表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/30

第24話:風鳴きの山脈と、黒いローブの影

アークライトでの穏やかな日々は、次なる旅への助走期間だった。

俺たちは、古代の日誌に記された最初の目的地、『風鳴きの山脈』へ向けて、出発の準備を整えた。


旅立つ前日、俺たちは世話になった人たちへ挨拶に回った。

ギルドマスターのマードックは、俺たちの目的地を聞くと、そのドワーフ髭を満足げにしごいた。

「ほう、『風鳴きの山脈』か。ならば心配はいらんな。君ほどの男なら、あの山の風ですら道を譲るだろう。ギルドとして、できる限りの支援は惜しまん。必ず、無事で戻ってこいよ」

その言葉は、まるで息子を送り出す父親のように、温かかった。


鍛冶師のバルガスは、相変わらずの無愛想を装いながらも、餞別だと言って【星砕き】の手入れ道具一式をくれた。

「あそこはドワーフの古代都市の遺跡があるとも言われとる場所だ。面白いもんが見つかるかもしれねえな。せいぜい、俺の最高傑作を存分に振るってこい」


確かな居場所と、見送ってくれる仲間がいる。

5年前には想像もできなかった温かい繋がりを胸に、俺とエリアは、アークライトの門を後にした。


北へ向かう旅は、世界の広さを俺たちに教えてくれた。

豊かな平原は、やがて荒涼とした大地へと姿を変え、道は険しい山道へと続いていく。道中で立ち寄った宿場町では、『風鳴きの山脈』に関する不吉な噂を耳にした。

「最近、山から下りてくる魔物が、妙に凶暴でな…」

「山に入ったキャラバンが、荷物もろとも消えちまう事件が後を絶たないらしい」

「夜な夜な、山の頂が不気味な光を放つのを見たって話だ」


「どうやら、次の封印も、かなり弱まっているみたいですね」

エリアが、心配そうに呟く。

「ああ。急いだ方がよさそうだ」


旅の道中、俺は宝物庫で見つけた古代の魔法理論書を読みふけっていた。

【無限成長】スキルは、俺の知識の吸収率も飛躍的に高めているらしい。その内容は、現代では失われた高度な魔法体系ばかりで、俺の魔力操作の技術は、新たな次元へと進化しつつあった。

野営の夜、俺がエリアに魔法の基礎理論を教えると、彼女は「すごい…! こんな考え方があったなんて…!」と、目を輝かせていた。


数週間の旅を経て、俺たちはついに目的地の山脈の麓にたどり着いた。

そこは、その名の通り、ゴウゴウと風が鳴き叫び、鋭く尖った岩肌が天を突く、人を寄せ付けない峻厳な場所だった。


山の麓には、最後の砦となるドワーフたちの小さな集落があった。

俺たちが情報収集のために族長の家を訪ねると、屈強なドワーフの族長は、俺の腰にある【星砕き】を一目見て、目を見開いた。


「その剣…まさか、素材は『星鋼石』か…!? それほどの剣を持つとは、お主ら、何者だ?」


事情を話すと、族長は俺たちの実力を認め、山の情報を詳しく教えてくれた。

「山の頂には、風を司る古代の民が築いた『風の神殿』がある。最近の異変は、すべてそこが原因じゃろう。だが、神殿へ至る道は、荒れ狂う天候そのものが試練となり、古代の魔法で動く守護者どもが、侵入者を阻んでくる。並の覚悟で行ける場所ではないぞ」


そして、族長は、眉間に深い皺を寄せ、一つの気になる情報を付け加えた。

「それとな…最近、山の中をうろつく、黒いローブをまとった怪しい一団がおる。奴らも、どうやら神殿を目指しているようだが、その目的も、正体も、一切が謎じゃ。気をつけなされ」


黒いローブの一団。

偶然か、それとも――。


俺はエリアと顔を見合わせる。

どうやら、七つの封印に興味があるのは、俺たちだけではないらしい。

これまでは、古代の遺産や、狂ってしまった守護者が相手だった。だが、今度は違う。明確な意思を持った、未知の敵対者がいる。


「面白くなってきたな」


俺は、荒れ狂う風が吹き付ける、遥か天上の山頂を見上げた。

そこには、新たな厄災の封印と、そして、得体の知れない敵が待ち受けている。


「アルトさん」

エリアが、俺の隣で、決意の表情を浮かべる。

「行きましょう。私たちの手で、この山の嘆きを止めるんです」


「ああ。そうだな」


俺たちは、ドワーフの族長に礼を言うと、風鳴きの山脈への第一歩を踏み出した。

それは、世界の命運を巡る戦いに、初めて「敵」という存在が現れた瞬間であり、俺たちの旅が、新たなフェーズへと突入したことを告げる、力強い風の咆哮だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ