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第5章 道行の始まり

 遠くに逃げてしまった馬の事は諦めて、徒歩で進むことにした。少女たちは最低限必要な荷物を選んでいる。レイは重そうな荷物を抱え、少女たちに付いていくことにした。彼女らが刺客と呼ぶ男たちから、なるべく早く離れたかったからだ。もし本当に刺客なら、やつらの仲間が来るかも知れないと考えた。

 しばらく森の中を進んで、少し開けた所で休憩する事にした。それまで少女たちもレイもあまり会話をしていなかった。その為に何となく重苦しい空気が流れていた。やはり、彼女たちにはレイの傍を飛んでいるリリアの姿は見えていないようだ。リリアが飛び回っても全く反応しなかった。


「この度は助けて頂き感謝いたします。あの……。あなた様は?」


 メイド服の少女がおどおどとレイに話しかけてきた。


「気にしなくていいよ。たまたま通りかかっただけだ」

「この破滅の大地をたまたま通りかかる人間がおるのか? お主は何者じゃ?」

「破滅の大地? 俺は如月 レイだ」

「きさらぎ……。なんじゃと? お主は貴族か?」

「貴族? すまないが俺は名前以外覚えてないんだ。まぁ、レイと呼んでくれ」


 レイの発言に少女たちは驚いていた。屈強な男たちを一蹴した人物が記憶喪失だとは、にわかに信じられないのが当たり前だ。


「記憶がないじゃと? この未開で最も危険だと言われている場所で、何も分からずにおったのか?」

「何だか説明的だな。そうだな。気が付いたら、ここにいたんだ。その前の事は記憶にないな」

「お嬢様。詳しいお話は後程でも……。まずは名乗られてはいかがですか?」


 従者の少女が見かねて口をはさんだ。


「そうじゃな。儂はラーファエル・ザイン・エルンドライムじゃ。ラーファと呼べ。この従者はムルリアじゃ」

「ムルリア・ウェインです。ラーファエルお嬢様のお側仕えをしております」

「それはご丁寧に。ちなみに年齢を聞いても失礼じゃないのかな? 俺は年も忘れたけどな」

「儂は13歳じゃ。ムルリアは16歳じゃぞ。レイはムルリアと同じくらいに見えるな」


 13歳にしては大人びた喋り方をしているなと、レイは思ったが口にはしなかった。ラーファからは明らかに高貴な感じがする。


「で、ラーファさんは貴族なのか?」

「レイよ。ラーファと呼び捨てにしてくれんか。そうじゃな、貴族の様な者じゃ」


 貴族の様な者って王族かとレイは考えたが、これも黙っておいた方が良いと判断して突っ込まなかった。レイとラーファは、まだお互い手探り状態で会話を続けている。


「君たちはなぜこんな所にいたんだ? 追手から逃げるにしてもここは良くない場所なんだろ」

「そうじゃ。ここら一帯は破滅の大地と呼ばれる上位魔物の出没する地帯じゃ。普通は近づかんじゃろうな」

「実は、ある方がお嬢様を罠に嵌め、この地に馬車ごと転移させたのです」

「儂の命を狙うものが、儂だけでなく供回りまで転移してしもうたのじゃ。それでもこの地であれば、儂を亡き者に出来ると考えたのじゃろう」

「更に暗殺者も送り込んできたって事か? 念入りだな。よっぽど君が生きているのが、その相手にとって不都合みたいだな」


 彼女らの大体の状況と事情は分かった。後は今後どうするかだ。


『御主人様。いかがなされるのですか? 明らかに面倒ごとに巻き込まれていますよ』

「そうだな。だが何も知らない俺たちにとって、貴重な情報源だぞ。しばらくは一緒にいるべきだろう」

『御主人様がそうおっしゃるならお止めしません』


 リリアと思念で会話しながら、レイはこの少女たちと一緒に行動することを決めていた。レイはこの世界の事も世情も何も知らないのだ。貴族なら様々な情報も持っているはずだ。手ごろなガイド役が手に入ったと心の中で喜んでいた。


『御主人様。周囲に生体反応を多数検知しました。警戒してください』


 レイも辺りに何かいる事は気付いていた。だが、少女たちは何も気付いていないようだ。


「この森には魔物がいるんだよな? どんなのがいるんだ?」

「様々な魔物がいるそうじゃ。クラスで言うとDクラスからAクラスまでいると聞いておる。さすがにSクラスはいないようじゃ」

「クラスは討伐の難易度で付けられた階級です。各ギルドや王国騎士団が決めています。Sクラス1匹で簡単に大陸を滅ぼすと言われています。Aクラスで国を消し飛ばすそうです」

「ムルリアさん。詳しい説明ありがとう。でも、何となくピンとこないな。じゃ、あれはどれくらいのクラスなんだ?」

「あっ……。私も呼び捨てでお願いいたします」


 ムルリアの小さな声で発せられた声はすぐに消し飛ばされた。レイが指さした先には、真っ赤な体皮を持った体長5mくらいのトカゲがいた。まだ彼らまで10m以上の距離がある。じっと彼らを見て、長い舌をチョロチョロと出し入れしている。


「あれはレッサーサラマンダです。Cクラスだと聞いた事があります! 危険です! 逃げましょう!」

「それが残念ながら、もう囲まれているんだよ。突破するか、全滅させるしかないな。どっちがいい?」

「囲まれている!? 何匹くらいですか? それよりなぜ分かるのですか?」

「5匹くらいかな。分かるのは何となくだよ」


 索敵能力を持っているとは言えないので、適当に胡麻化している。しかし、少女たちは疑惑と不振の目で、レイをジトっと見つめている。少女たちを守りながらの戦いは不利だと考えたレイは、おもむろに前方のレッサーサラマンダに向かって走り出した。一気に飛び出したので、少女たちにはレイが消えたように見えた。


 次の瞬間にレイはレッサーサラマンダの横に現れ、足の甲でレッサーサラマンダの腹を思いっきり蹴り上げた。彼の身長の倍以上の大きさの魔物が軽々と浮き上がっている。3m近く跳ね上がったレッサーサラマンダが落ちてくる前に魔銃を抜いた。

彼の左右数mにいた別のレッサーサラマンダたちも浮き上がった同族を見上げている。すかさずレイは左右1匹ずつのレッサーサラマンダの頭部を打ち抜いた。その頃には目の前に浮かんでいたレッサーサラマンダが落ちてきたので、左手で軽く顔面を殴った。殴られたレッサーサラマンダの顔面は見事に破壊されている。


『残りの未確認生物は逃走したようです』

「そうか、魔物って暗殺者よりも賢いんだな」

『そうですね』


 歩いて少女たちの元に戻ると、恐怖に引きつった目で怯えて震えている。たかだかでかいトカゲを殺しただけだろうとレイは思って彼女たちに近づいた。


「レイ様。大丈夫ですか?」

「特に問題はないよ。ムルリア。他のも逃げたみたいだ」

「いえ。レッサーサラマンダに触れて大丈夫だったのですか?」

「そうじゃ。レッサーサラマンダは攻撃態勢時の皮膚は鉄でも溶ける温度じゃと聞いた事がある。お主の足も手もなぜ無事なのじゃ?」

「そうなんだな。それほど熱くは無かったぞ。運が良かったんだろうな」

「運って……」


 ラーファもムルリアもぽかんとしている。彼女らの話ではレッサーサラマンダが複数出現した場合は、騎士団か上級冒険者が数十人単位で討伐に向かうらしい。つまり、それと同等の能力をレイが保持しているとラーファたちは理解した。現状ではレイと共にいた方が安全なのだと。それからしばらくは進行方向に現れた魔物をレイが簡単に一撃で屠って進んでいた。



「そう言えば、冒険者ってなんだ? それに騎士団もいるのか?」

「あぁ。ここはギリアス帝国の領土なんじゃ。もちろん辺境ではあるが、帝国騎士が中隊規模で守っているはずじゃ」

「それと冒険者ですが、冒険者組合で試験を受けて合格すると冒険者になれるそうです。こちらもランクがあるそうですが……」

「ありがとう。良く分かったよ」


「やはりレイ様は騎士様か冒険者様ではないのですか? あれほど高ランクの魔物をいとも容易く倒すなんてありえません」

「本当に俺は記憶が無いんだよ。戦闘も身体が勝手に動いているって感じかな。もしかするとムルリアの言うように冒険者か騎士だったのかも知れないな」


 記憶が無い事自体を信用して貰ってないのかとレイは不安になった。自分でも思った以上に戦えていると思うからだ。


『いいえ。御主人様は騎士でも冒険者でもありません』

「断言するんだな。じゃ、なんだ? その根拠も含めて説明してくれ」

『御主人様のパーソナルデータにその様な項目はありません。そもそも職業欄というものも無いのです』

「俺のデータは見えないんじゃなかったのか? つまり分からないんだよな?」

『そうとも言います。残念ながら我々は正体不明・年齢不明・職業不詳・住所不定と言うことになります』

「我々って、お前は自称ナノマシンなんだよな?」


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