第4章 愚者の制圧
レイは予定通り東にある森林地帯を目指して歩いた。急いだり休む必要も無いので、ゆっくりと確実にそれなりの速度で進んで行った。途中、リリアと会話をしながらだったが、お互いに記憶を無くしているので話は進まない。それでも独りで歩き続けるよりはマシだとレイは思っていた。
「なかなか近づかないな」
『そうですね。このペースですと後2日くらいでしょう。頑張ってください』
「お前は歩かなくていいから楽だな。運動不足で太るぞ」
『私には体重と言う概念がありませんので、ご心配無用です』
「そっか。それよりお前のエネルギー源は何だ?」
『申していませんでしたか? 御主人様の生体エネルギーです。細胞から出る微細な電気や精神波、有機物などです。御主人様にとって不必要な物を使用させていただいております』
「精神波は不必要ではないと思うが……。つまり、俺の排泄物や老廃物で動いているのか?」
『非常に不愉快な表現ですが、おおむねその通りです。つまり、御主人様が死ねば私も消えます』
「他の誰かに憑依すればいいんじゃないのか?」
『私は心霊現象ではありません。すでに御主人様に合わせてチューニングを致しましたので、他の方には移動できません』
「そんな大事な事を簡単に決めてよかったのか?」
レイから見える妖精姿のリリスが誇らしげに見つめている。彼女なりに覚悟を持ってレイと融合したのだろう。こんな話をしながら目的地に向かって進んだ。森に近づく前に、今まで歩いて来た方向を振り返ってみた。草木も生えていない一面の荒野で、少し窪んでいる。道理で登り詰めだったんだとレイは納得した。
「そうか。ここは爆心地だったのか」
『爆心地ですか? 何かの爆発の後ですか?』
「どれくらい前か分からないが、ここで大きな爆発があったみたいだな。クレーター状になっている」
『そうですね。私たちがいた建物が中心地みたいですね』
爆発の中心地にある建物にレイもリリアも保管されていた事になる。いつかその原因も調べなければならないとレイは考えた。自分たちの失った記憶に関係があるかも知れないからだ。
『御主人様。森林方向530mに生物反応を多数感知しました』
「人間か?」
『はい。人間が複数です。2つのグループが敵対関係にあるようです。乗り物と馬らしき生物もいましたが逃げています』
「盗賊とかかな? これがラノベなら王女様とか貴族の令嬢とか、凄いお金持ちの商人が襲われているんだろうけどな」
『ラノベとは何ですか? 私のデータベースには存在しない用語です』
「なんだろうな? 何となく思いついたんだ」
なるべく気配を消して近づいて行くことにした。盗賊なのか正規の戦闘なのか分からないと判断できない。もし、理由のある戦闘ならば、どちらかを助けるのは良くないと思ったのだ。
『どうも乗り物に乗っている一団が、他の勢力に襲われているようです。一歩的に殺戮されているみたいですが』
「そうだな。劣勢な方は服装が小綺麗だ。それに対して襲っている方は明らかに盗賊か山賊だな」
『助けますか?』
「あぁ。情報収集もしたいから劣勢な方を助けよう」
レイは全速力で彼らの元に向けて走った。彼の想像以上に速度と耐久力があるようだ。それほど時間もかからずに襲撃場所にたどり着いた。ほんの数分というところだろう。
「リリア。奴らは殺してもいいのか?」
『明らかに略奪行為を行っている盗賊です。情けは無用だと思われます。後は御主人様の気持ちの問題です』
「そうか。なるべく無力化を前提に戦う。だが、状況に応じては殺す」
あと少しで戦闘地帯に入る前にレイは魔銃を構えた。今にも相手を攻撃しそうな者を目標として、引き金を絞る。凄まじい速さの光線が盗賊たちの肩や足、腕などに当たる。それでも短刀を振り下ろそうとしている盗賊の後頭部を打ち抜く。その場にいた全ての人間が固まった。何が起きたのか理解できないのだろう。
「お前たちは盗賊か? それとも正当な理由があって彼らを襲っているのか? 即時武装解除して返答を求める」
『御主人様。僥倖です。言葉が通じているようです。彼らの会話も収集してデータベースに保存しておきます』
魔銃を片手にレイは皆を見渡している。敵意があるか無いかを顔つきで判断していた。
「なんだ! 突然現れやがって! 魔法か?」
身体が大きく巨大な戦斧を持った男が喚いている。こいつがリーダーかとレイは冷静に判断していた。
「リリア。魔法ってなんだ? 知っているか?」
『いいえ。初めて聞いた単語です。何らかの攻撃手段でしょう。気を付けてください』
レイは身体を一気に動かして戦斧の大男の背後に回った。彼らの目に留まらなかった速さだ。レイ自体も自分がこれだけ動けるとは理解していなかった。魔銃の銃口を戦斧の大男の後頭部に付けて、ゆっくりと周囲を見渡した。
「こいつの威力は分かっているよな。お前らが何かしたら、躊躇いなくこの男の頭を破壊する。理解できるなら武器を捨てて地面に俯せに寝ころべ」
「うるせぇ! こんなもんでやられる訳がないだろう! お前ら気にするな。こいつを殺して目標を攫え!」
レイは予備動作も無く引き金を数回引いた。頭部ではなく大男の両肩と両腿を打ち抜いた。大男は戦斧を離し地面に俯せに倒れた。
「うるさいのはお前だよ。これで分かったか。俺はいつでもお前らを殺せる。だが、殺してはやらん。お前らは今までお前らが殺した者の家族から追われるがいい」
「へっ。商人や農民がいくら追いかけて来ても返り討ちに合わせてやる」
「無理だ。お前ら全員の神経系統を弄らせて貰った。力も足の速さも子供並みになり、更に利き腕と利き足と利き目がまともに動かなくなっているはずだ。力に溺れた愚か者よ。その力で代償を払え」
レイが何をしたのかは誰も分からなかった。ただ、盗賊たちがレイの言う通りに武器を握ることもできず、満足に歩けなくなっていた。それから盗賊を縄で縛って転がしておく。その段階でやっと馬車から人が降りてきた。盗賊が襲ってきて、それをいきなり無力化した者が現れたのだ。恐怖を感じるのは当たり前だろう。
残念ながら馬車の外にいた従者や護衛は全て殺されているようだ。御者もいないようだから逃げたのかも知れない。馬車から降りてきたのは、少女が2人だった。一人はドレスの様な上等な服で、もう一人はメイドの様な服を着ている。レイは自分がメイド服を認識できる事に、少し疑問を持ったが気にしないことにした。
「儂とこの従者を助けてくれたことに感謝するぞよ。しかし、汝は何者じゃ? 見たことも無い技を使いよる」
「まぁ、詳しい事は、これから話そう。それよりもこの盗賊をどうする?」
「こ奴らは盗賊ではないぞ。儂の命と身体を狙う刺客じゃ」
「つまり悪い奴って事だな。だが、こいつら自分らの事を盗賊だと言っていたぞ」
「隠密じゃ。身元が割れると色々と面倒なんじゃろう」
「何となく分かった。君はこいつらをどうしたい? 殺すか?」
レイが生殺与奪をドレスの少女に委ねた。元々、彼女らが襲われ仲間を殺されたんだ。好きにすればいい。そう考えた。
「殺さずともよい。先ほどの汝の言葉を聞かせて貰った。それが本当ならもう何もできんじゃろう」
「連れて行くのは無理だと思うぞ。ここに捨てることになるがいいのか?」
「うむ。それもこ奴らの運命じゃ。運に恵まれれば、生き残るじゃろう。だが、奴らは許さんじゃろうがな」
奴らって気になったが聞かない事にした。それよりも彼女とは色々話してみたかった。今のレイには情報が圧倒的に足りない。自分自身についてもだが、この世界についても何も分かっていないのだ。
この幼女なのに年より臭い喋り方をする娘なら何か教えてくれるだろう。レイは微かな希望にすがることにした。
『御主人様。先ほどの四肢衰弱の技は何ですか?』
「俺にも良く分からないんだ」
『そうですか。解析しておきます』
寄り添って立ち尽くしている2人の少女に向かってレイは精一杯の笑顔で語りかけた。
「まず、ここから離れた後にお互いに自己紹介でもしないか?」




