表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら悪役令嬢の白豚パパでした!?~うちの子は天使で元恋人は最強騎士です?オーラを見極め幸せを掴め!~  作者: 緒沢 利乃
社交シーズン春①

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/114

伯爵、親友を気遣う

苦悶の表情で眠っていた親友の眉間のシワを伸ばそうと、人差し指でグニグニしていたら目を覚ましやがった。

やべぇ、目が合った? と焦ったけれども、親友の切れ長で色気ある眼には俺の凡庸な姿は映らなかったらしい。

ホッとしたような……寂しいような……複雑な気持ちだぜ。でも、今の俺はいわゆる幽霊だし、親友に「ぎゃーっ」と叫ばれなかっただけでもヨシとしよう。


俺の存在に気づかないまま親友はのそのそと起き上がり、シャワーを浴びにいってしまう。

いやいや、お前、全然、睡眠足りてないだろう? まだ起きるのには早いから、二度寝しろよ、二度寝。最高だろう、二度寝?


俺がふよふよと廊下で様子を窺っていると、僅かな時間のあと、腰にタオルを巻いたセクシーな姿で親友が出てきた。

……あれ? シャワー浴びたてのホカホカ湯気が見当たらないけど……お前、ま、まさか……。


「ふーっ」


水を一気飲みして、シンクに手を付き俯く親友の体は氷みたいに冷えていた。

こ、こいつ、水シャワーしやがったあああぁぁぁっ!


ブルブルとまだ濡れている髪を左右に振り水滴を撒き散らすと、その大きな手で髪を掻き上げる。

どこぞのモデルや俳優よりも絵になる姿だが、風邪ひくぞ! 早く髪を乾かせ、服を着ろ、メシを食え!

本当に……なにやってんだよ……。


「……海」


テレビ台に飾られている幾つもの写真立ては全て伏せられていて、お前が小さく呟いたのは俺の名前。


バカだなぁ……お前、なにやってんだよ。

俺のことなんて、忘れろとまでは言わないが、心の整理は早くつけろよ。


むしろ、変な女をお前に近づけてスマン。意外と繊細なお前のことだから、俺のことがトラウマにならないことを祈る。

そんで、もう俺はお前の傍にはいてやれないから、ちゃんとメシを食って眠って、ちゃんと生きてくれ。

俺の姿も見えないし、声だって聞こえないんだろう? 寂しいけど俺の存在、感じないんだよな?


だったら、俺が安心して白豚パパできるように、ちゃんと……ちゃんと、生きてくれよ……理人。
















……眠りが浅い。拓海だったら「眠い眠い、あと五分」と二度寝を決めることだろう。


最高級の寝具を使っていても取れない疲れに辟易しながら、重い体を起こしシャワーを浴びにいく。

ぼんやりとどこか思考がまとまらない。


なんだか、誰かに眉間を揉まれた気がして、自分でも眉間を揉んでみる。

ああ……拓海もよく「お前、ここにシワができるぞ」と言って俺の眉間を揉んでくれたっけ。

そんな些細な記憶さえも、俺には愛しくて苦しい。


「はーっ」


水を浴びよう。

頭をスッキリさせたい。いつまでも見える拓海の幻影に、そのまま幻の世界に捕らわれたくなる。


拓海がいない現実に未練はないし、生きている気もしない。

ただ、惰性で呼吸をして心臓が動いているだけだ。

食欲もない。望みもない。人との交わりなぞいらない。仕事はする。仕事をしているときだけ、無心になれる。


冷たい水が頭を肩を背中を打ち、足へと流れていく。

それでも、胸には拓海への思いが、大切な記憶がジュクジュクと熾火のような痛みを走らす。


腰にタオルを巻いて、コップに水を注ぎ一気に飲み干す。

冷たい水が口から喉、胸、腹へと流れ落ちていく。


チラッと視線を伏せて見えなくした写真立てへと向ける。拓海と一緒に行った場所で撮った写真。あいつの笑顔が……もう見られない。


「……海」


何度、拓海の名前を呼んだのか。何度、あいつの姿を探したのか。

この世から消えてしまった拓海。

どこを探せばお前に会える? 名前を呼ぶ声に応えてくれる?


俺は諦めない。必ず、またお前と会う。会って……今度は絶対に放さない。


呑気に小細工を駆使し周りから固めてから、この手に絡め取る方法をなんて、もう取らない。

次は、俺の手で追い詰めて逃げられないように囲い込んで、必ずこの手に抱いてみせる。


あの女……。拓海の彼女として俺へ媚びを売っていたバカな女。

失敗した……。拓海狙いの女は全て排除して、拓海を利用して俺へと近づこうとするバカな女はあえて放置していた。

拓海が一人の女のものにならないように。間違っても、俺の腕から離れていかないように。

何年も適当な相手を宛がいながら、拓海の隣をキープして俺なしでは生きられないようにゆっくりと依存させていくつもりだったのに。


あと少し。もう少しでその作戦が成功するところだったのに。


あの女……拓海を殺しやがった。


ギリッと唇を強く噛むと鉄錆の味が口の中に広がる。

しかも、葬式で悲劇のヒロインでも気取ったのか、拓海を悪役にして泣き叫び、拓海の家族に不快な思いをさせた。

俺がこの手で殺してやりたいと思った。

だが、そんな価値もない女だ。事件の目撃者を探し出して警察に渡した。

どうせたいした罪にはならないだろうが、社会的に抹殺する手筈は整えてある。

俺から拓海を奪った報いを必ず受けさせてやる。


パチンと両手で頬を打ち、仕事に行くためにワイシャツを手に取る。


「ん?」


幻聴かな? いま、拓海の声で「朝メシ、食えよ」と叱られた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ