79.見つけた!
「ソーコさん、ウィーゼルってどんな風に捕まえるんですの?」
ダンジョンの入り口でフランさんが聞いてきた。
中には誰もいないし、警備の人たちも門の外にいるから、ここで説明しても大丈夫だろう。
「んー、実はウィーゼルって捕まえるの結構大変なんですよ。なぜなら――めっちゃくちゃ素早いからです」
AOLで初めてウィーゼルを見たときは、「なんだあの生き物は!?」って驚いたくらいだ。
だって、今まで見た魔物の中でダントツに素早かったんだもん。
普通にプレイヤーより速いし、しかも小さいから見つけにくいし。
恐らくだけど、AOLで最速じゃないかな?
「だから、普通に外で見つけてもまず捕まえられないんですよ。だから、ある方法を使うんです」
「ある方法、ですの?」
「ウィーゼルって肉食なんです。それこそ魔物の死体を食べるような」
ウィーゼルの好物は肉、特に『カラーフロッグ』という見た目カエルの魔物が大好きなんだよね。
だから――、
「つまり、魔物を倒して放置して、それを餌にしておびき寄せる作戦なんです!」
「なるほどですわ! ソーコさんって、本当に物知りですわね」
「えへへ、まぁ、それほどでも」
フランさんに褒められて、ちょっとだけ嬉しくなった。
まあ、こんな方法はゲームじゃなきゃ普通はやんないしね。
ドロップをフル無視ってことだから。
「それじゃあ、さっそく中に入ってみましょうか」
◆◇◆
ダンジョン『嘆きの迷宮』の中は薄暗くてじめじめとしており、ひんやりとした空気が漂っていた。
AOLで見てきたダンジョンとほとんど変わらないけど、やっぱり現実世界となると少し怖さも感じる。
そういえば、こっちへ来て初ダンジョンか。
ゲームの中だったら死んでもペナルティがあるくらいで済むけど、今はそうはいかないからね。
気を引き締めなきゃ。
「さて、まずは地下1階からですね。今のところ出会う魔物はスライムとゴブリンだけだから、さっさと地下2階に行っちゃいましょう」
僕はAOLの知識をフル活用して、ウィーゼルが出現する可能性が高い場所を目指す。
スライムとゴブリンもウィーゼルが食べないわけじゃないけど、出来れば効率よくいきたい。
このダンジョンにカラーフロッグ、しかもブラックがいてくれればいいんだけど……。
「――《風切》」
「……《旋風陣》」
「とりゃあーっ!!」
リリス、チヨメ、セラフィの3人は、それぞれ魔物をあっさりと倒していく。
「3人ともさすがだね。――よっと」
向かってくるゴブリンを、双剣で斬り伏せる。
僕も負けてられないな。
この旅が終わったら、そろそろレベリングしないと。
「ゴブリンはあっちだから、次はそっちお願いね」
「わかったのです!」
セラフィが嬉しそうにゴブリン退治に向かった。
「ちょっとセラフィ! 抜け駆けするんじゃないわよ!」
「早いもの勝ちなのですぅ〜倒すのが遅いリリスが悪いのですぅ〜」
「あんたが持ち場を離れるせいでしょうがっ!」
「……2人とも、口より手を動かすべき」
3人は若干揉めつつも、やることはきっちりこなしていた。
「相手がゴブリンやスライムとはいえ、商人の私でも異常な強さを持っていることがわかりますわ……」
「そうね……しかも、4人全員がその力を持っているなんて、とんでもないことね」
フランさんとアリシアさんが、僕らの戦闘を見ながらそんな感想を漏らす。
ま、僕のレベルはまだまだ低いので、正直他の3人と比べると見劣りしちゃうけどね。
「――ん、こんなものかな」
1時間ほどかけて、地下1階の魔物をあらかた倒し終えた。
やはりこの階はスライムとゴブリンしか出現しなかった。
D級のダンジョンだし、こんなもんだろう。
「ソーコさん、このままウィーゼルが現れるまで待ちますの?」
「いえ、とりあえずこの階はこのままにして、更に下へ行きましょうか」
「わかりましたわ」
地下2階に降りてくると、1階とは違って通路が狭く、天井も低くなっていた。
「地下2階はウルフとコボルトがメインかな? このくらいの魔物からウィーゼルの興味を引きやすいですね」
空気も少し澱んでいて生臭い匂いがする。
「前からウルフ3匹とコボルト2匹。まとめて相手しちゃおうか」
「また1番乗りなのですー!」
セラフィは、嬉しそうに走り出した。
「――《氷槍》」
だけど、それよりも早くリリスの《氷槍》が、的確に5匹の頭をぶち抜いた。
「ぴゃっ!?」
「ふふん、いつまでも出遅れるわけないでしょ?」
「ぐぬぬぬぬっ、一気に全部倒すなんてずるいのです!」
「あら? 早いもの勝ちなんでしょう?」
「ぐぬぬぬぬぬ……っ!」
悔しがるセラフィに勝ち誇った顔をするリリス。
2人が競うように倒し始めたため、この階は予想以上に早く終えた。
◆◇◆
「よーし、いよいよ地下3階だね。ここは何が出るかなーっと」
地下3階は、2階よりもさらに狭く、天井も低い。
通路の両脇には水が溜まっていて、じめじめとした空気が淀んでいる。
そして、カエルの鳴き声のようなものが、あちこちから聞こえてくる。
やった、この階の構造といい、運がいいぞ。
「運がいいことにカラーフロッグがいますね。それに通路が狭いので、ウィーゼルも逃げにくい」
「ソーコさんの日頃の行いかしら?」
「ふふ、そうかもしれませんね。――カラーフロッグですが、レッド、ブルー、グリーン、イエロー、ブラックの5種類の色がいて、それぞれ固有の攻撃があったりします。まぁ、そんなに強くないから大丈夫ですけど」
僕はカラーフロッグの特徴を説明しておく。
レッドは火属性、ブルーは水属性、グリーンは土属性、イエローは風属性、そしてブラックは闇属性の魔法をそれぞれ使ってくる。
「――いた! あそこにカラーフロッグがいるのです!」
セラフィの指差す方向を見ると、3匹のカラーフロッグが跳ねていた。
レッド、ブルー、グリーンだ。
「《氷矢》――」
「ふんぬうぅぅぅ――ッ!!!」
「バシュンッ!!!」という音とともに、3匹のカラーフロッグが消え去った。
文字通り、肉片すら残さず完全に消え去った。
「え、えぇ……」
僕、ドン引き。
一瞬何が起こったのかわからなかったけど、どうやらリリスの魔法よりも早く、セラフィが全力でぶん殴ったみたいだ。
魔法でもスキルでもなく、ぶん殴っただけ。
戦闘力が1番なのは知ってたけど、セラフィが本気出したらここまで強いのか……。
僕のメインでもあるミストでも、こんな芸当はできないと思うんだが……。
「あっ、今度はブラックなのです!」
「ストーップ!! セラフィ、ストーップ!!!」
僕がこの言葉を発す一瞬で、セラフィは既にブラックフロッグとの距離を詰めていた。
速すぎでしょ……。
「このお馬鹿ッッ!!! あんた主様のお話を聞いてなかったわけ!?」
「ふぇ? ……あっ」
セラフィはようやく思い出したのか、きょとんとした愛らしい顔を真っ青に染めた。
「……セラフィには難しすぎた。このままでは撒き餌として使えなくなる。大人しくしてるべき」
チヨメはそう言って、逃げ出そうとしているブラックフロッグを瞬殺した。
「うぅ……こめんなさいなのです、ご主人様……」
セラフィは肩を落とし、すっかりしょんぼりとしてしまった。
たけど、このままセラフィに攻撃されて、チヨメの言うようにウィーゼルを誘き寄せれなくなってしまったら困る。
セラフィには悪いけど、少し後ろで見ててもらうことにしよう。
「セラフィ、君はとっても強いけど、その分小さな力加減ってのが難しいのかもね。今回は失敗できないし、リリスとチヨメ、それに僕もいるから少し待っててくれる?」
僕がそう言うと、セラフィはショックを受けた顔をしていたけど、流石に今回は「あぅ、わかったのですぅ……」と従ってくれた。
後ろに下がったセラフィは、アリシアさんとフランさんに慰めてもらってるようだ。
そうしてしばらくカラーフロッグを倒し続け、
「よしよし、これでカラーフロッグは全滅かな? あとは、ウィーゼルを待つだけだね!」
結局、ブラックフロッグは最初のを含めて2匹しかいなかった。
まあ、しかたない。
あとは、ウィーゼルが来るのを待つだけだ――。
◆◇◆
「……ソーコさん、この階は諦めたほうがいいんじゃないかしら?」
1時間くらい待っただろうか。
待てど暮らせど、ウィーゼルは現れないので、フランさんが心配そうに声をかけてくる。
そうしたいのは山々だけど、おそらくこの階が1番可能性が高い気がする。
あの後、リポップしたカラーフロッグも倒して、ブラックフロッグを倒した数も6匹になっていた。
「もうちょっとだけ見て回りましょう」
僕は歩きながらそう返したその時――、
「――いました」
チヨメが、ブラックフロッグの前にいる小さな生き物を発見し、小声で教えてくれた。
――ついに、見つけた! ウィーゼルだ!
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