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王の裏切り、俺の無双劇〜 追放英雄ライル、王国を無双で討つ  作者: 源 玄武(みなもとのげんぶ)


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第48話 砂漠の使者と“試される王国

 王都アルヴェリアの朝は、いつもなら柔らかな光に包まれる。

 けれど、今日だけは違った。

 窓を開けた瞬間、肌に当たる風が乾いている。

 まるで細かな砂粒が混じっているかのような、ざらついた感触。

 吸い込めば、喉の奥がわずかに痛む。


エリシア

「……来たのね」

 小さく呟く。

 それは確認ではなく、確信だった。


 私はゆっくりと衣の裾を整え、鏡に映る自分を一度だけ見つめる。

 王としての顔。

 まだ慣れない、けれど背負わなければならない顔。

 

「……行きましょう」

 誰にともなくそう言い、謁見室へと歩き出した。

 一歩、踏み出すごとに。

 胸の奥が、少しずつ固くなる。


 国の未来を左右する客人――

 “砂漠の遊牧民”アルダラ族。


 広大な沙海を渡り歩く、無敗の戦士たち。

 普段なら国境すら越えない彼らが、王都へ姿を現すなど、前代未聞だ。


 扉が開かれると同時に、じん、と空気が重くなった。


 乾いた風の匂い。

 革と砂と、太陽に焼かれた大地の匂い。

 獣の気配すら帯びた鋭い存在感。

 砂色の外套を纏った者たち。

 一切の無駄がない立ち姿。

 静止しているはずなのに、いつでも襲いかかれるような緊張感。

 

 “戦場に生きる者”の気配だった。


 緋色のマントをゆらし、ライルが私の隣に立つ。

 その背はいつもより大きく感じた。

 血盟の仲間たちも、自然と配置につく。

 セリアは腕を組み、冷静に観察。

 ルネは少しだけ緊張しつつも視線を逸らさない。

 グロスはニヤリと笑い、むしろ楽しんでいる様子。

 ゼイルとゼスは、すでに“戦闘前の静寂”に入っている。

 ミレーヌは、わずかに口元を上げていた。

 カラムは状況の“構造”を読んでいる。


 そして。

 もっとも背の高い男が前へ進み出た。


 黒布で口元を覆い、露出した肌は太陽に焼かれている。

 刻まれた傷が、戦歴を語る。

 顔を覆う半布から覗く瞳は、獰猛な金色に光っている。


使者

「……アルヴェリア王国。新王女エルシアとやらは、どれだ」

 少し荒れた、砂を引きずるような声。


 私は、迷わず一歩前へ。


「私がエリシアです。遠路よりのご来訪、感謝いたします」


 金の瞳が、ついっと私の全身を値踏みするように動く。


「祝いに参った。だが祝いのみで帰る気はない。

 王国は兵不足と聞く」


 ざわり、と血盟メンバーの視線が鋭くなる。


グロス

「おーおー、出だしから重いな」

 楽しそうに肩を鳴らす。


ルネ

「戦士タイプって、苦手なんだよなぁ……しんどい予感しかしない……」


 私は気を引き締め、再び使者に向き直った。


エリシア

「ええ、確かに……国境の情勢は厳しいです。

 力を貸していただけるなら、民は救われるでしょう」


「兵は出せる」


 短い言葉に重みが落ちる。

 続く言葉はさらに深かった。


「我らは食糧と住処が足りぬ。砂漠は荒れ、恵みは減った。

 互いが不足するものを補うことは、可能であろう」


セリア

「……追い詰められてるわね。アルダラ族がここまで譲るなんて」

 小声で言う


ルネ

「砂漠ってそんなに……過酷なんだ」

 さらに小声言う。


 使者の瞳は、どこまでも真っ直ぐで厳しかった。


「……我らは“力”なき者には従わぬ」


 使者は一歩前に進み出た。

 その足取りは静かだが、床石までも震わせるような重みを持つ。


 腰に下げていた短槍を抜き、勢いよく石床へ突き立てた。


 カン――ッ!

 乾いた音が謁見室全体に突き抜け、私の心臓が跳ねる。


 槍の柄には、砂の渦を模した紋章。

 アルダラ族の“誇り”そのものだ。


「部族長が言っている。

『真に頼るに相応しい者か、拳で語れ』とな」

 

 使者の声は低く、乾いていた。

 まるで砂嵐の奥から届くような、削れた響き。

 言葉は単純だった。だが、その単純さが恐ろしい。

 理屈も、駆け引きも、建前も通じない。

 ただ“力”のみで測られるという、あまりにも原始的で、そして絶対的な基準。


 謁見室の空気が、目に見えぬ圧に押し潰されるように沈む。


 ライルが一歩、わずかに前へ出た。


「試すつもりか」

 その声は、どこか火花を孕んでいた。


 視線がぶつかる。

 金の瞳と、深い闇を宿した瞳が。


 セリアが、ふっと小さく息を吐く。


「交渉とは名ばかりね。要は“質”を見たいのでしょう」

 腕を組み、淡々と分析するその声音は冷静そのもの。


 ミレーヌがくすりと笑った。


「私は嫌いじゃないわ。わかりやすくて」

 柔らかい声音。

 その奥に潜む刃は隠そうともしない。


 エルシアは、まっすぐに使者へと向き直る。

 胸の鼓動を押さえ込みながら、微笑を崩さない。

 逃げれば終わる。

 ここで怯めば、この国は見限られる。

 

 グロスが豪快に肩を鳴らした。


「まぁいいじゃねぇか。砂漠の猛者なんだろ?

 腕試しには最高の相手だ」

 その声は重苦しい空気を叩き割るように明るい。

 恐怖を笑い飛ばす、その在り方は頼もしくもあり、同時に戦士だった。


 ルネが顔を引きつらせる。


「こうなると思ってたよ」

 肩を落としながらも、逃げ出さない。

 その足は、しっかりと床を踏んでいる。


 カラムが冷静に言い放つ。


「穏便という概念は、砂漠には存在しないらしいな」

 淡々とした声音。

 だが、その言葉は事実を突きつける。


 使者は静かに頷く。


「兵力を提供する。

 しかし率いる者が弱ければ、砂の彼方で皆死ぬ。殴り合って確かめるのは、理にかなう」


 ゼイルが肩をすくめる。


「つまり……殴り合え、と」


「察しがよい」

 短い応答。

 それで十分だった。


 グロスが笑う。


「なんだよ、向こうの“挨拶”みたいなもんか?」


 使者は、わずかに顎を引いた。


「そうだ。

 砂漠では、命を預ける相手の背を誤魔化せぬ」

 その一言は、妙に重く胸に落ちた。


 王として、仲間として。

 “背中を預ける価値があるか”を問われている。


 私は息を吸う。


エリシア

「……もし、試練を受けなかった場合は?」


「盟約なし。それだけだ。

 受ける意志があるなら“陽炎の里”へ来い。

 部族長は待っている」


 その言葉は、挑戦状であり、招待状でもあった。

 私は一瞬だけ目を伏せ、そして顔を上げる。


「……今は返答を保留させてください。

 仲間たちと相談して決めます」


 使者は静かに頷く。


「良い。だが急げ。

 飢えは戦より速く迫る」

 その言葉だけを残し、彼らは背を向ける。

 砂色の外套が翻る。

 足音は静かだが、その存在感は最後まで空気を押し続けた。


 扉が閉まった瞬間、空気が一気に軽くなる。


 ゼスがぽつりと呟く。


「……なんか、上からだよな」


 グロスが苦笑する。


「まぁ、あいつらの文化だ。筋は通ってる」


 ルネが一気に噴き出した。


「筋は通ってるけどさ!怖いじゃん!!普通に命かかってるやつじゃん!!」


「“弱い者を見限る民”よ。生き残り方が違うの」

 ミレーヌは冷たい笑みを浮かべながら言う。

 その声音は優しいが、内容は冷酷な現実そのもの。


 グロスが腕を組む。


「おいおい、部族長とやり合えって、誰が殴り込みに行くんだ?」


 ルネが全力で首を振る。


「む、無理無理無理! 私は絶対ムリだからね!? むりぃ!」


 セリアが即座に切り捨てた。


「誰もあなたに殴り合えなんて言ってないわ」


 カラムが静かに続ける。


「ただ……兵力を得られるなら、王国にとっては極めて重要だ。

 現状のままでは、国境線は遠からず崩壊する」

 現実が、冷たく突きつけられる。


 ゼイルが低く呟く。


「“勝て”とは言われてない……どう聞いても“負けるのは許されない”感じだな」


 ルネが青ざめる。


「部族長、絶対強いよ!笑って殺してくるタイプだよたぶん!!」


 ゼスが短く。


「……負けない」


 ルネがぱっと顔を上げる。


「うん! ライルなら負けないよね!」


 ライルはわずかに目を伏せた。


「期待が……重いな」


 セリアが小さく笑う。


「背負い慣れてるでしょ?」


 ミレーヌも微笑を添える。


「でも悪い話じゃないわ。向こうから来た交渉だもの」


 エルシアは一歩、前へ出た。


「……王国の未来のために。必要であれば、私は行くべきです」


 全員の視線が、私へ集まった。

 ライルがゆっくり近づき、そっと私の手をとる。


「お前が行くなら、俺たちも行く。

……離すなよ。砂漠は危険だ」

 低く、確かな声。

 胸の奥が熱くなる。


エリシア

「……はい。離しません」


セリア

「はいはい、イチャイチャするのは後でにして。

で、だれが部族長とやんの?」


カラム

「象徴的意味も含めて、ライルが適任だ」


 グロスが頷く。


「間違いねぇな。“強い奴に従う”民だ。あいつなら示せる」


 ミレーヌが結論を落とす。


「決まりね」


 議論はまとまり、一つの結論へ向かう。


 ゼスが短く言う。


「……ぶっ飛ばす」


 グロスが笑う。


「殺すなよ!?あくまで試し合いだ!」


 ルネが叫ぶ。


「殺したら戦争だよ!!」

 空気が少しだけ軽くなる。


 グロスがにやりと口角を上げた。


「よっしゃぁ! 決まりだな。砂漠野郎どもに、アルヴェリア魂ってやつを見せてやろうじゃねぇか!」


 拳を鳴らすその音が、妙に頼もしく響く。

 ゼイルは肩をすくめながらも、どこか楽しげに呟いた。


「日焼け止めくらい持ってこうな。あそこ、冗談抜きで焼けるぞ」


 ゼスは短く、いつも通りの無表情で返す。


「……不要」


「いや必要だよ!? 絶対必要だからね!? 肌が死ぬやつだからそれ!!」

 ルネが即座に食い下がる。


「砂漠なめちゃダメだって! 私、前にちょっと行ったことあるけど、三日で“干物ルネ”になるところだったんだから!」


「干物は保存が利くな」


「利かなくていいの!!」

 軽口が飛び交う。

 

 それだけで、不思議と胸の奥の緊張が和らいでいく。

 

 グロスの豪胆な笑み。

 セリアの冷静なまなざし。

 ミレーヌの余裕ある微笑。

 カラムの思考に沈む横顔。

 ゼイルの軽やかな立ち姿。

 ゼスの無言の覚悟。


 そして――

 ライル。


 ただそこに立っているだけで、不思議と“前に進める”と思わせてくれる存在。


 ――ああ、そうか。

 私は、ひとりじゃない。

 エルシアはゆっくりと視線を巡らせた。


「では。アルダラ族の住処へ向かいます。

 王国の未来のために」


 ライルが静かに頷いた。


「行くぞ。

 “砂の部族”に、俺たちの力を示す」

 その声には、揺るぎがない。

 誰もが理解する。

 これはただの交渉ではない。

 覚悟を問われる戦いだ。


 その瞬間――

 誰もが、未来へ踏み出す覚悟を固めていた。

 謁見室の窓から差し込む夕陽が、砂色の光を落とす。

 その光はまるで、これから向かう大地を象徴しているようだった。


エリシア

「アルヴェリア王国は……まだ終わらない。

この一歩が、必ず未来を開くわ」


 背後から聞こえたのは、ライルの落ち着いた声。


「お前が前を見るなら、俺たちは後ろを守る」


 私は振り返らずに、微笑んだ。


「ありがとう。皆となら、どんな砂漠でも越えられるわ」


 夕陽が城の石壁を金色に染める。

 外から吹き込む風が、ほんのり乾いた砂の匂いを含んでいた。


 まるで、砂漠からの“呼び声”のように。

 次なる目的地は、アルダラ族が暮らす《陽炎の里》。

 王国の命運をかけた、新たな章が幕を開けた。

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