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第21話:過去に捧げる祝杯と、黒鉄の迷宮

路地裏に、醜く泣き崩れる3つの影を残し、俺たちはその場を後にした。

「口直しに、美味いものでも食べに行こう」

俺の提案に、エリアはこくりと頷いた。彼女も、後味の悪い光景から、気持ちを切り替えたかったのだろう。


俺たちは、これまで入ったことのないような、少し高級なレストランの扉をくぐった。

柔らかな光に満ちた店内で、運ばれてきた本格的な料理を前に、俺は5年ぶりに心の底から「美味い」と感じながら、食事を楽しんでいた。


「アルトさん」

エリアが、ふと、優しい笑みを浮かべて言った。

「なんだか、お顔がすっきりしましたね」


「そうかもな」

俺は、ワイングラスを軽く傾けながら答えた。

「長い間、心のどこかに引っかかっていた、錆びついた棘が、ようやく抜けた気分だ」


そうだ、もう終わりだ。

俺を虐げ、利用し、蔑んだ者たちへの復讐は、今、この瞬間、完全に終わった。彼らはもう、俺の人生の登場人物ですらない。

この一杯は、辛く、惨めだった過去の俺に捧げる、最初で最後の祝杯だ。


俺は、グラスに残っていたワインを一気に飲み干した。

過去の全てを、その芳醇な味わいと共に、腹の底へと流し込むように。


食事を終え、心も身体も満たされた俺たちは、ギルドマスターのマードックに挨拶を済ませると、まっすぐに目的の場所へと向かった。

街の外れに存在する、巨大な古代遺跡――『黒鉄の迷宮』。


その入り口は、巨大な竜の顎のように大きく口を開け、挑戦者たちを飲み込もうと待ち構えている。周囲には、過去に挑み、そして敗れ去ったであろう冒険者たちのものと思われる、錆びついた剣の破片などがいくつも転がっていた。


「ここが、『黒鉄の迷宮』…。すごい威圧感です…」

エリアが息を呑む。

「ああ。最高の舞台じゃないか」


俺は、不敵に笑い、新たな相棒【星砕き】の柄に手をかけると、迷うことなく迷宮の中へと足を踏み入れた。


ダンジョン内部は、全てが古代の金属で作られた、無機質で冷たい空間だった。

足を踏み入れた瞬間、壁の無数の穴から、毒の塗られた矢が凄まじい勢いで放たれる。

「アルトさん!」

エリアが叫ぶが、俺は慌てない。【魔力操作】で、全ての矢を空中で静止させ、重力に従って地面に落とす。


次に現れたのは、巨大な斧を振り回すミノタウロスの群れ。

Bランクパーティーなら、一体でも死闘を覚悟する相手だ。

だが、今の俺の敵ではなかった。


「新しい剣の試し斬りには、ちょうどいいな」


俺は【星砕き】を抜き、軽く一閃する。

放たれた剣圧だけで、ミノタウロスの群れは、まるで嵐の後の木の葉のように吹き飛ばされ、壁の染みと化した。


罠は看破し、魔物は瞬殺する。

俺たちは、他のパーティーが何日もかけて進むような道のりを、わずか数時間で駆け抜けた。

やがて、一つの広間に出る。そこには、力尽きた冒険者たちの亡骸や、「これより先、進むべからず」と血で書かれた書き置きが残されていた。ここが、これまでの最高到達点らしい。


「ここから先は、誰も足を踏み入れたことのない、本当の未知の領域だ」


俺たちがさらに奥へ進むと、そこにはこれまでとは明らかに雰囲気の違う、巨大な石碑が鎮座していた。表面には、古代の文字がびっしりと刻まれている。


「アルトさん、これって…」

「ああ、読める」


【鑑定(真)】スキルは、失われた古代言語さえも、俺に理解させてくれた。

そこに書かれていたのは、衝撃的な内容だった。


『――我ら古代の民は、深淵より来たる『大いなる厄災』を封じるため、この迷宮を築き、我らが最高の叡智を結集した最強の守護者『黒鉄の魔像アイアン・ウォーロード』を創造した。魔像は、厄災を永久に封じ込めるための『鍵』であり、同時に、この迷宮を守り続ける哀れな『囚人』でもある。もし、万が一、この封印を解く者が現れたなら、どうか、彼を破壊ではなく、解放してやってほしい――』


「ダンジョンマスターは、悪者じゃなかったのか…」


ただの凶暴な魔物だと思っていた。だが、その正体は、世界を守るために、永遠の孤独という宿命を背負わされた、悲しき守護者だったのだ。


「……ただ倒せばいい、というわけでもなさそうだな」


俺たちは、石碑の間にあった、最深部へと続く巨大な黒鉄の扉の前にたどり着いた。

扉の隙間から、これまでに感じたことのない、強大で、そして、どこか途方もない悲しみに満ちた魔力が漏れ出している。


俺は、その重い扉に手をかけた。

エリアが、俺の隣に、決意の表情で並び立つ。


「さて、行こうか。この迷宮の主に、会いに行こうぜ」


ギィィィ…と、重い音を立てて、数千年開かれなかった扉が、ゆっくりと開いていく。

その先に待つのは、単なる討伐依頼の結末ではない。

古代の悲願を巡る、新たな物語の始まりだった。

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