↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら女の子みたいな見た目の男の子になってたけど……平穏なんていうのは無かった  作者: 綾
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/31

12話 決着

 イスカは、むき出しの憎悪を宿した目で俺を睨みつけたまま、ゆっくりと腕を振り上げた。

 次の瞬間。

 ズシャァッ!

 直感に従って、俺はとっさに横へ飛び退いた。

 コンマ数秒前まで俺が立っていた場所を、青白い火花を散らすムチが激しく叩きつける。アスファルトが砕け、細かな破片が足元まで跳ね飛んできた。


「っ……!」

 俺はすぐさま体勢を立て直し、イスカの手元へ視線を走らせた。

 いつの間に仕掛けたのか、俺とイスカの周囲には、幾重ものロープが張り巡らされていた。

 駐車場に放置されていた廃車や、錆びた車止めを利用して複雑に張り渡されたロープ。その表面を青白い火花が走り、耳障りな放電音を響かせている。

 ただのロープじゃない。

 電流を流すための導線か何かだろう。

 俺が周囲の状況を確かめている間にも、イスカは手にしたムチをしならせ、ロープの配置を利用して逃げ道を塞いでいく。


「あたしの体をこんなボロボロにしやがってッ! バラバラに刻んで豚の餌にされるか、生きたままジワジワと感電死するか、どっちがいいか選ばせてやるよぉ……ッ!」

 狂気に染まったイスカは、バチバチと火花を散らすロープへ、破れた服の切れ端を放り投げた。

 布切れがロープに触れた瞬間。

 バチィッ!

 激しい放電とともに布が燃え上がり、あっという間に灰へと変わった。

「……マジかよ」

 思わず呟きが漏れる。

 触れただけでこれか。

 まともに食らえば、耐性呪文を使っていても無事では済まないかもしれない。

「誰も来やしないよ。……ここは、あたしが作った処刑リングなんだからねぇ……っ!」

 イスカはムチをしならせながら、一歩ずつ間合いを詰めてきた。

 駐車場の一角を囲むロープには、絶え間なく青白い火花が散っている。逃げようとすれば電流に触れる危険がある。かといって、イスカを無視して突破しようにも、あのムチをかいくぐって安全圏までたどり着くのは容易じゃない。

 さっきまでの無機質な動きとは違う。今のイスカは、俺をいたぶって殺すことしか頭にないらしい。

 SFのサイボーグというより、得体の知れないホラー映画の怪物だ。


「久遠ッ!」

 純花の姉が、久遠に向かって声を張り上げた。

「分かってるッ! 君ッ、今すぐ俺が代わ……!」

 久遠さんがこちらへ踏み込もうとする。

 だが、その行く手を電流の流れるロープが阻んだ。

 無理に突破すれば、久遠さんまで感電する危険がある。かといって、ロープの配置を見極めようにも、イスカがムチを操っているせいで迂闊には近づけない。

「……本当は代わってほしいんだが、ここから出る方法がわからない。結局、この女をぶちのめすしかないみたいだ」

 俺は久遠さんに向かって声を張り上げた。

 子供相手に、本気になりすぎだろ、このポンコツは。

 そんな軽口を頭の中で叩いてみたものの、腹部の傷がズキリと痛んだ途端、現実に引き戻された。

 全身が重い。さっきまでの戦闘で、体力も魔力もほとんど残っていない。立っているだけでもつらいのに、ここからもう一戦なんて冗談じゃない。

 出来る事なら、今すぐ久遠に丸投げして休みたい。

 好奇心は猫をも殺すとはよく言ったものだ。

 廃車に興味を向けなければとか思うけど、後の祭りだな。

 過ぎたことを悔やんだところで、目の前の状況が変わるわけでもない。

 それにしても、目の前のイスカは、俺を逃がすつもりなど欠片もないようだった。 

 なら、やるしかないな。

 ほかに選択肢はない。そう判断するしかなかった。

 この電流だらけの檻を抜けて、あの怪物をもう一度ぶちのめす。

 ……とはいえ、具体的にどうするかは別の話だ。

 さて、どうしたものか。


「選ばせてやる、だと? さっきの一撃で吹っ飛んだ無様なポンコツが、偉そうなこと言ってんじゃねえよ」


 腹部の傷が激しく痛む。それでも俺は、傲岸不遜な笑みを浮かべて痛みを押し隠した。

 ここで弱気を見せれば、一気に食われる。

 必要なのは、相手の心をへし折るための「はったり」と「強気」だ。

 アンドロイドに、それが通用するかどうかは知らん。

 それより、自分自身にもそのはったりを通して、乗り切れるかどうかだな。

 少なくとも、俺にはまだ手が残っている。

 それを使う余裕があるかどうかは、別問題だが……。


「……スクラップにされる覚悟は、できてるんだろうな?」


 俺は夕姫を構え直した。

 炎の刀身が揺らめき、パチパチと火花を散らす。その熱を感じながら、極限まで集中力を研ぎ澄ませ、ムチの軌道を見据えた。


「――このあまぁああああああああああああああああああああ!」

 イスカの顔が憎悪に歪む。俺の挑発が、どうやら最後の一線を踏み越えさせたらしい。

 次の瞬間、イスカは獣のような叫び声を上げて襲いかかってきた。

 ムチが唸りを上げ、青白い火花を散らしながら、俺めがけて迫る。


 俺の挑発に、イスカの中で何かが千切れる音がした。

 般若のような形相で、イスカが襲いかかってくる。

 ムチが唸りを上げ、青白い火花を散らしながら迫った。

 だから、俺は男だと言ってるだろ!

 ……いや、今そこを気にしてる場合じゃない!


 俺は反射的に回避へ移ろうとした。

 だが、その瞬間。

 極限まで酷使した足が、一瞬だけ動かなかった。

「しまっ……!」

 回避が間に合わない。

 咄嗟に耐性呪文を発動させた直後、最大電圧を帯びた電気鞭が、俺の身体を容赦なく打ち据えた。

 バチバチバチッ!

 青白い閃光が視界を埋め尽くす。

「ぐわぁぁぁあああッ!」


「しののめ~ッ!」

「あやさーんッ!」


 シエラと純花の悲鳴が聞こえる。

 電流が身体の奥まで突き抜け、筋肉が意思に反して跳ね上がった。歯を食いしばることすらできず、喉の奥から悲鳴が漏れる。

 耐性呪文のおかげで、電撃による致命的なダメージは免れた。だが、鞭の衝撃までは防ぎきれない。

 俺の身体は地面へ叩きつけられた。

「きゃははは! 丸焦げになった感想はぁ? 何か言ってみろよ! ああ、人間は炭になったら喋れもしないかぁ!」

 イスカの耳障りな高笑いが響く。

 あいつは俺が完全に動けなくなったと思ったらしい。倒れた俺の身体へ、さらに容赦なく拳を叩き込んできた。

 鈍い衝撃が走る。

 腹部の傷に激痛が走り、思わず息が詰まった。

 全身が痺れ、手足に力が入らない。身体を起こそうとしても、腕が震えるばかりで思うように動けなかった。

 助かったとはいえ、身体の痺れも痛みも消えちゃいない。


「……いてーな」

 俺が低く呟くと、イスカの顔から笑みが消えた。

「……は? 嘘でしょ……?」

 信じられないものを見るように目を見開いたイスカは、短い悲鳴を上げて後ずさった。足がもつれ、そのまま無様に尻餅をつく。

 仕留めたはずの相手が、まだ意識を保って喋っている。その事実が、よほど信じられないらしい。



 俺は地面に片手をつき、ゆっくりと上体を起こした。

 身体のあちこちが焼けるように痛む。指先は震え、息を吸うたびに腹部の傷が悲鳴を上げた。

 それでも、夕姫を手放すわけにはいかなかった。


「人間を自称するならともかく、ガラクタ風情が、よくもここまでしてくれたな。……ロボットのルールを忘れた奴は、スクラップがお似合いだ」

 全身の痛みに耐えながら、俺は静かに詠唱を始めた。深淵の底から響くような言葉が、ひとつ、またひとつと口をついて出る。

 イスカの顔が強張った。

「な、なによ、その変な言葉は……何、このおぞましい魔力はっ!? いくら魔力があろうと、アタシが人間にやられると思うなーーっ!」

 恐怖を振り払うように叫び、イスカが再び鞭を振り上げる。

 青白い火花が鞭を走り、ロープが不気味な音を立てた。狙いを定めた先は、間違いなく俺だ。

 だが、その腕が振り下ろされるよりも早く、俺の詠唱が完成した。


「――『物質破壊(デストラクト)』」

 力ある言葉を発した、その瞬間。

 イスカの鞭が俺に届くより先に、鞭の先端から細かな粒子へと変わり始めた。崩壊は一瞬で柄へと広がり、握っていたイスカの手まで呑み込んでいく。

「えっ……?」

 イスカが目を見開いた。

 だが、驚く暇すら与えない。

 鞭だけでは終わらなかった。腕から肩へ、胴体へ、そして脚へ。イスカを構成する金属や装甲が次々と形を失い、砂の城が崩れるように細かな塵へと変わっていく。

「な……っ、あ……?」

 イスカの声が途切れた。

 手を伸ばそうとしても、腕はすでに崩れ始めている。逃げようにも、脚は地面を踏みしめる形さえ保てない。反撃しようにも、頼みの鞭は跡形もなく消え失せていた。

 機械仕掛けの身体が、音もなく崩壊していく。

 やがて、イスカの姿は完全に塵へと変わり、吹き抜けた風にさらわれていった。

 生物には効かない。

 だが、所詮は「モノ」でしかないお前には、これが最高の餞だ。


 俺は夕姫を構えたまま、イスカがいた場所に残る塵を見下ろした。

 これで、ようやく終わった。……と思ったのも束の間。

 鷹上が驚愕のあまり唸り声を上げた。顔を引きつらせたまま、こちらに背を向け、情けなく逃走を始める。

 そう言えば、まだ残っていたな。


「ひ、ひぃぃぃぃっ!」

 鷹上は悲鳴を上げると、正門へ向かって一目散に走り出した。

 さっきまでの尊大な態度はどこへやら。選ばれた種族だの、下等種族だのと偉そうにほざいていた男が、仲間を見捨てて逃げ出したのだ。

「逃がすかよ……ッ!」

 俺は夕姫を握り直し、残った力を振り絞って魔力を練り上げた。

「『魔法の矢(マジックミサイル)』!」

 放たれた光の矢が、鷹上の足元へ向かって飛翔する。直後、アスファルトに激突した矢が爆ぜ、爆煙と衝撃波が周囲へ広がった。


「うわぁぁっ!」

 爆風に煽られた鷹上は、足をもつらせて転倒した。そのまま地面に尻餅をつくと、逃げようとするのも忘れ、這いずるようにして俺から距離を取ろうとする。

 俺は夕姫を手に、ゆっくりと近づいた。

 腹部の傷が痛み、足取りは重い。一歩進むたびに傷口が疼き、全身に蓄積した疲労が身体の動きを鈍らせる。

 それでも、ここで逃がすつもりはなかった。


「逃げるんじゃねえよ……ッ!」

「ひっ……!」

 鷹上が情けない声を漏らし、さらに後ずさる。

 俺は夕姫の炎を弱め、目の前で怯える男を見下ろした。

「さて、俺も疲れた。機械人形ならいざ知らず、生きてる人間を殺すのは趣味じゃない。代わりにある呪文をかけてやる」

「い、命だけは……っ!」

 ……おいおい。

 さっきまでの威勢はどうしたんだよ。

「こういう時こそ強がりを言うもんじゃないのか? ノブレス・オブリージュとやらは、そういうものだろ。さんざん選民意識をひけらかしてた意地はどうしたよ」

 皮肉を投げかけても、今の鷹上に言い返す気概は残っていないらしい。

 地面に手をついたまま、必死に首を振っている。先ほどまで人間を下等生物と呼んでいた男が、今では自分の命乞いに必死だ。

 まったく、見事なまでの手のひら返しだな。


 俺はそんな男を見下ろしながら、静かに拘束の詠唱を開始した。

「――『強制(ギアス)』」

 重苦しい魔力が鷹上の身体へと刻み込まれる。

 目に見える鎖が現れたわけではない。だが、術式が完成した瞬間、鷹上の身体がびくりと震えた。何かを振り払うように身じろぎしたものの、すぐに動きを止め、怯えた目で俺を見上げる。

「この呪文は、俺の命令に逆らえば全身に激痛が走る戒めだ。……まあ、俺以上の使い手なら解けるかもしれないがな」

 そう告げた直後、俺は溜めていた怒りを拳に込め、鷹上の顔面へ叩き込んだ。

「ぶべっ!」

 拳が顔面を捉え、鷹上の身体が横へ転がる。頬をアスファルトに擦りつけた男を見下ろし、俺はようやく息を吐いた。

 ……少しは、すっきりした。

 もっとも、俺の身体はすっきりどころじゃない。

 腹部の傷は相変わらず痛み続け、全身の筋肉が悲鳴を上げている。夕姫を握る指先にさえ、まともに力が入らなくなっていた。


「凄い……」

「本当に、何者なの……」

「あのイスカや鷹上を、たった一人で圧倒するなんて……」

 上から順に純花、シエラ、そして純花の姉が、呆然とした様子で感想を漏らした。

 いや、圧倒したというか、最後は本当にギリギリだったんだけどな。

 特に、あの電気鞭は危なかった。

 耐性呪文を使っていなければ、今ごろ俺も地面に転がったまま動けなくなっていたはずだ。

 ……まあ、わざわざ説明する気力もないけど。

 俺は小さく息を吐き、夕姫の柄を握り直そうとした。

 しかし、指が思うように動かなかった。

 おかしい。

 さっきまでは、どうにか身体を動かせていたはずなのに。

 視界が揺れた。

 駐車場のアスファルトも、倒れた黒服たちも、崩れた廃車も、すべてが水の中に沈んだ景色のようにぼやけていく。

 まずい。

 さすがに、もう限界らしい。

「悪い……もう、無理……っ」

 腹の傷。

 全身の痛み。

 そして、枯渇した精神力。

 これ以上、意識を保つことはできなかった。

 夕姫の炎が消え、柄を握っていた手から力が抜ける。

 急速に冷えていく世界の中で、俺はゆっくりと意識を手放した。

 地面に倒れ込む直前、誰かが温かく支えてくれた感触が、微かに残っていた気がした。

「転生したら女の子みたいな見た目の男の子になってたけど……平穏なんていうのは無かった」をお楽しみいただけましたか?


もし「続きが気になる」「応援したい」と感じていただけましたら、ぜひブックマーク登録と、ページ下部にある【評価する】ボタンから評価ポイントをいただけると、とても励みになります!


皆さんの応援が、次の話の執筆を進める力になりますので、どうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。