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第3章 螺旋の脱出

 扉の残骸を抜けると真っすぐな廊下があり、少し先の広間に螺旋階段があった。下には床のみで上にしか行けないようだ。つまり、ここは最下層ということになる。レイはゆっくりと階段を昇った。彼が心配していた損傷や腐食は無いようだ。扉と同じような丈夫な素材で造られているのだろう。


「リリア。お前は本当に俺の事を知らないのか?」

『それはどの様な意味ですか?』

「いきなり頭の中に入ってきたり、俺の名前を知っていたり、それ以外にも細かい事を知りすぎているからな」

『リリアは御主人様に疑われて悲しいです。ですが、私も御主人様と同様に記憶が欠損しております。もしかすると……』

「誰かが意図的に俺たちの記憶を消したってことか?」

『その可能性は十分にあります。私の権限は殆ど剥奪されていませんし、御主人様も施設へのレベル10のアクセス権をお持ちです』

「つまり、自分の事を知りたかったら、自分で調べろって事だな」

『はい。同意します』


 長い螺旋階段をのんびりと昇って行った。不思議とレイに疲れの色は見えない。淡々と無言で階段を踏みしめている。しかし、レイはそろそろそれにも飽きそうだった。


『そう言えば、扉を破壊するのに、なぜ剣を使わなかったのですか?』

「いや。何となく拳でいけるかなぁって思って……」

『脳筋ですか? 今後何が起きるか分かりませんから、武器の取り扱いを習得しておいてください』

「あぁ、でもこの外はそんなに危険なのか?」

『分かりません。ですが常に最悪に備えるべきです』


 リリアが少し強めにレイに注意した。暇つぶしの雑談の意味もあったかも知れないが、今までになく真剣な口調だった。レイは分かっているのか分かってないのか分からない顔をして、それまで通りに階段を上がっていた。

 その後もぽつりぽつりとレイとリリアは会話をしながら先をすすんだ。昇って来た時間から計算しても施設は相当深い場所にあった事になる。不思議だったのは階段の照明が灯ったままだった事だ。施設のメインモジュールも発電施設もまだ生きていることになる。

 レイもそれに気が付いていたが、どうせ出ていく施設だからと気にもしていなかった。


 やっと天井に着いた螺旋階段の上は蓋が閉まっている。レイがゆっくりと持ち上げて、顔の上半分だけを覗かせて辺りを見た。どうも洞窟の中の様だ。周囲は土と岩で囲まれている。

 蓋を開けて外に出るとやはり洞窟だ。出口は見えないが風の流れを感じる。それほど深い洞窟ではないのだろう。もちろん明かりは無く真っ暗だ。しかし、レイの目にははっきりと周囲の状況が見える。リリアの影響だろうと簡単に考えていた。


「リリア。ここに見覚えはあるか?」

『いいえ。初めてだと思います。幸い近くに敵性存在もいないようです』

「え? おまえ。そんな事も分かるのか?」

『はい。微弱なソナーを放出して最大半径数百メートルまでなら、生命体を感知することができます』

「便利だな。俺にはできないのか?」

『さぁ。分かりません』


 リリアの案内で洞窟を進んだ。それほど時間が経たなくて出口の明かりが見えた。ほぼ一直線だったからだろう。しかし、レイはこれだけ螺旋階段を上がったり、洞窟を歩いたりしたのに一切疲れていない自分に気づいた。普通の人間なら何度も休憩が必要だっただろう。リリアはレイの中に入っているから疲れることは無いのだが。



 洞窟を出てみると一面草原だった。洞窟の入り口部分だけがこんもりと小さな丘の様になっている。よくいままで誰にも見つからなかったものだとレイは思った。少し歩くとそれほど大きくない川があった。レイは良さそうな場所を見つけて休む事とした。さすがにここまで色々あったので、考えを纏めたいと思ったのだ。リリアからもできるだけ情報を聞き出したい。


「リリア。まずはお前が知っている事を全て教えてほしい。もちろん俺の知っている事も全て話す」

『妥当な交渉ですね。先ほども申しましたが、私は高性能思考型ナノマレイ集合体です。小さな考える機械だと思ってください。妖精さんの様なものです』

「妖精さんはちがうだろう。まぁ、機械のお前が俺の身体に入ってきたってことだな。俺の何が変わった?」

『実は御主人様の肉体を改造するつもりでしたが、拒絶されてしまいました。今の私に出来ることは小粋なトークと周辺探知位です』

「お前から小粋なトークを聞いた覚えは無いんだけどな。なんで俺の身体を弄れなかったんだ? お前はその為の機械じゃないのか」

『はい。私は人体改造用のナノマシンです。ですが、御主人様の身体も心も私のアクセスを完全拒否するのです。あなたは人間ですか? 私のスキャンでは通常の人類と同じ構造と組成なのですが……』


 彼は会話をしながら悩んでいた。ますます自分が分からない。リリアの言動や機能から生物の身体を改造できるのは想像できる。だが、自分にはそれができない。と言うことは自分は何なのか?あのメッセージにあったように自分の秘密を探す必要があるだろう。自分の性能が分からないのは危険であり恐怖だ。

早々に調べるべきだと思うがどうすればいいのか見当もつかないのだ。そう。ここは草原の真ん中で、目覚めた施設にもロクな資料も無かった。


「リリア。まずは人に会おう。俺たちがどれくらい正常なのか異常なのか、比較対象が無いと判断できない」

『それは良い意見だと思います。できれば、それなりの都市にでも行けると情報収集ができそうです』

「じゃ、当面の目標は街探しだな。明日の朝から探すぞ」


 何度も言うがリリアはレイの頭部に寄生している。つまり、ここまでの会話は第3者が聞くとレイの独り言に聞こえるのだ。それに気づいたレイは少し恥ずかしくなってしまった。




 翌朝、目覚めたときにレイは違和感を覚えた。なぜか全く空腹を感じないのだ。疲れも特に残っていない。昨日は結構な距離を歩いたり、階段を上り続けたのにだ。まぁ、食事を必要としないのは便利な事だが、急に体力が無くなるのも困る。レイはリリアに聞きながら食べることのできる食材を集めた。

薪を集め光剣で火を熾す。焼くしかないので調理法は1択だ。いい感じに焼いて食べた。素材の味のみなので、調味料の欲しい所だった。


 それから進行方向を決めた。北側の遥か遠くには山脈が見える。西側と南側は見当たす限りの平原だ。東側のずっと先に森があるようだった。森までは見渡す限り草が生えていて、道らしきものも無い。


「リリア。どっちがいいと思う?」

『何かある可能性が高いのは、北か東でしょう。限りなく低い可能性ですが』

「俺もそう思っていた。ただ、山脈はあまりにも遠いだろう? ここは東かな」

『そうですね。森林地帯でしたら食料の確保や道具の作成もできるでしょう』


 レイは東に向かって進むことにした。動物などの姿も見えず何もなく、しばらくは何もなく進んでいった。


『そう言えば、御主人様の事を、まだ何も伺っていませんでした』

「俺も記憶がないからな。最後の記憶はトラックに轢かれる所だった」

『トラック? トラックとはどのような物でしょうか?』

「大きな自分で走る鉄の塊だよ。人間が運転しているんだけどな。大体が荷物を運んでいる」

『それに轢かれるとどうなるのですか?』

「まぁ、普通は死ぬな。俺も死んだと思ったよ。でも、なぜかあそこにいた」

『私の記憶データにトラックと言う用語はありません。記憶しておきます』


 レイは徐々に記憶を取り戻していた。まだ混乱しているのでリリアには話せなかったが、心の奥底で違和感が大きくなっていた。


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