父親、この世の神秘に触れる
俺の頭の中は、ぐーるぐるです。
え? この世界のこの国は同性婚が認められていて、シャーロットちゃんの家庭教師にと招いた男の教師には、同性のパートナーがいる。
それは純粋培養のシャーロットちゃんに変な虫がつかなくて、よろしいのですが……。
俺の兄上、ハーディング侯爵のパートナーも同性だって?
例の王家御用達のデザイナーさんでしょ?
ハーディング侯爵家が兄上の結婚に反対したとき、まだ天使だったセシル君だけが賛成したお相手が男性?
いやいや、別に兄上が幸せなら相手が同性でもちっっっっとも構わないよ?
ただ……息子がいるって話、してたよね?
たしか、トレヴァー君、10歳の男の子。
んん? 兄上ったら子どもだけ別の人と作ったの? それとも血の繋がらない養子とか?
「どうしました?」
「いや、だって兄上……子どもが……」
あまりのショックに言葉が上手く出てこないよ。
「まさか、セシル様。そのような記憶も失われてしまったのですか?」
「なに? まだ何かあるの?」
俺の精神にガツンとくる情報を立て続けにぶつけてくるの、やめて!
「同性同士でも、子どもはできます」
「うがああぁぁぁぁぁっ!」
なーぁにーぃ?
もう、俺の頭はパンクしちゃうよ。プシューって耳から蒸気が出てきちゃうぞーっ!
つまり、この世界のほとんどの国が同性婚が認められている。
これは、ずいぶん前に天才魔導師が発明した「神の卵」と呼ばれる薬ができたことで同性婚の大きな問題が解決したためだ。
それは、子どもの問題。
通常は男女の間でしかできなかった子どもだが、「神の卵」を飲み真摯に神に祈り、その祈りが通じると赤ちゃんができる。
これは男性同士でも女性同士でも同じだ。不思議なことに生まれた赤ちゃんは両親の特徴を継いでいる。
顔が似ているとか髪や瞳の色、得意なことや能力など。まごうことなく二人の子どもだとわかるようだ。
兄上もパートナーと結婚したあと、「神の卵」を飲み教会に通いトレヴァー君を得たのだろう……ってマジか?
「うむ、なんだかわからんが、納得した。もうそういう世界だと思うことにした」
俺自身にはふりかからないことだから、別にいいや。
「そんなことでいいんですか? 今から心の準備をしておいたほうがいいですよ?」
「ディーン? なんでだよ。シャーロットちゃんがかわいい女の子を結婚相手に連れてくるって言いたいのか?」
それはそれでいい。俺は許す。若しくはナイスバディのお姉さんを連れてきても許す!
ベンジャミンたちとシャーロットちゃんが待つ応接室へも戻る途中、ディーンがニヤニヤと笑って俺を揶揄ってきた。
「だって、セシル様。学園に通っていたとき婚約したいお相手がいたんでしょう?」
「ああ、そうらしいな」
まったく記憶にないから、そのお相手に裏切ったことを謝りたくても謝れない。
「……そのお相手。女性なのですか? もしかして男性だったりしません?」
ピタッと足が止まる。
なに? 俺……じゃなかったセシル君の悲恋の相手が男だと?
まっさかー、ないない。そんなことないよー、と否定したい、否定したいが、白豚にモデルチェンジする前のセシル君はとっても美少年。
天使のセシル君の横に女神のような女性ではなく、ムンッと鍛えた筋肉も素晴らしい野郎が立っている……マジか!
「そ、それは……き、記憶にないからな……」
可能性としてはある。セシル君の外見だけで判断するのも申し訳ないが、年下のかわいい男の子が相手というより、自分より逞しい男の人が相手だと思ったらしっくりとくる。きてしまう。
このとき俺の脳内では、可憐なセシル君と例の軍神様が手を繋いでキャッキャッウフフとスキップをしていた。
ブルブルルルと頭を左右に強く振る。
「ディーン、余計なこと言うな。お前、しばらくトビーたちの試作を食べるの禁止な」
そんなーと情けないディーンの嘆きを聞こえないフリで、俺は応接室の扉を開けた。
「コホン。失礼した。俺……私がセシル・オールポートだ」
俺が戻ってくるのを待っている間、談笑していたシャーロットちゃんたちはソファーに腰を下ろしていたので、俺も名乗りながらソファーに座る。
「セシル様。改めましてこちらがクラリッサ女史、そちらがレックス様です」
「クラリッサです。わたくしは読み書き算術はもちろん歴史、政治学、外国語など幅広くお教えいたします」
ニコリともせずに女性の教師候補が頭を下げる。
「レックスです。僕はマナー全般、ダンスや楽器、絵画などの芸術面でシャーロット嬢を支えます」
こちらはニコリと笑う……が、え? 教える内容が逆じゃない?
俺が挙動不審になったのがわかったのか、ベンジャミンが兄上からの推薦状と二人の身上書を渡してくる。
やべぇ、二人の身上書を確認するの忘れてた。兄上の推薦だから大丈夫と油断していた。
ふむふむ……わからん。どこの出身学校だろうが、どこの貴族屋敷に仕えていたとか……俺にはわからん。
もう、いいや。
「これから一週間、シャーロットちゃんに教えてもらってから採用するかどうか判断する。採用が決まったら屋敷内に部屋を用意するので、それまでは客間を使ってくれ」
俺はスマートな仕草で身上書をディーンに押し付けた。
「わかりました」
「はい。僕を推薦してくださったイライアス様に恥じぬよう頑張ります」
「誰だ、それ」
あ、しまった。知らない名前が出てきたから、ついツッコんでしまった。
ええーっ! と驚愕する家庭教師候補の二人と、きょとん顔のシャーロットちゃん。
やらかした、こいつと片手で顔を覆うベンジャミンと、こちらに背中を向けて忍び笑うディーン。
……だって、イライアスって誰だよーっ!




