第27話:贖罪の誓いと、砂漠に沈んだ古代都市
暴走した嵐が静まり返った『風の神殿』で、俺たちは事後処理にあたっていた。
元凶である裏切り者の聖職者は、全ての力を失い、ただ虚ろな目で宙を見つめているだけだった。もはや、彼自身が、長年抱き続けた絶望の抜け殻となっていた。
「この方は…私が責任を持って、里の者たちと共に…」
元『深淵の暁』の使徒であったセラが、そう申し出たが、俺はそれを制した。
「裁きは、俺たちの仕事じゃない。あんたの仕事は、その知識と力を、これから世界を救うために貸してくれることだ。それが、あんたにできる一番の償いになる」
俺の言葉に、セラは驚いたように目を見開き、やがて、その瞳から大粒の涙をこぼしながら、深く、深く頭を下げた。
「…ありがとうございます。この命、必ずや、世界のために…貴方のために使います」
こうして、俺たちのパーティーに、三人目の仲間が加わった。
聖職者は、麓のドワーフたちに引き渡された。彼が犯した罪は、山の民のルールに従って裁かれることになるだろう。
アークライトへの帰路、パーティーの雰囲気は以前とは少し違っていた。
エリアは、最初こそ元敵組織の一員だったセラに、少しだけ警戒心を抱いていたようだった。だが、セラが自分の罪を悔い、真摯な態度で俺たちに尽くす姿を見て、徐々に心を開いていった。
闇魔法や隠密行動に長け、冷静沈着なセラと、光の魔法で人々を癒し、心優しいエリア。対照的な二人は、しかし、不思議と良いコンビになっていった。
アークライトの我が家に戻った俺たちは、早速、作戦会議を開いた。
テーブルの上に、俺たちが『黒鉄の迷宮』で見つけた古代の日誌と、セラが『深淵の暁』から持ち出した機密文書を広げる。
二つの情報を照らし合わせることで、驚くべき事実が次々と明らかになった。
『深淵の暁』は、俺たちが考えていた以上に巨大な、世界規模のカルト教団であること。
彼らは、俺たちが確保したような『厄災の心臓』を集め、それらを触媒にして、太古に封じられた『大いなる厄災』そのものを、完全に復活させようとしていること。
そして、彼らもまた、残りの五つの封印の場所を血眼になって探していること。
「これは、時間との戦いになりますね…」
セラの分析に、俺とエリアは頷く。
「次の封印の場所は…この日誌の詩と、教団の暗号地図を重ねると…ここだ」
俺が指し示したのは、大陸の南方に広がる、広大な砂漠地帯。
『灼熱の大砂漠』。そして、その中心に、かつて栄華を誇り、今は流砂の底に沈んだと伝えられる、幻の古代都市。
「『サハラ・マハル』…」
エリアが、その名を呟いた。
次の目的地が決まれば、やることは一つ。新たな旅への準備だ。
砂漠の過酷な環境に備え、耐熱効果のあるマントや、大量の水を確保できる魔法のアイテムを買い揃える。
その準備の傍ら、俺は手に入れた二つの『厄災の心臓』の解析を始めていた。
『黒鉄の魔像』から得た闇のエネルギーと、『風の神殿』で得た嵐のエネルギー。性質の全く違う二つの強大な力を、俺は【鑑定(真)】スキルでその構造を理解し、【魔力操作(極)】で慎重に制御する。
そして、【星砕き】を触媒にして、二つのエネルギーを合成する実験を試みた。
剣の刀身の上で、闇と風が渦を巻き、やがて、空間そのものを切り裂くような、黒い刃を生み出す。まだ不完全で、制御も難しいが、俺の力は、また新たな次元へと進化しつつあった。
全ての準備を終えた日。
旅立ちの前夜、セラが俺の部屋を訪ねてきた。
「アルトさん。今更な質問ですが…貴方は、一体何者なのですか? その底知れない力は、まるで神話に出てくる英雄のようですが…」
その問いに、俺はただ、昔を懐かしむように笑った。
「ただの元Dランク冒険者だよ。パーティーの荷物持ちで、足手まといだった男さ」
セラは、その言葉を信じはしなかっただろう。エリアも、隣でくすくすと笑っている。
だが、それでいい。俺が何者であろうと、俺たちの目的は変わらない。
「行くぞ、二人とも」
俺は、新しい仲間たちに向き直る。
「世界の運命を変える旅の、続きだ。次は、砂漠の古代都市で、派手にやらかしてやろうぜ」
新たな決意を胸に、三人となった俺たちのパーティーは、灼熱の太陽が待つ南の大地へと、その歩みを進めるのだった。
壮大な旅の第三章が、今、幕を開ける。




