80.良しとしとこう
あけましておめでとうございます。
僕は『声を出さないようにしなければ』と心の中で思い、それをセラフィにも伝えようと思って振り返った。
だけど――、
「あっ――」
と、まさに声を出そうとしてたセラフィの口を、隣にいたフランさんとアリシアさんが口を押さえた。
――セ、セーフ!!
そう思ったのも束の間――。
「――キュッ」
ウィーゼルは警戒心の強い魔物だ。
少しの音や気配にも敏感で、危険を察知するとすぐに逃げてしまう。
たぶん、今のセラフィの声で気付かれたんだろうなぁ……。
ウィーゼルは、僕たちがいる方向とは逆の方向へ、全速力で逃げ出した。
――ってか、速い速い、速すぎる! あれ!? AOLの時よりも速くなってない!?
まさか、ゲームの中ですらあんなに速かったのに、さらにスピードアップしてるとは考えもしなかった。
「このお馬鹿ッ!!」
「ぼべぶばばびべぶぅー!」
リリスは物凄い剣幕で、セラフィの頭をガシッと掴んだ。
セラフィはというと、口を押さえられてるので何言ってるかよくわかんないけど、きっと謝ってるんだろうな。
「リリス! チヨメ!」
「おまかせを」
「御意」
僕は2人の名前を呼ぶと、それを知っていたかのように動き出す。
「――《土壁》! 《暴風壁》!」
リリスはウィーゼルの逃げる方に向かって、2つの魔法を同時に展開した。
中級土属性魔法の《土壁》で、地面を盛り上げて壁を作り、上級風属性魔法の《暴風壁》で、さらに風の壁を作り出して2重にした。
これでウィーゼルが逃げる方向の通路を完全に塞いだ。
「キュッ!?」
チヨメが《分身の術》で分身を作り出し、音もなく超速でウィーゼルに迫っていく。
彼女の『固有能力』であるこのスキルは、本体とまったく同じ強さの分身を作り出すことができるのだ。
チヨメ1人でも十分強いんだけど、2人になれるなんて、正直かなり反則級な強さだ。
なのに――、
「キュキュッ!!」
「……っ」
そんなチヨメをもってしてもウィーゼルを捕まえるのは至難の業だった。
壁に阻まれたウィーゼルは、チヨメの分身体を簡単に躱し、なんと僕たちのいる方向へと壁を伝って超高速で移動し始めた。
――はやっ!
ウィーゼルは僕たちを嘲笑うかのようにキュキュと鳴きながら壁を駆け上っていく。
そして――、
「セラフィ!」
「とおぉー」
「――キュピィッ!?」
セラフィの拳がウィーゼルに向かって放たれる。
ただし、それは風圧だけで実際に殴ったわけではない。
風の力で向かってくるウィーゼルを押し戻したのだ。
威力を調整してるとはいえ、その風圧は壁にヒビが入るほどの威力。
ウィーゼルは地面を転げ回って後退する。
「これで――おしまいっ!!」
ウィーゼルの起き上がりを狙って、僕は《正拳突き》をかまし、ウィーゼルは「キュッ!」と小さく悲鳴を上げて倒れた。
「やったのですー!」
セラフィが嬉しそうに両手を上げて喜んでいた。
「セラフィ、偉かったわね。今度はちゃんと力加減ができたわ」
アリシアさんが、喜ぶセラフィの頭を撫でて褒める。
うんうん、なんか久し振りに連携とって戦えた感があるね。
「みんな、お疲れさまでした。ゆっくり休みたいところだけど、早くシーラさんのところに戻らないといけない。初めてのダンジョンだから踏破したい気持ちもあるけど……また、いつか来よう」
「承知しましたわ」
「御意」
「わかったのですー!」
僕たちは来た道を戻り、『嘆きの迷宮』を後にするのだった。
◆◇◆
僕たちはまた半日以上かけて、伯爵邸へと戻ってきた。
正直、移動にも疲れてすぐにでもベッドで休みたいけど、ここが正念場だ。
もうすぐ夜が明けそうな時間帯だけど、さっそく解毒薬を作らなきゃ。
「それじゃあ、僕は解毒薬を作りますので、しばしお待ちを」
そう言って、別の部屋に移動した。
「さて、ちゃっちゃと作って治して、ゆっくり寝よう……」
『バジリスクの毒』の解毒薬は『ウィーゼルの血』と呼ばれているけど、実際はそのまま血を抜いて飲ませるわけじゃない。
ウィーゼルから抜いた血と上級キュアポーションを混ぜ合わせて作るんだけど、これに関しては何ら難しいものではないのだ。
まぁ、この『ウィーゼルの血』は、素材となるウィーゼルを確保することが最大の難所なので、それさえクリアしちゃえば……。
「あっという間の出来上がり〜ってね」
僕は出来上がった『ウィーゼルの血』を掲げた。
液体の色が徐々に紫色へと変化していく。
「うーん……元が血なだけあってちょっとグロいな」
ま、僕が飲むわけじゃないしいっか。
シーラさんには申し訳ないけど、これも回復するためだ。
我慢してもらおう。
僕は、出来上がったばかりの解毒薬を持って、シーラさんのいる寝室へと向かった。
◆◇◆
「ソーコ殿、頼みましたぞ……!」
「はい、必ず」
伯爵は、今にも泣き出しそうな顔で僕を見つめていた。
僕はそんな彼を安心させるように力強く頷き、シーラさんのベッドの横に座った。
彼女はまだ目を閉じたまま、苦しそうに息をしている。
――なんとか間に合ってよかった。
後1日遅かったら、間に合わなかったかもしれない。
そう思うと少しゾッとする。
僕は、そっとシーラさんの口を開けて、『ウィーゼルの血』を少しずつ流し込んだ。
「――っ!」
『ウィーゼルの血』を飲み込んだ瞬間、シーラさんの体が激しく痙攣した。
伯爵は驚いて「シーラ!」と叫んだが、僕は落ち着いて彼を制止する。
「落ち着いてください、伯爵。これは、毒が抜けていく反応なので心配ありません。きっと、すぐに良くなるはずです」
僕の言葉通り、シーラさんの痙攣は徐々に治まっていき、代わりに彼女の体が淡い光に包まれた。
それは、まるで生まれたての赤ん坊のように神々しい光だった。
「すごい……」
フランさんやアリシアさんは、その光景をただただ息を呑んで見つめていた。
光が収まっていくと同時に、シーラさんはゆっくりと目を開けた。
「……ここは……?」
「シーラ!! 目が覚めたのか! よかった……本当に良かった……!!」
「あなた……?」
伯爵は、シーラさんの手を握りしめながら、大粒の涙を零した。
フランさんもアリシアさんも、まるで自分のことのように嬉しそうに泣いていた。
そんな3人を見て、僕も「ああ、本当に良かった」と心の中で安堵のため息をついた。
「ソーコさん、本当に本当にすごいですわ!」
「っとと」
フランさんが僕に勢いよく抱きついてきた。
いい匂いがするし、柔らかい。
――うむ、これは……ご褒美ですね!
今回はなかなか疲れたけど、みんなの嬉しそうな顔を見れたから、まあ良しとしとこうかな。
新しく投稿を始めました!
『アラサーから始まる異世界無双ライフ 〜スキル『シャドウマスター』は最強でした〜』
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チートスキルを授かうも役に立たず、おっさんになってから覚醒する物語です!
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