表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

16/30

第16話:果たされた約束と、落ちぶれた者たちの噂

「さて、約束は果たしたぞ。これで『資格』は得られたよな?」


俺の静かな問いかけに、森の静寂が満ちる。

エルフたちは皆、跪く守護者と、その前に平然と立つ俺の姿を、まるで現実ではないかのように見つめていた。

やがて、衛兵リーダーのリオンが、ふらふらと前に進み出た。彼は、俺の足元で深く、深く、その誇り高い頭を下げた。


「……完敗だ。いや、我々の、完全な思い違いだった。貴公は、ただの人間などではない…。我らが聖域を救ってくれた、大いなる恩人だ。疑い、弓を向けた非礼、心から詫びる!」


リオンが頭を上げた時、その瞳から侮蔑の色は消え、純粋な畏敬の念が宿っていた。他のエルフたちも、次々と俺に頭を下げ始める。もう、俺たちを拒む者は誰もいなかった。


里に戻った俺たちは、長老に導かれ、里の中央にそびえ立つ、天を突くほどの巨大な樹の前へと案内された。

里の神である『聖樹』だ。その幹や葉は淡い光を放ち、神々しい気に満ちているが、森の汚染の影響か、どこか輝きが弱々しい。


「客人よ、見事だった。君こそ『資格ある者』にふさわしい」


長老は、厳かな儀式を行うと、聖樹の幹からゆっくりと染み出してきた、虹色に輝く一滴の液体を、小さな水晶の小瓶に収めた。

【聖樹の雫】。これが、エリアの母親を救うための鍵だ。


「さあ、受け取ってくれ。我らエルフからの、心ばかりの感謝の印だ」

「恩に着る」


俺が小瓶を受け取った時、新たな問題が持ち上がった。エリアの母親がいる村は、ここから何日も離れた場所にある。一刻も早く届けたいが、どうしたものか。

すると、どこからか荘厳な声が、俺の頭の中に直接響いてきた。


『我が友よ。我が背に乗るがよい。君の大切な者の家族の元へ、風よりも速く届けよう』


声の主は、フォレスト・ガーディアンだった。浄化された彼は、テレパシーで俺に語りかけてきたのだ。

俺たちが聖樹の元へ向かっている間に、わざわざここまで会いに来てくれたらしい。


こうして、俺とエリアは、伝説の聖獣の背に乗り、空を駆けることになった。

眼下を流れる景色は、もはや風景ですらない。ガーディアンの跳躍一回で、山を越え、谷を越え、エルフの里から数日かかるはずの距離を、わずか数十分で踏破してしまった。


やがてたどり着いたのは、森の奥にひっそりと佇む、小さな村。追放されたエルフたちが暮らす、エリアの故郷だった。

エリアの案内で家に入ると、そこには、生気を失い、痩せ細ったエルフの女性がベッドに横たわっていた。エリアの母親だ。


エリアは、震える手で母親の口元に【聖樹の雫】を運ぶ。

雫が母親の唇に触れた瞬間、眩い光が部屋中を満たした。母親の身体を蝕んでいた呪いの黒い痣が、光に焼かれるようにして浄化され、消えていく。


やがて光が収まった時、彼女はゆっくりと目を開けた。何年も動かなかったはずの身体を、自らの力で起こす。そして、目の前にいる娘の姿を認めると、その名を呼んだ。


「……エリア…?」

「お母さん…! お母さん!」


二人は、涙ながらに抱きしめ合った。長い間の苦しみから解放された、感動的な再会だった。俺は、その光景を、部屋の隅で静かに見守っていた。


その後、俺たちはガーディアンに礼を言い、彼が森へ帰っていくのを見送った後、再びエルフの里へと戻った。

里のエルフたちは、今や俺たちを「英雄」として迎え入れてくれた。特にリオンは、すっかり俺に心酔したようで、何かと世話を焼いてくるようになった。


その夜、長老やリオンと話している中で、ふと、外の世界の噂話になった。

「そういえば、人間の冒険者で、『深紅の爪』と名乗る者たちが、近頃ひどい有様だという噂ですな」

リオンが、何気なく口にする。


「なんでも、非常に優秀な雑用係…いえ、縁の下の力持ちがいたそうですが、その者を理不尽に追い出した途端、何もできなくなり、Bランクからも陥落して、借金に追われているとか。自業自得ですな!」


その名前に、エリアがぴくりと反応して俺を見た。

俺は、ただ興味なさそうに「へぇ、そうなんだ」と相槌を打つだけ。

だが、心の中では、静かに決意を固めていた。


エリアの母親の件は、片付いた。

俺は、エリアに向き直る。

「エリア。あんたの母親も元気になった。これから、どうしたい?」


エリアは、一瞬の迷いもなく、俺の前に跪いた。

「私の人生は、アルトさん、あなたと出会って救われました。私のこの命、そして私の持つ力のすべては、あなたのためにあります。どうか、これからもあなたの旅に、お供させてください!」


「大げさだな」

俺は、そう言って笑い、彼女の手を取って立ち上がらせた。

「俺の方こそ、よろしく頼むぜ。相棒」


エリアは、顔を真っ赤にしながら、これまでで最高の笑顔で頷いた。

さて、これからどうするか。

世界には、まだ見ぬダンジョンも、倒すべき魔物も山ほどいるだろう。


だが、その前に、片付けておくべきことがある。


「アークライトに戻るか」

俺の呟きに、エリアが「え?」と顔を上げる。


「やり残したことがあるしな。それに……そろそろ、ケリをつけないといけない連中もいる」


俺の脳裏に、5年間俺を虐げ続けた、あの三人の顔が浮かんでいた。

俺の本当の物語は、あいつらとの過去に、完全な終わりを告げてから始まるのだ。

俺たちは、全ての始まりの場所、アークライトへと、再び舵を切ることを決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ