19話 純花と過ごす穏やかな時間
翌朝、俺はシエラが学校へ行く前に、リビングで顔を合わせた。
大きな窓から朝陽が差し込み、広々とした部屋を柔らかな光で満たしている。テーブルには朝食の用意が整い、シエラは制服姿でカップを手にしていた。
「昨日は悪かった。そして……ありがとうな」
少し気まずさを感じながら声をかけると、シエラはカップを置き、くすっと笑った。
「許してあげるから、今日から友達よ」
「後悔しても知らんぞ」
「それを決めるのは私よ。それで、今日は純花のところに行くのよね?」
昨日と同じように、シエラは自分の意見を曲げるつもりなどないらしい。俺が何を言おうと、友達になるという話は決定事項のようだ。
「らしいな」
「楽しんでらっしゃい」
……何を楽しむ要素があるんだよ。
どうせ純花が帰ってきたら、くだらない話に花を咲かせるんだろう。なんで女ってのは、ああいう中身のない会話が好きなんだか。俺にはさっぱり理解できん。
「楽しむ要素なんてねえよ。学校、気をつけてな」
シエラには送り迎えがあるから、心配する必要もないとは思うが、一応声をかけておく。
「ええ。行ってきます」
シエラは笑顔で答えると、制服のスカートを揺らしながら玄関へ向かった。
その後ろ姿を見送ってから、俺はソファに深く腰を下ろした。
……まったく、調子が狂う。
昨日はあんなことがあったというのに、こいつはもう普段どおりだ。俺のほうが、いつまでも気まずさを引きずっているみたいじゃねえか。
しばらくして、仕事に出かける前のリチャードさんと茉莉花さんが、俺に声をかけてきた。
「お世話になりました」
俺が頭を下げると、リチャードさんは穏やかな表情で首を横に振った。
「そんなに深く考えなくていいんだよ。君の過去を詮索するつもりはない。ただ、過去にとらわれるのもよくないと私は思うんだ」
そう言って、彼は少しだけ表情を和らげた。
「せっかく、ほかの誰にも経験できない人生をもう一度やり直せるんだからね。悔いのないように生きるといい」
「そうしたいですね。気にかけてくださってありがとうございます」
俺は素直に礼を言った。
リチャードさんは、財閥の当主だ。金も地位もあるし、立場上、人間の表も裏も嫌というほど見てきたはずだ。
それなのに、どうしてこんなに人当たりのいい人間でいられるんだろうな。
俺だったら、こうはいかない。
人を信用するより先に、裏があるんじゃないかと疑ってしまう。相手の善意をそのまま受け取ることだって、簡単じゃない。
……まぶしい人だ。
「このまま、ずっとうちに残ってくれてもいいからね」
茉莉花さんも、優しい笑顔でそう言ってくれた。
どうして二人とも、俺みたいなひねくれ者をここまで気にかけてくれるんだろう。
何か見返りを求めているようにも見えないし、無理に事情を聞き出そうともしない。だからこそ、余計に不思議だった。
俺には、こういう人間の考え方がよくわからない。
やがて二人は仕事へ向かい、屋敷の中は再び静かになった。
昼近くになると、月野夜家のメイドであるメルが迎えに来てくれた。
黒と白を基調としたクラシックなメイド服が、陽光の中でひときわ清楚に映えている。背筋を伸ばして立つ姿には無駄がなく、彼女は俺の前で優雅に一礼した。
そして、穏やかな微笑みを浮かべて声をかけてきた。
「綾様、お迎えに上がりました。車を回してございます」
メルに案内されて外へ出ると、屋敷の前に一台の車が停まっていた。
それを見て、俺は少し意外に思った。
金持ちの家と聞いていたから、てっきり高級車でも用意されているのかと思ったが、目の前にあるのは小ぶりで、どこにでもありそうな普通の車だった。
……いや、金持ちだからって、何でもかんでも高級車に乗るわけじゃないか。
俺が後部座席に乗り込むと、メルは運転席に座り、静かに車を発進させた。
街中を抜け、しばらく走ると、道は次第に森の中へと続いていった。
左右には木々が密集し、枝葉の隙間から差し込む陽光が、道路に斑模様を描いている。窓の外を流れていく緑は濃く、湿った土と草木の匂いが、わずかに開いた窓から車内へ入り込んできた。
道幅は狭く、先が見通せないほど曲がりくねっている。普通の車なら運転に気を遣いそうな道だが、今乗っている車は小さい。そのおかげか、メルは慣れた様子で滑らかにハンドルを切っていた。
なるほどな。こういう場所を走るなら、車体が小さいほうが都合がいいのかもしれない。
どれくらい森の中を進んだ頃だろうか。
木々の向こうに、屋敷らしき建物が姿を現した。
規模こそ、レディルーチェ家の屋敷ほど大きくはない。それでも、石と木を巧みに組み合わせた建物には、どこか重厚な雰囲気があった。周囲の森に溶け込むように建てられており、長い年月をかけて、この場所に馴染んできたかのように見える。
屋敷を囲む庭も、人工的に整えられたという印象は薄かった。
古木が大きく枝を伸ばし、その根元には野花が点々と咲いている。少し離れた場所からは、小川のせせらぎらしき音まで聞こえてきた。
人の手が入っていないわけではないのだろうが、自然の姿をできるだけ残しているようだ。
……魔力を取り入れるなら、確かにこういう場所のほうがよさそうだな。
俺は窓の外を眺めながら、そんなことを考えた。
魔法については、まだティアから基礎を教わったばかりだ。それでも、自然に囲まれた環境が魔力を扱ううえで何らかの利点になるのなら、この場所には十分な価値があるのだろう。
そして、聞いた話によれば、この森全体が月野夜家の私有地らしい。
……本当に、持っている人間は持っているんだな。
森を丸ごと所有するなんて、俺には想像もつかない。土地の管理だけでも、相当な金がかかるんじゃないのか?
そんなことを考えているうちに、車は屋敷の前へと到着した。
石畳の上で静かに停車し、エンジン音が止まる。
昼を過ぎているというのに、周囲は妙に静まり返っていた。
人の気配がほとんど感じられない。
屋敷の重厚な扉は閉ざされたままで、風が吹くたびに木々の葉がさらさらと揺れている。森の中に建つ豪邸というのは、なかなか雰囲気があるものだが……こうも静かだと、少し落ち着かないな。
「メルって言ったよな」
「はい、綾様。どうなさいましたか?」
運転席から降りたメルは、優雅な微笑みを浮かべ、わずかに首を傾げた。
「そういえば、まだ月野夜家の親御さんに会ってないんだが」
「旦那様と奥様は、ただいま海外出張に行っておられます」
「……余計に俺がいたらまずいだろうが」
話を聞く限り、この家にいるのは女ばかりだ。
シエラも純花も女の子で、メイドだって二人とも女性。そこに俺みたいな男が加わるとなれば、いろいろと問題があるんじゃないのか?
しかも、家の主人に直接会ったことすらないんだぞ。
普通に考えれば、警戒されてもおかしくない状況だろう。
「旦那様と奥様の両者から、正式な許可を頂いております。綾様がこの家で正式に暮らされることになりましたら、必ずご挨拶のために帰国されると思います」
「何かあっても知らんぞ」
「何かなさるのですか?」
俺が念を押すと、メルは隣からこちらを見て、にこりと笑った。
……いや、そういう意味じゃねえよ。
俺が何かするかどうかじゃなくて、周囲がどう思うかという話だ。どうにも、この家の人間は俺に対する警戒心が薄すぎる気がする。
「どうしても手が離せないプロジェクトに携わっておりまして……。顔を出せないことは大変申し訳ないと、お二人ともおっしゃっておりました」
メルは申し訳なさそうに説明した。
とはいえ、主人達が了承しているのなら、俺からこれ以上言えることもない。
「……そうか。なら、いい」
俺は短く答え、改めて屋敷を見上げた。
さて、ここではどんな生活が待っているんだか。
俺はメルをまじまじと見つめた。
スタイルがよく、顔立ちも整っている。清楚で美しいメイド服も相まって、十分すぎるほどの「いい女」に見えた。
それなのに、すぐ隣に立っているというのに、人の気配がほとんど感じられない。
こうして見る限り、普通の女性と何も変わらないんだが……。
やっぱり、この女も機械人形なんだろうな。
「もう少し聞いてもいいか?」
「私でお答えできることでしたら」
「月野夜栞って知っているか?」
栞母さんの旧姓は、確か月野夜だったはずだ。
月野夜なんて珍しい名字だし、まさか無関係ということもないだろう。そう思って尋ねてみたのだが、メルはすぐに答えた。
「旦那様の妹様でございます。ただ、残念ながら、数日前にお亡くなりになりました」
「知っている。なるほどな」
やっぱり、そういうことか。
ということは、俺と純花は親戚ということになるのか?
……いや、待て。
栞母さんが月野夜家の人間で、純花がその兄の娘なら、関係としては従兄妹になるはずだ。
世間、狭すぎだろ。
いや、狭いなんてもんじゃねえ。いくらなんでも、都合がよすぎるだろ、これ。
転生してからというもの、次から次へと妙なつながりが出てくる。偶然だと言われればそれまでだが、ここまで重なると、さすがに何かの作為を疑いたくなるぞ。
……考えても仕方ないか。
ひとまず、俺はメルに案内された客室で待つことになった。
広くて静かで、居心地が悪いくらいに整然とした部屋だった。
大きな窓の向こうには森が広がり、風が吹くたびに木々の枝葉がゆっくりと揺れている。午後の陽光はカーテン越しに淡く差し込み、磨き上げられた床に長い影を落としていた。
……さて、どうしたもんか。
このまま待っていれば、夕方には純花が顔を出すんだろう。
昨日のシエラと同じように、あれこれ話しかけてくるに違いない。
そして、俺には拒否権がない。
そのことも、もう嫌というほど理解していた。
案の定、夕暮れが部屋を橙色に染め始めた頃、控えめなノックが静かな室内に響いた。
「空いてるぞ」
「お邪魔します……」
扉が開き、純花が遠慮がちに顔を覗かせた。
彼女は小さな声でそう告げると、静かに部屋へ入ってくる。足音まで控えめで、まるで床を踏むことすら遠慮しているかのようだった。
「お前の家だ。一応聞くけど、用か?」
「今は……綾君のお部屋だよ。少し、お話ができたらいいなぁって」
純花は柔らかな笑みを浮かべながら答えた。
俺はベッドに横になっていたが、さすがにそのまま話すのもどうかと思い、上体を起こしてベッドの端に座り直した。
すると、純花はためらう様子もなくこちらへ近づいてきた。
そして、俺のすぐ隣に、そっと腰を下ろした。
……おいおい。
思わず、内心で声が出た。
純花は大人しそうな女の子だ。シエラのように積極的に距離を詰めてくるタイプには見えなかっただけに、これは予想外だった。
近い。
いや、近すぎるだろ。
少し身体を動かせば肩が触れそうな距離だ。ふわりと、上品で甘い花のような香りが漂ってくる。
シャンプーか、それとも香油か。
どちらにしても、こんな小さな子供から、こんなにいい香りがするとは思わなかった。
……いや、何を考えているんだ、俺は。
相手は子供だぞ。
余計なことを考えるのはやめておこう。
「シエラにしろ、お前にしろ、話すのが好きなんだな」
「いっぱいお話をすると、相手のことがよくわかるし、仲良くなれるから、私は好きだよ。綾君は嫌いなの?」
純花は俺の目をまっすぐに見つめ、穏やかながらもはっきりとした声で尋ねてきた。
その表情には、シエラのような強引さはない。けれど、俺の答えを適当に流すつもりもなさそうだった。
「そんなの、考えたこともねえな」
俺は肩をすくめた。
「会話なんて、どっちが主導権を握るか決めるための化かし合いでしかない。相手が何を考えているのか探って、こっちの腹は見せない。俺にとっては、そういう腹の探り合いだよ」
少なくとも、前世の俺にとってはそうだった。
言葉をそのまま受け取って、相手の善意を信じる。そんなことができる人間は、よほど幸せな環境で生きてきたんだろう。
ちっ、ガキ相手に何を話してるんだ、俺は。
子供のうちは、こういうことを気にしなくていい。頭ではわかっている。大人になれば、人付き合いなんて嫌でも覚えるし、他人の言葉をいちいち真に受けていたら身が持たない。
なのに、こいつらは、そんな俺の考えを簡単にひっくり返してくる。
調子が狂う!
「そんなことないよ。相手のことを想いやって話していけば、その人のことが大好きになるよ」
「そんなものか。よくわからんな」
「綾君も人に興味を持つと、わかるようになるよ」
「時間の無駄だ!」
「私は綾君のことが知りたいな」
「今日、シエラから嫌っていうほど聞いただろ」
「うん、たくさん聞いたよ。でも、直接聞きたいな。沙樹ちゃんも楽しみだって」
純花は最後まで俺から視線を逸らさなかった。落ち着いた微笑みを浮かべながら、まるで俺がどんな返事をしても気にしないとでもいうように、穏やかな声で答える。
……こいつ、本当に人の話を聞いているのか?
俺がどれだけ突っぱねても、まるで堪えた様子がない。それどころか、会話を重ねるたびに距離を縮めようとしてくる。
「ちょっと待て。沙樹って、確か?」
そういえば、こいつらの会話には必ずといっていいほど、三人目の名前が出てくる。
シエラと純花の話に何度も登場する、如月沙樹。名前だけは聞いていたが、詳しいことは知らなかった。
「私たちの親友で、如月沙樹ちゃん。同じクラスメイトだよ」
「ああ、そういやおやっさんが言ってたな」
如月家にも俺と同い年のガキがいる、と聞いた覚えがある。なるほど、そいつが沙樹というわけか。
……ガキの面倒は、二人だけにしてほしいんだがな。
「明日行く。龍一さんの娘か」
「うん。私たちの大の仲良し」
純花は嬉しそうに頷いた。
そういえば、シエラもそいつのことを自慢していたな。二人の話を聞いている限り、よほど仲がいいらしい。
もっとも、話題に出てくるのは、ほとんど純花と沙樹のことばかりだった気もするが。
……友人が少ないのか?
こいつのクラスメイトは何をしてるんだ。普通なら、こんな可愛い子たちと仲良くなりたいと思うだろ。まったく、不甲斐ないよな。
「そういえば、聞きたいことがあるんだが?」
「何かな?」
純花は目を輝かせ、嬉しそうに返事をした。背筋を伸ばしたまま、俺の顔をまっすぐ見つめている。
「昨日もシエラとの会話を聞いて思ったんだが、友人ってシエラと、その沙樹しかいないのか?」
「そんなことないよ。特に仲がいいのが、沙樹ちゃんとシエラちゃんだよ。ほら、進級したばかりで、クラス替えしたばかりだから」
「ああ、そういうことか」
進級したら、クラス替えもあるのか。
……なんか、そんな仕組みがあったな。二学年ずつだったか?
そういえば、今は三年生だったな。進級したばかりなら、クラスの顔ぶれが変わっていてもおかしくはない。
三人はこれから四年間、同じ学校で過ごすわけか。
顔ぶれが変わるのも当然か。三人はこれから四年間、同じ学校で過ごすことになるわけだ。
とりあえず、シエラと同じ方法を取らせてもらうか。
改めて考えてみると、純花自身もかなりの良家のお嬢様だった。月野夜工学の娘らしいが、どんなものを作っている会社なのか、俺はまだ知らない。
ただ、これだけ立派な屋敷に住んでいるんだ。普通の会社じゃないことだけは確かだろう。多分、とんでもないものを扱っているに違いない。
それにしても、俺はお嬢様という生き物に対して、傲慢でわがままな連中ばかりだという印象を持っていた。
ところが、シエラも純花も、そのイメージとはまるで違う。
今まで俺が相手にしてきた女どもとも、勝手が違いすぎる。こっちの都合なんてお構いなしに踏み込んでくるくせに、無理に言うことを聞かせようとするわけでもない。
おかげで、俺は簡単に自分のペースを崩されてしまう。
それが少し面白くもあり、同時に苛立たしくもあった。
「聴いてる?」
「ああ、お前らがどれだけ友情に熱いかってことは、よくわかったよ」
適当に返事をすると、純花は小さく笑った。
いつの間にか、俺たちの距離はかなり近くなっていた。隣に座った純花が少し身を寄せていて、肩が触れ合いそうなほどだ。
普通なら、ここまで近づかれたら落ち着かないはずなんだが、不思議と不快感はなかった。
むしろ、静かで穏やかなこの空気が、妙に心地いい。
……まったく、調子が狂う。
「なあ、純花。聞いてもいいか?」
「会ったのはこの間だけど、綾君が質問してくるのって初めてだよね。うん! 何かな?」
純花は嬉しそうに首を少し傾げた。
そんなに質問されるのが嬉しいのか。俺としては、別に大した話をするつもりもないんだが。
「お前ら、本当に九歳なのか?」
どう考えても、小学三年生の思考じゃないだろ。
シエラの話では、頭が良すぎるせいで周囲とうまく話が合わないらしい。だったら、純花も沙樹って子も、同じくらいの知能を持っているのか?
思わず、そう突っ込みたくなる。
こいつらと話していると、どうしても小学生と会話しているという実感が湧かない。言葉遣いだけの問題じゃない。考え方も、他人との距離の取り方も、俺が知っている子供とはどこか違っていた。
「私はまだ八歳だよ。今年、九歳になるけどね。もちろん、シエラちゃんも沙樹ちゃんも同学年だよ」
純花は穏やかな微笑みを浮かべながら、はっきりと答えた。
いや、年齢を聞いたところで、疑問が解決したわけじゃない。
むしろ、八歳だと聞いて余計にわからなくなった。
ゲームや漫画のキャラクターが、実年齢にそぐわない言動をすることくらい知っている。物語の都合で、子供がやたらと大人びていたり、逆に大人が妙に子供っぽかったりするのも珍しくない。
だが、実際に目の前で会話していると、話は別だ。
どうにも違和感が強すぎる。
俺が八歳や九歳だった頃、いったい何を考えて、どんな生活を送っていたのか。
記憶をたどってみても、こいつらとはまるで違う。もちろん、前世の俺と今のこいつらでは育った環境も違うだろうが、それにしたって差がありすぎる。
本当に、変わったガキどもだ。
そんなことを考えているうちに、俺たちの会話は自然と途切れた。
純花も無理に話を続けようとはせず、隣に座ったまま静かにしている。
互いに何も話さない時間が、ゆっくりと流れていった。
普段なら、会話が途切れれば気まずさを感じるものだ。けれど、今はそうでもなかった。
部屋を満たす静けさは、なぜか悪くない。
……こういう時間も、たまにはいいのかもしれないな。
「なぁ」
「何、綾君?」
「こんなまったりとした時間は久しぶりだから、眠ってもいいか?」
「うん、いいよ。私はもう少しここにいるから」
「お前の家だ。好きにしろ」
俺はそう言い残すと、ベッドの上で純花の隣に横になり、ふかふかの枕に頭を預けた。
部屋の中は静かで、森から吹き込む風がカーテンを優しく揺らしている。木々のざわめきに耳を傾けながら、俺は久しぶりに訪れた穏やかな時間を満喫することにした。
それから、どれくらい時間が経ったのだろう。体感では三時間ほど経った気がする。
ゆっくりと目を開けると、すぐ目の前に純花の顔があった。
「……ん?」
近い。いや、近すぎるだろ。
寝ぼけた頭で状況を確認しようとして、俺はようやく自分の置かれている状態に気づいた。
どうやら俺は、純花の膝枕で眠っていたらしい。
頭の下には柔らかな感触があり、ほんのりとした温もりが伝わってくる。いつの間にこんなことになったんだ?
肝心の純花はというと、俺の頭を膝に乗せたまま目を閉じていた。穏やかな寝息を立てているところを見ると、俺につられて自分も仮眠を取っているようだ。
しかも、その手は俺の腹の辺りにそっと置かれている。起き上がろうにも、これでは動きづらい。
……本当に、純花といいシエラといい。
子供のくせに、変わった女たちがいたもんだ。
俺は小さくため息をついた。純花を起こすのも悪いし、今すぐ起きなければならない理由もない。
仕方なく、俺は諦めて再び目を閉じた。
膝枕の心地よさと、純花のほのかな甘い香りに包まれながら、もう一度眠りの中に落ちていった。
「転生したら女の子みたいな見た目の男の子になってたけど……平穏なんていうのは無かった」をお楽しみいただけましたか?
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