領主、父の愛はそれぞれと知る
オールポート領東側鉱山地帯ヴァゼーレからの使者は、俺たちオールポート伯爵家の者たちを一気に地獄の底まで落とす恐ろしい出来事を携えてやってきた。
財政の要である宝石を採り尽くし、原石が採れなくなってしまったこと。その鉱山で魔獣が出没したこと。本来であれば一匹、二匹で現れる魔獣が、獣と群れを組んで一緒にいるところを目撃されたこと。
どれかひとつだけでも「えらいこっちゃ」なのに、閉店セールのようにまとめてやってきやがった。
そりゃ、俺も頭を抱えるよね?
「お父様……」
次期オールポート伯爵としてシャーロットちゃんにも同席してもらったが……やめとけばよかった、こんな重い話。将来真っ暗だと思って、非行に走ったらどうしよう。屋敷の窓ガラス割りまくりのシャーロットちゃんなんて、見たくないよ。
「セシル様。とりあえず王家、商業ギルド、王国騎士団への報告は済ませました。夜にはそれぞれに届くでしょう。ハーディング家への報告も済んでますが、もしかしたらハーディング家から使いが来るかもしれません」
ベンジャミンの言うとおり。兄上だったら心配して自分か信頼のできる誰かを寄越してきそう。もう、その者に甘えてしまいたい……。
「うぅん、グチグチ言っても仕方ない! 起きてしまったことはしょうがない! とにかく予定どおりに視察に出発する。ハリソン、魔獣用の武器は用意できるか?」
「オールポート家騎士団としてはありませんが、個人的には所有しています。連れていくつもりだった騎士全員が持っています」
それは、お前と一緒にオールポート家を出てヴァゼーレに滞在していた騎士たちを連れて行くつもりだったな? でも、助かる。助かるけど……なんで魔獣用の武器を持ってるのさ? まさか、ヴァゼーレに魔獣が出るって予測していたとか?
「お前、もしかして……予知能力者?」
ぶっとい人差し指を向けると、ハリソンは目を丸くしたあとバツが悪そうに頭を掻いた。
「いやぁ、ヴァゼーレでいくつか宝石を掘り当てて懐を温めてから、辺境で魔獣狩りでもしようかと……」
「なに考えてんの?」
ハリソン、お前さぁ、オールポート伯爵家の騎士団長なんでしょ? 何やってんのよ。少年みたいに目をキラキラさせて魔獣狩りしたかったムーブ出すんじゃねぇわ。これから、イヤでも魔獣とご対面だろうがっ。
でも、ハリソンの厨二病が炸裂していたおかげで、魔獣用の武器が揃っているならいいとしよう。終わり良ければすべてよし!
俺も腹を決めて対処するとしよう。
「では、ヴァゼーレに行くのは、俺とディーン。ハリソンとハリソンが選抜した騎士数名。クラーク……本当にいいんだな?」
ちょっと青い顔をしたクラークが、それでも強く頷いた。
「セシル様、私は?」
ベンジャミンが自分を指差してアピールするが、事情が変わってしまったのだ。ベンジャミンはお留守番組へ変更です。
「……ここに残ってくれ。その……もしかして俺に何かあったとき、ノーマンだけでは不安がある。ヴァスコには王都屋敷を切り盛りしてもらわないといけないし……」
チラチラッとシャーロットちゃんを見ながら、後半を小声と早口で伝えた俺は、口の軽い男がいたことを失念していた。
「えっ! セシル様、そんなこと言わないでくださいよーっ。危険な場所ですけど、セシル様が鉱山に赴くわけじゃないですし、そんな死ぬようなこと、言わないでくださいよーっ」
うるさい、ディーンのバカ。バカバカ、シャーロットちゃんにばっちり聞こえちゃったでしょ。ほら、ブルブル震える両手で口を覆って、目には涙が溜まってきてるでしょ!
「お……お父様?」
「うわああっ、大丈夫、大丈夫だから。でもね? ヴァゼーレから直接王家とかに報告できないでしょ? クラークも連れて行くから役所を通すのもアレだし。だからベンジャミンにここに残ってもらって、連絡係をしてほしいの。それも本当なの! だから、俺は大丈夫だから、泣かないでシャーロットちゃん」
グスグスと鼻を鳴らし始めてしまったシャーロットちゃんを慰める俺とマリーの眼の端に、ベンジャミンとメイにしばかれるディーンの情けない姿が見える。
ま、俺に万が一のことがあっても、今はハーディング侯爵家がシャーロットちゃんの後見に立ってくれるし、ベンジャミンとヴァスコがいればオールポート伯爵家は大丈夫でしょう。
だからといって、俺はちゃんとヴァゼーレから無事にここへ帰ってくるつもりだけどね。
あっという間に出発の日です。
ハーディング家からは兄上たちがやってきました。俺が現地に行くと知るとガクガクと震えて必死に止めてきましたが、イライアス様の拳骨を頭に受けて冷静になってもらえたよ。お互い領主なんだから、逃げちゃダメなことはわかってもらえますよね?
ブラコン兄はせめてもとハーディング家で魔獣狩りの経験のある騎士さんを貸し出してくれました。魔石鉱山の山に魔獣が数年おきに出没するらしい。デッカイ猪でとにかく走り回って辺りをめちゃくちゃにする凶暴な魔獣。でも、真っ直ぐに突進してくるから討伐は容易いとか。
「……ハリソン。ハーディング家の騎士もいるし無理しないでもいいんだぞ?」
なんなの、お前? かわいがっているクセに、谷底に落として這い上がってこいみたいな教育方針なの?
ハリソンの隣には、勇ましい顔つきのメイが立っていた。
メイ……シャーロットちゃんの専属騎士が魔獣用の武器を片手に何やってんの?




