領主、領民=従業員をゲットする
実際、西側領地サレルノの開発は、ここにいる領民たちにとって甘い話ばかりではない。
だって、糸作ってー、布作ってー、売ってー、町を整備してー、なんてやってたら、満足な給料なんていつ払えるかわからない。それを、住むところと食べるものを提供すると誤魔化して人手を確保するんだもん。
何年単位で給料未払いが続くのやら。
最初の整備はハーディング侯爵の投資もあって潤沢な資金を投入できるが、それだって借金だ。最初に設備を整えて終わりじゃない。工場や作業場で使う器具のメンテナンスも必要だし、使っていて不具合があれば改善もしなきゃならない。
人が生活していく場所だから、教育や医療、騎士の駐屯、役所の出張所、揃えなきゃいけないものも多すぎる。
かかる資金を算出したら頭が痛くなる数字だけど、だからって「やらない」とは言えん!
「というわけで、今までの税金は働いて払ってください。その後はちゃんと仕事をすれば税金は払えます。高い給料は払えないかもしれないけど、生活はできますし、子どもはもちろん希望者には読み書き、計算のお勉強もできます!」
……なんか領主の話というより、テレビの通販番組のノリになってしまった気がするが、気にしない、気にしない。
お勉強の言葉に顔を輝かす子もいれば、ちょっと顔を顰める子もいる。うん、俺は顔を顰めるグループだったな。大人でも識字率は高くない世界だと聞いたので、今さらだが学びたい人は頑張ればいいと思います。
「勉強はラスキン博士も教えてくれるし、読み書きができる人が教えてくれてもいい。それも立派な仕事だ!」
最初は暗い顔や不安な目をしていた領民たちが、顔を綻ばせて未来の話を遠慮がちにし始めた。うんうん、これで最初の働き手は無事に確保できたかな?
「クラーク。一応、ここの領民の人数と家族構成、希望の仕事を把握しておきたい。頼めるか?」
「はい。とりあえず人数と世帯、家族構成は私が。そのあと副官のチャールズに聞き取りをさせます」
ピシッと礼をして俺を立ててくれる、できた男クラーク。ケイシー嬢は領都クレモナの商店街計画で手一杯だから、チャールズがこちらの担当になったのね。
俺は、クラークの耳にこそっと囁く。
「お前ンとこの人手は足りてるのか?」
「……コーディの奴らに追い出された者が戻ってきましたし、ハーディング侯爵家からの助けもあります。ただ、こちらの事務処理をする者は、ここの者に頼むしか伝手はありません」
あー、そうだよね。物だけ作ればいいわけじゃない。作ったら売らないと意味がないし、売って利益がでたら従業員に還元するのと、税金を納めないと。そういう帳簿と従業員の管理、細かい事務作業をする人も必要だ。
「……いるんじゃないか? 読み書き計算だけじゃない教育を受けた人」
例えば、あそこの端っこでおばさんたちが囲んで守っている女性とか? ただの独身女性じゃないでしょ? 訳アリでしょ?
「そうですね。それは、おいおい」
俺とクラークが内緒話をしていると、わざとらしい咳払いをしてベンジャミンがギロリと睨んでくる。
「うっ、わかったって。えっと……俺との連絡係は今までと同じくラスキン博士で。んでそのうち役所から担当者が来るからラスキン博士と……」
俺は集まった領民たちの顔をグルリと見回す。この人と……この人。あとは爺さんたちの中で……あの夫婦っぽい人たち。
必殺! 俺のスキル「気」が見えちゃうぞ☆が炸裂している。
小さい子を抜かした領民のほとんどに、不安を表すグレー色があるけど。その中でもリーダーっぽい性格の色とか、周りと協調できる穏やかな色合いとか、達観した仙人みたいな知恵者の涼やかな色とかを持つ者をチョイスする。
「お前と、お前。んで、そっちの夫婦。夫婦? ああ、夫婦なのね。君たちにここの代表を担ってもらう!」
「えーっ!」
「あ……あたしが?」
「オラたちが?」
領主権限で決めました! ええい、文句を言うな。死んで目覚めたら白豚で伯爵だった俺よりマシだろうがっ。
まず職人とか畑作業とか牧場関係をまとめる人として、例の糸紡ぎの道具を作ってくれたロブ。この人は腕のいい大工職人だったけど、独り立ち前に怪我をしちゃった人ね。大工職人たちの間では永遠の半人前として認められないという……理不尽!
次に子どものいる人の代表として、子どもがいても工場で働けるのか? と質問してきたお母さん、ジェシカね。この人の意見を取り入れて仕事の内容とか時間、子どもの預け方、さらには住むところに至るまでモニターよろしく反映していきたいと思います。
最期に老夫婦マシュー爺さんとモリー婆さんは、まあ、ほら。お年寄りって人生の先輩なわけじゃん? ラスキン博士もそうだけど……そのベテランの目から見て、改善点を教えてほしいってね。高齢者用の住宅やご飯なんかも意見が聞きたいしね。
もっと住民が増えてきたら、改めて代表を決めるからと宥めて、ロブたちを説得した。
この人選は当たりだったらしくラスキン博士も満足げに頷いていたよ。
「で、工場は後回しでいいから、住むところをまず建てよう」
いやいや、ラスキン博士が住む小屋もボロボロだけど、他の人たちなんてその小屋すらもないんだよ? 小屋とか建てて人が住んでいると役人が来たら、税金未納で下手すれば借金奴隷になるからだって。おー怖い。
それでみんなテント暮らしですって……いや、死ぬわ!
しかも、キャンプのテントを想像してたら、適当な木の枝と枝に綱張って布を被せただけのもの。日よけシェードみたいな簡易なものだった。
俺は絶句してしまったが、他の奴らがみんな普通の顔をしていたから、さらにビビった。
ん、もう! 白豚領主は頑張ってみんなの生活を向上させてみせるぞーっ!




