32 高馬 Day3
「・・・頭がいいところと、よく笑うことと、いつも隣にいてくれたこと」
「・・・うん、覚えたよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・じゃ、もう帰ろっか。お会計お願いね」
「ああ。送ってくから待ってろ」
「ばーか、私今振られたんだよ。泣きながら歩かせてよ」
「・・・自転車使え、はい、鍵」
「ありがと。じゃ、また明日」
「ああ。お休み」
「・・・・・・ねぇ」
「なんだ?」
「・・・もし信じて疑わなかったものが突然崩れ去ったら、たかならどうする?」
「・・・・・・それでも信じる、ってのは都合がよすぎるか」
「・・・ふふ、じゃあね」
小倉はそのまま店を出て行った。俺はその場から動けなかった。何が幸せになってほしいだ。クソ野郎。結局、俺は人を幸せにはできないんだろうな。小倉が去った椅子をぼんやりと眺めるしかできない。
「ここ、空いてる?」
「・・・空いてないな。どちらさんだ?」
「僕だよ。君の親愛なるクラスメイト、オーエンちゃんだ」
「・・・聞いてたのか?」
「最後だけね」
「・・・少し、歩かないか?」
「いいよ。僕も体を動かしたい気分なんだ」
お会計を済ませる。レシートを捨てようと思ったが思いなおし、財布に入れる。
「さて、何から話そう?旦那はいい話題の持ち合わせはあるかい?」
珍しく車通りも少なく、俺と加藤の足音が静かな町に消えていく。
「・・・お前の恋バナ聞かせてよ」
「いいけど、僕は女の子の口説き方くらいしか教えれないな」
「普通に有用そうなの腹立たしいな」
「女の子は話を聞いてほしいとか肯定してほしいとかってよく聞くけど、あれは嘘だね」
「そうなのか?」
「まぁ、当たり前だけど自分の話を肯定してほしいのは男女問わずだよ。旦那だってドイツの話してたらヒトラーがどうとかって言われたくないでしょ」
「そらそうか」
「だから、肯定はしてほしいんだけど、その振った話題から話を広げてお話したいんだよ。肯定するだけじゃあダメさ」
「ほーん。例えば?」
「じゃ、ちょっと練習しよっか」
「また変なの始まったよ」
「昨日さ、僕神社に行ってきたんだよね」
「お前、神とか信じるタイプなんだな」
「・・・それは話を広げるんじゃあなくて揚げ足取りだよ。弁当が好きとはいえ重箱の隅を楊枝で洗う真似は好きじゃあないな」
「うるさい、それよりお前さん神信じてるんか?」
「うんにゃ全然」
「え、ヨーロッパ人ってキリスト教みんな信じてるんじゃあないのか?」
「まぁ、信じてる人も少ないとは言わないよ」
「どっちなの?」
「僕の周りには多くないかな」
「ふーん。お前さんから見て日本人の宗教観ってどう思うの?」
「面白いよ。日本人は紙に縋る代わりに身近な人に縋りやすいよね」
「・・・」
「おっと、心当たりがありそうだね」
「・・・まぁな」
「話したい?」
「・・・別にだな」
「じゃ、聞かないであげる」
「・・・」
「・・・何か飲むかい?」
「自販機近くにあるのか?」
「目の前のコンビニが見えないの?」
「見えてなかったな。別にいらない」
「あいよ」
「加藤ってヨーロッパのどこから来たんだ?」
「当ててみてよ」
「バチカン市国」
「ふふっ、違うよ」
「・・・何語が話せる?」
「日本語、英語。ポルトガル語とイタリア語が少しずつ」
「・・・わからん」
「あはは、ロシアだよ」
「・・・え」
「そうは見えないかい?」
「・・・ああ、見えないな」
「信じるも八卦だよ」
「・・・なんで日本に来たんだ?」
「普通に留学だよ」
「へぇー、ホームステイなのか?」
「や、家あるよ」
「何を勉強しに来たんだ?」
「あはは、恋心を学びに」
「冗談が好きだな」
「旦那もお好きでしょ」
「まぁね」
「加藤は両親とは会わないのか?」
「仲良くないし会わないよ」
「・・・すまん」
「気にしなくて結構だ」
「・・・俺も久々に両親に会いたいなぁ」
「・・・何年会ってないの?」
「・・・親父とはもう10年以上。母親は6年ほど」
「・・・」
「・・・声も顔も忘れちまったよ」
「・・・旦那」




