領主、担がれる
とにかく、まずは明日にでも鉱山を見に行こうとなってレナードたちとのお話合いは終わった。
宿屋に移動して体を休めるかと思ったが、鉱山夫たちいわく、この町の宿屋って、そのぅ……いらんサービス込みの宿屋らしく、俺たちが泊るには問題がある、と。
トンズラこいた役人たちの宿舎が役所の裏手にあるので、ヴァゼーレでの宿はそこにする。途中、ハリソンと騎士数名が町の宿屋に行こうとするから、やんわりと止めておいた。止めたけど、ブーブー文句言ってきてウザイから、メイにぶん投げといた。ハリソンたちの野太い悲鳴が聞こえてきたけど無視したよ。
んで、翌朝。
「なに……これ?」
レナードと筋肉隆々の鉱山夫たち、オールポート屋敷に来た使者くん。ハリソンたちとハーディング家の騎士たちが囲んでいるのは……輿だよ。人が担いで運ぶ輿。これ……どうしたの?
「おう、領主様。昨日のうちに鍛冶屋と武器屋の親父たちと造ったんだ。これで領主様も山に行けるだろう?」
レナードの言葉に俺はびっくり仰天して、まじまじと輿を見つめる。
え? これ、俺が乗るの? 俺が乗った輿を担いで山まで運ぶつもり?
俺は輿とそれを担ぐ気マンマンの鉱山夫たちを交互に見る。
……え? 魔獣が出るんだよね? 危険なときはお前たち輿を置いて逃げたりしない? 俺を魔獣の前に置いて逃げたりしない? 俺……生贄じゃないよね? 白豚と間違うボディだけど、人間だよ、俺?
「えっ……と、いやいや、ラスキン博士。そう、ラスキン博士のほうがいいよね?」
魔獣見たさに山に行きたいと駄々をこねていた老人を乗せればいいよ! 俺が満面の笑顔でラスキン博士に譲ろうとすると、ラスキン博士は鼻を鳴らして拒否した。
「いらん。山の一つや二つ、ワシは登れるわい」
どんな爺だよっ。元気すぎるだろうがっ。足腰弱い年齢なんだから遠慮しないで輿に担がれていろよ!
「おーいおい、領主様、安心しな。うちの力自慢たちだ。落としやしないぜ?」
「うぐっ!」
ムキムキッと筋肉を見せびらかせんでいい! 男のムサイ筋肉なんてお呼びじゃないわっ。
「ハ……ハリソン!」
お願い~っ、ハリソン。せめて担ぎ手はお前たちでお願い~っ。オールポート家の騎士なら、いざとなったら俺を守ってくれるよね? 魔獣の前に供えて逃げないよね?
「えー、勘弁してくださいよ。久しぶりに剣を振るえるチャンスですよ? セシル様を担いだら腕が痺れて使えなくなります」
「なんだとーっ!」
「セ、セシル様。我が騎士たちが担ぎますから」
一触即発の俺とハリソンの間に、ハーディング家の騎士隊長さんが入って宥めてくれる。
「う、う~ん」
ハーディング家から借りた魔獣討伐経験者の騎士たちを、俺の馬扱いにするのは気が引ける。能力的にももったいないし……。この隊長さん、名前をブランドンさんという、とっても紳士的で真面目な人なのだ。やっぱりハーディング家の騎士さんたちは魔獣討伐に集中してください。
「ダメじゃ! 今日は魔獣を観察するのじゃ。討伐はワシが許してからにしろ」
「ラスキン博士……そんなの待ってたらヴァゼーレが壊滅しちゃうよ?」
しかし、未知な魔獣の生態に夢中なラスキン博士は人の話を聞きはしない。なんて頑固で扱いずらい年寄りなんだ!
「ほら、早く行くぞ領主様。輿に乗れ」
「はいはい。ってレナードたちは大丈夫か? 相手は魔獣だぞ?」
所詮、鉱山夫たち。力もあり荒くれ者同士の喧嘩は日常茶飯事だろうけど、魔獣が相手では勝手が違うだろう?
「ハリソンから聞いてないのか? 俺たちは元は傭兵だ。辺境伯のお膝元で海賊やら、山賊やらと毎日命のやりとりをしていたんだぜ。魔獣討伐の経験もある。俺たちも久しぶりに剣を思いっきり振りたいのさ」
あ……脳筋だこいつ。おっかしいな? 「気」では策士的な頭脳派だと思ったんだけどな?
俺が密かに首を捻っている間に、ひょいと輿を担がれて「えっほ」「えっほ」と運ばれていった。
「お気をつけて~」
町に居残って、逃げた役人のやらかしを見つける仕事があるクラークは笑顔で手を振って見送ってくれた。
「は~い、ストップ」
俺の号令で輿を担いでいた男たちがピタリと止まった。
「どうしました、セシル様?」
クラークの手伝いで町に残っていてもいいのにディーンは俺についてきた。あと……メイもついてきちゃった。危ないのになぁ、もう。
「俺は魔獣じゃなくて鉱山を調べたい。ディーン、レナードに頼んで案内役を一人連れてこい」
「え? 魔獣じゃなくて鉱山を調べるんですか?」
ディーンは不可解そうに首を傾げながら、先頭にいるレナードたちへと走っていく。ついでに俺の護衛のはずのハリソンと、ご老人のはずのラスキン博士も先頭集団にいる。なんじゃ、あいつら?
「セシル様。鉱山に行かれるということは、こちらをご使用されますか?」
ブランドンが懐から、こそっと魔道具を出し俺へと差し出す。俺は素早くそれを受け取り上着のポケットへと隠した。俺のある推測を聞いた兄上か貸してくれた魔道具。果たして、俺の望む結果を出してくれるんだろうか?
「セシル様。鉱山では私たちがお供します」
「あぁ、すまんな。ウチの騎士団長様は魔獣に夢中で職務放棄してやがる」
ちっと舌打ちする俺に、ブランドンたちは爽やかな笑顔を向けて頼もしく頷いてくれた。
「セシル様、案内役を連れてきました」
「……」
ディーンの隣でブルブル震えているのは、オールポート屋敷に来た使者くんだった。
えー、君さぁ、そんなに怯えるぐらいなら町に残ってればいいのにぃ。




