 

流石にこんな胸糞悪いゴミを保管しておく

スペースはないな。ゴミ箱行きだ」


その時、次の訓練の打ち合わせのために部屋に

入ってきたカイルが、手紙の内容を聞いて激怒した。


彼の背中の大剣が、主の怒りに呼応してカタカタと

鳴り響く。


「ふざけるな……! ルミナスさんやアルスさんが、

血の滲むような努力で、誰も飢えないこの最高の

街を作ったんだ! 王都のぬくぬくと椅子に座ってる

奴らが、どの面下げてそれを奪おうとしてやがる!


指一本でも触れるってなら、俺が王城ごと

叩き切ってやりますよ!」


王都から「無茶な要求」が届いたという噂は、

隠すまでもなく、瞬く間にルミナリアの住民たちの

間へと広がっていった。


しかし、かつてのように怯えて逃げ出そうとする者は一人もいなかった。


鍛冶職人は黙々と最高級の武器を研ぎ澄まし、

警備隊は防壁の結界基部を念入りに点検した。

「俺たちに居場所をくれたお嬢様ルミナスを、

今度は俺たちが守る番だ」。


理不尽な権力に対して、街全体の絆は、王国の

腐った上層部の想像を遥かに超えて、強固に、

そして冷徹に結実していた。

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