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第二話

 ケータイのアラームで目を覚まし、画面を見る。SNSの通知が来ていたのでチェックした。ちょっと信じられなくて思考停止する。

 キョウカ様が、私の投稿にいいねをされた、という通知が来ていた。私がキョウカ様のファンアートを描いたという投稿に、キョウカ様がいいねをされている。これは本当に現実なのか、と、目を疑った。何度も通知を確認する。本当に現実のことらしい。

 恐ろしいことをしてしまった、という感情になる。オタク隠れるべし。頭がクラクラする。SNSに公開した時点で、見られるかもしれないとは思っていた。

 ハッシュタグやメンションは付けなかったけど、エゴサされれば見られることもあるだろう。でも、いいねされるなんて微塵も思っていなかった。視界に入ることはあっても、反応はされないものだとばかり……。

 いや、昨日はライブ後の投稿への返信にいいねをされていた。でも、それは返信だからいいねされたと思っていた。返信ではなくハッシュタグもメンションもしていない投稿に反応されるとは思っていなかった。

 いいねをされた、ということは、気に入ってもらえたのだろうか。いや、SNSの「いいね」は、「いいね」という感情だけでするものでもない。どう思われたのかは、実際にはわからない。

 ただ既読の印としていいねされただけかもしれない。見られたか見られていないかわからなくてドキドキするよりかは、既読としていいねを付けられる方がいいのかも。

 しかし、アレコレと考えている場合ではなかった、と思い至る。今日は月曜日、働く日だ。早く支度をして、出かけなくちゃならない。とんでもないことをしてしまったのかも、と思いながら、私はA型事業所に行った。

 作業の最中も、なにをしていても、キョウカ様のことばかり考えてしまう。私の描いたイラストを見てどう思われたのか、聞いてみたいと思った。ライブに行って、特典会でお話すればいいのではないだろうか。

 休憩時間に、ティアスタのライブスケジュールを確認した。今週末の土曜日にもライブがある。場所はあまり知らないところだけど、フリーライブと書かれていた。

 場所を調べてみると、普段の行動範囲ではないものの、行ける範囲だった。とりあえずこの日に行ってみようか。自分のスケジュールも念のために確認する。土曜日に予定は入っていないので、行ける。行くしかない。

 休憩が終わる頃になって、月曜日なのにマンガを読んでいなかったと気付いた。月曜日に発売されるマンガ雑誌を、今はアプリ版で買っている。いつもなら朝の電車移動の時間や休憩時間に読むのに、今日はそれをすっかり忘れていた。時間がないので後にしよう。

 事業所での作業を終えて、私は近くの百均に向かった。チェキ用のアルバムを探すため。チェキ用のアルバムなんて存在を知らなかったけど、百均で探してみたらすぐに見つかった。とりあえずそれを買う。

 帰宅してから、買ったアルバムにチェキを収納した。チェキを見ていると、様々な感情が浮かぶ。やっぱり自分の容姿が嫌だな。キョウカ様は私の描いたイラストをどう思われたんだろう。チェキに書かれたキョウカ様の文字すらとても愛おしい。

 そういえば、昨日は「新規だからサインも付く」と言われた。「新規」でない場合はどうなるんだろうか。

 公式サイトを見ると、「特典会について」記載があった。「特典券」は一枚千円で、一枚でサイン無しチェキ、写メが選べるらしい。特典券を二枚で、サイン付きチェキにするか、写メ二枚にするか選べるとのことだった。特典券は一度に出せる上限が六枚までと決まっているらしい。

 てっきり「特典会」はチェキだけなのかと思っていたが、ケータイで写真を撮る「写メ」も選べるのか。でも、サインを書いてもらえる「チェキ」が記念として残すにはいいような気がする。

 初めて知ることがたくさんある。今まで知らなかった世界を知っていくことは、大変だけど楽しい。

 ライブに行く時の服装をどうしようかと考えた。なにか気を付けるべきことがあるだろうか。とりあえず検索してみる。髪型は邪魔にならないようにとか、靴はペタンコでとか、色々と出てきた。

 推しのメンバーカラーを服装に入れる、というのも見かける。ヒーローショーやアニメ、マンガのイベントでも、推しカラーの服装というのは見たことがあった。私はあまりそういうのを気にしたことがない。

 いつも、周りから浮かない無難な服装で、と思っていた。でも、アイドルのライブではメンバーカラーを入れるのは大事なのかもしれない。キョウカ様のメンバーカラーは黄色。

 黄色の服を持っていただろうか。持っていない気がした。

 慌てて自分の手持ちの服を確認しても、黄色の服はなかった。買うしかないのか。でも、ライブまでそんなに日がないので、通販は間に合うかわからない。

 お店に買いに行くのは少しハードルが高く感じてしまう。そもそも私はオシャレな服を持っていない。ヒーローショーやイベントに行く時はなるべく身綺麗にしようとはしている。

 でも、服はなるべく値段が安いものばかりで、意識しているのは「無難なこと」だった。周りから浮かない程度に無難に身綺麗にとは思っていても、オシャレではない。黄色なんて目立つ色の服は、今まで避けてきた。

 昨日のライブでは、周りのお客さんの服装はどうだっただろうか。周りを気にする余裕なんてなかったけど、思い返してみると、キレイでかわいい女性ばかりだった気がする。

 推しカラーを全面的に押し出していた人は、いたような気はするがよく覚えてはいない。でも、無難であることを意識している自分の普段の服装では、場違いで浮いてしまうのではないか。

 かわいくてキレイでオシャレな女性が多い空間に飛び込むのは、とても心配になってくる。服を買いに行こう。なるべくキレイでかわいい黄色の服を探そう。

 そう思ったが、まず、そんな服がどこに売っているのかわからない。いや、たまにイベントで行く大きなショッピングモールで、かわいらしい服が売られているのを見たことはある。自分には縁遠いものだと認識していたけど、ああいうところで服を買ってみるべきなのかもしれない。

 行きたいライブがあるのは土曜日だから、金曜日までに服を買いに行こう。今週は金曜日まで働く予定はあるが、作業を終えてからの夕方に行くことはできそうだ。

 服装ばかりでなく、髪やメイクなどもきちんとするべきだろうか。髪はけっこう長いあいだ切っていない。切るとしても、近所の安いカット専門店で、ちゃんとした美容室で切ったことがない。

 ちゃんとした美容室はコミュニケーションがとても大変そうなイメージがあり、すごく気が重くなってしまう。でも、美容室に行くべきなんだろうか。とは思いながら、やっぱり予算的にも心理的にもかなりハードルが高い。ひとまずはカット専門店に行くことにしよう。

 メイクに関しては、まるでなにから始めればいいのかわからない。成人式でメイクをされたことはあるけど、自分ではあまりやったことがなかった。

 メイクに興味を持った頃、親から否定されたことが、大きく引っかかっている。それに、思い返すと成人式でメイクをされた時も、親からは否定的なことを言われた。

 親に言われたからと言っていつまでも気にするべきではないかもしれない。でも、私には、なんだかとても重たく感じられた。

 日焼け止め程度は塗るべきか、とも思いながら、日焼け止めすら顔に塗るのは少し抵抗がある。というより、ハンドクリームやリップクリームですらも、とにかく肌になにか塗るのが少し気持ち悪い。気持ち悪いは言い過ぎかもしれないが、肌になにか塗ると、少し息苦しいような気がしてしまう。

 でも、どうせなら、なるべくキレイな自分でキョウカ様に会いたい。チェキで自分の容姿が嫌だなと思ってしまうのを、少しでも軽減したい。自分の容姿を好きになることができたら理想だけど、急にそんなのは無理だ。それは無理だけど、少しでもマシな状態にしたい。

 ヒーローショーや、アニメ、マンガのイベントでも、服装は気にしているつもりだった。でも、なんだか今回はそれらとは違う気がする。キョウカ様に……推しに、自分のことを見られているから?

 推しが、自分を視界に入れる世界があるなんて、そんなのありえない。今までの私はそう思っていた。いや、ヒーローショーのキャラクターはこちらを視界に入れてはくれている。でも、会話ができるような存在ではなかった。

 同じ空間に存在はしていても、生きてる世界が違うと認識していた。キョウカ様は、会話ができる。同じ世界に存在していると感じられた。いや、でも、現実に存在しているとは言え、アイドルとは生きてる世界は違うんじゃないかとも思う。

 でも、同じ空間にいて会話をすることができる。そんな奇跡みたいな世界があると知った。

 だから、私は、もっと……できれば、かわいくなりたい。かわいくなりたいなんて、思うことすら烏滸がましいような気がしていた。

 メイクやオシャレに興味を持っても親に否定されて、かわいいなんて言われたことがなくて、ずっと自分の容姿が嫌いだった。自分はどうあがいてもかわいくなんかなれないと思っていた。

 でも、かわいくなりたいと、今は思える。そう思えるのは、私にとってかなり大きな変化だ。

 色々と考えはしたものの、今日は時間がないのでお店に買いに行くことはできない。メイクや洋服のことなど少し検索してみるだけでもしてから、今日は寝よう。

 寝る準備をしようとして、読みたいマンガを読んでいなかったことを思い出した。でも今は頭の中がメイクと洋服のことでいっぱいで、それどころではない。マンガは明日にしよう。

 軽く検索してみて、いきなりメイク用品を買い揃えるのはハードルが高く感じた。せめて日焼け止めと、色付きリップクリームでも買ってみようか。リップだけでも色々と種類がありすぎて、どれが自分に合うのかわからなくなっている。

 色付きリップクリーム程度が、価格的にも心理的にも手を出しやすそうだった。日焼け止めもピンキリ様々なものがありすぎてわからない。日焼け止めは透明なものだと思っていたが、日焼け止めでも肌のトーンアップをするものがあるらしい。

 肌のトーンアップというのがまずわからないが、肌が明るくキレイに見えるということだろう。BBクリームというものもある。価格帯としてはトーンアップする日焼け止めがいい気がした。

 メイクに関してはひとまずそれくらいで考えておく。メイクのことだけでかなり疲れてしまって、服のことまで検索する気力がなかった。お金のことを気にするなら、服の方がメイクよりもお金がかかる気はする。

 でも、メイク用品は使うとなくなるが、服は大切にすれば何年も何十年も使えるものだから、総合的に見てかかる費用はそこまででもないかもしれない。

 ひとまずは、洋服はお店に見に行ってみて考えるのでもいいだろう。今日はもうそのことについて考えるのはやめることにした。


 翌日は、朝の電車移動と休憩時間にマンガを読んだ。キョウカ様のことやライブのことなどを考えたい気持ちもあった。でも、マンガを読んだりアニメを見たりも私にとって大事な時間だから、やめられない。

 マンガもやっぱりおもしろくて大好きだなと読むたびに噛みしめる。マンガの中の推しも、大好き。推しというのは、生きてる世界が違うからこそいいんじゃないだろうかとも思う。私は現実の男性のことは少し苦手だから。

 というか、そもそも人と関わることに極度の苦手意識があると言うべきか……。現実の人間とのコミュニケーションはうまく行かないことばかりで、とても疲れてしまう。そんなことを考えていたら、休憩時間が終わっていた。

 夕方になって、黄色の服を探すためにショッピングモールに向かった。近くを通ることはあっても中に入ったことのないお店の前まで来て、少し中に入るのをためらう。

 私の今の服装は、作業で邪魔にならないことと無難であることを意識した服装だ。こんなオシャレでかわいらしいお店に入っていい服装ではないような気がする。しかし、そんなことを言っていては、私は永遠にこういうお店に入れないのではないか。通販で買うという手段もなくはない。通販ならそんなことは気にしなくていい。

 でも今はライブに間に合うかわからないから通販ではなくお店で買いたいのだった。お店に入るしかない。

 一歩を踏み出すのが、とても不安でたまらなかった。それでもお店の中に入ることはできた。周りのお客さんはお店の雰囲気に合った服を着ているように見える。

 私はとても場違いに感じてしまって、逃げ出したくなった。ここで逃げていては、なんにもならない。ギリギリのところで踏みとどまって、店内にある服を見た。とにかく黄色に見えるものを探す。

 一つのワンピースが視界に入った時、これだ、と思った。近づいてよく見ると、ミモザをモチーフにされた柄のようだった。優しい黄色で、シルエットもキレイでかわいらしい。

「そちら気になりますか?」

 いつの間にか近くにいた店員さんが、話しかけてきた。私はびっくりして飛び上がりそうになる。

「あっと、あの、はい。その、私、こういう感じの黄色いのが欲しくて……」

 私はどうにかこうにか言葉を絞り出した。

「こちらのお色、華やかでいいですよね。ご試着してみますか?」

「試着……していいんですか?」

「もちろんですよ~。試着室こちらです」

 店員さんはテキパキと案内してくれて、私はそれに従った。試着室で手に持ったワンピースを改めて眺める。

 こんなかわいい服が、私に似合うわけがないと思ってしまった。でも、ここまで来たら着てみるべきだろう。あまりモタモタしていても申し訳ない。私は少し手間取りながらなるべく急いで着替えた。

 実際に着てみて、やっぱり私にはこんなかわいい服はハードルが高すぎると感じてしまう。芋臭い顔にまったく合っていない。自分の容姿がとても嫌になった。

 けど、洋服自体はやはりとてもかわいい。自分の身長、体型には合っている。そう、体型には問題なくサイズは合っている。でも、自分に似合うとはどうしても思えなかった。とてもかわいくて、好きな感じだとは思う。

 でも、好きだからこそ、私なんかが着るのが申し訳ないと感じてしまった。しかし、あまりずっと試着室で悩んでいるのは気が引ける。とりあえず元の服に着替えて試着室を出た。

「いかがでしたか?」

 店員さんが声をかけてくれる。

「サイズは問題なく合ってました。でも、その……あの、私、こういうかわいい服を着たことがなくて、自分には似合わない気がしてしまって……」

「そうですか……。でも、違ったら申し訳ないんですけど、こちらのお洋服を気に入ってくださったんですよね?」

「それは、はい、すごくかわいくて、好きだなとは思いました」

「だったら、お迎えしてみませんか?」

 こういうオシャレなお店では服を買うことを「お迎えする」と表現されるのか。そんなことに少し驚いた。

「今は自分には似合わないと感じてしまっても、着て過ごしてみたら気持ちが変わるかもしれませんよ。似合わないなんてことはない、とは言えませんが、このお洋服を好きだと感じられたのなら、このお洋服と一緒に過ごしてみませんか?」

 店員さんにそう言われて、ワンピースに視線を移す。やっぱりとても好きだ。自分には似合わないと感じてしまうけど、私はそんな自分を変えたい。かわいくなりたいと、思ったんだ。

「……やっぱり、これ、買います」

 少し迷いながらも、私はそう口にした。店員さんが嬉しそうに対応してくれて、お会計を済ませる。いつも買っている服に比べて倍以上の値段だった。

 それでもセールで安くなっていたらしい。ポイントカードやアプリのクーポンなどの案内を少し煩わしく感じたが、店員さんの対応は優しかった。

 店員さんが服のことを「お洋服」と呼んでいたのが印象に残っている。私もこれからはかわいい洋服のことはお洋服と呼んでみようか。

 黄色のお洋服は買ったので、次はメイクだ。と言っても、まずは色付きリップクリームとトーンアップする日焼け止めだけにしようと決めている。いきなり全部は無理だ。

 少しずつ始めていこう。それくらいなら、家の近所のドラッグストアでもいいだろうか。ショッピングモールだから化粧品も買えるが、キラキラした場所が眩しくて疲れてしまった。早く帰って落ち着きたい。

 ショッピングモールを離れて、電車に乗った。自宅の最寄り駅に着いて、近所のドラッグストアに向かう。

 まずは色付きリップクリーム、と思って売り場を見たら、思っていたより種類があった。どれがいいんだろうか……。どれを見ても、なにがどう違うのかよくわからない。色が違うのはわかる。成分が違うのだろうか。

 あまり値段が安いのも不安で、高いのもためらう。迷った末に、値段が下から三番目くらいの、薄めのピンク色に見えるものを手に取った。この色がかわいい気がする。

 次は日焼け止めだ。日焼け止めも様々なものがある。とりあえず価格帯が下のものを見ても、ラベンダー、ブルー、ピンク、グリーンがあった。どう違うのかよくわからない。テスターが視界に入る。SNSで前に腕の内側に化粧品を塗って試しているのを見かけたことがあるのを思い出した。

 とりあえず一つずつ少量を腕の内側に塗ってみた。それでも違いがよくわからない。わからないならどれでもいいんじゃないだろうか。なんとなく、ラベンダーを買うことにした。

 お会計をしようとドラッグストアの中を移動していて、ヘアケアの売り場が目に入った。髪は伸ばしっぱなしではあるものの、髪だけはせめてキレイにしようと、ヘアオイルとヘアミルクは普段から使ってはいる。

 値段の安さを優先して選んでいるが、ちゃんと自分の髪に合うものを見つけるべきだろうか。目についたテスターを手に取ったが、すぐに棚に戻す。ひとまずは家にある物でいいだろうと判断した。

 隣の棚にあったヘアワックスが目につく。そういうものを使ってヘアアレンジをするのを試してみるべきだろうか。それなら、家電屋でヘアアイロンを買うのがいいかもしれない。

 そうは思うものの、少しハードルが高く感じてしまう。メイクもヘアアレンジも、いっぺんに全部やろうとしても、それは無理だ。

 お会計に並ぼうとして、メイク落としは必要だろうか、と気付いた。日焼け止めとリップクリームだけなら、メイク落としなんて必要はないような気がする。洗顔があればいいだろう。

 そう思ったが、私はメイクなんてしないから、メイクをしなければ洗顔も必要ないだろうと、ちゃんとした洗顔を普段はしていない。それで今まで問題なく生きてきているから、必要ないと思っていた。日焼け止め程度でも塗るなら、洗顔料は必要だろう。

 少し戻って、洗顔料を探す。いずれはメイクもちゃんとするつもりだから、メイク落としも買っておくか迷う。メイクも落とせる洗顔料というのはあるが、それでいいんだろうか。

 メイク落としはメイク落としで別に買っておく方がいいような気がするが、予算的にどうだろうか。迷ったあげく、メイクも落とせる洗顔料を選んだ。

 お会計を済ませて、帰宅した。今日は見たいアニメがテレビで放送される曜日。最近はサブスクも充実しているが、テレビで見る方が楽しいと感じる。買ってきた物を整理して、夕飯やシャワーなどを済ませてテレビを見た。

 アニメを見るのも、やっぱり大好きでやめられない。アニメを見ているあいだは、他のことを忘れていた。

 アニメを見終わって、明日の予定を確認する。明日はカット専門店に髪を切りに行く。少しでもかわいくなりたい。そのためにはやっぱりちゃんと美容室に行くべきなんじゃないかと思うが、美容室というのは予約が必要だと聞く。

 予約なしで入れる場合もあるだろうが、私は「予約」という行為がとても苦手だった。食事にしても何にしても、予約が必要なお店には行きたくない。映画やイベントなどのチケットを取るのだって、少しためらう。

 先の予定を埋めるのが、なんとなく怖かった。予定を決めると、意識がそれに縛られてしまう。病院の予約はできるけど、病院の予約だってしなくていいならしたくはない。必要に迫られて仕方なくやっている。

 そんなことを考えていたら、気持ちが沈んでしまっている気がした。今日は寝て気持ちをリセットしよう。


 翌日の夕方、近所のカット専門店に向かった。

「前髪は目と眉のあいだくらいで、後ろは長さはそんなに変えずに軽く整えてください」

 カット専門店では、いつもこんな感じの注文をしている。かわいくなりたいと思い始めることができたのだから、もっと印象が変わるように切ってもらうべきかもしれない。

 でも、どんな風に切ってもらいたいみたいな具体的なイメージが持てないから、いつも通りの注文をした。

 カットされた後、鏡を見て、全体的にスッキリしたような印象はあった。しばらく伸ばしっぱなしだったから、整えてもらうだけでもサッパリする。

 とりあえず、お洋服は買って、メイク用品も少しだけど買った。髪も整えて、少しはマシになった気がする。ここに来て思ったが、お洋服に合わせる靴も買うべきだったかもしれない。

 でも、靴は履き慣れた物でないと危ないという意識がある。予算的にも少し厳しい。今はひとまず、できることはしたかなと思った。


 アニメやマンガなども楽しみながら生活をしていたら、あっという間に土曜日になった。私の土曜日は、朝に特撮ヒーロードラマを見ることから始まる。その時間は特撮ヒーローに夢中になる。でも、テレビを消したら、かなりソワソワしてしまって、ごはんを食べようにも、落ち着けなかった。

 なにか予定がある日は、いつもこうなってしまう。予定の時間まで時間があっても、なにをすればいいのかわからなくなる。ライブの時間は十六時からだから、まだかなり時間はあった。

 どうにかこうにかごはんをお腹に入れた後、服を着替えて、日焼け止めとリップクリームを塗った。髪はブラシで整えるくらいはしておく。

 鏡を見ても、やっぱりこんなかわいいお洋服は私には似合わないんじゃないかと思ってしまった。いつか、そんな卑屈に思わなくなる日が来るんだろうか。

 今日の会場は初めて行く場所で、場所がよくわからないから、早めに行くべきかもしれない。でも、早く着きすぎても困るような気もした。ぐるぐると考えて、地図アプリを見て場所を確認する。

 少しでも気持ちを落ち着けようと、SNSをチェックした。キョウカ様の投稿が視界に入る。「今日はショッピングモールでフリーライブ! みんな気軽に見に来てね〜! 会えるの楽しみにしてるよ!」という文章に、キョウカ様の写真が添えられている。私はそれにいいねを押した。

 キョウカ様に会えるんだ。そう思ってとても気持ちが高まる。胸のドキドキが止まらない。ライブなんて慣れてないから、少し不安もある。落ち着けなくてどうしようもない。

 落ち着くためにも少しカバンの中身の整理でもしようかとして、一つ気が付いた。ペンライトを買っていない。なによりもまず先に買うべきだったのではないか。

 自分の容姿なんて気にしている場合ではなかった。なんで今までそこに思い至らなかったのかと、後悔する。

 まだ時間はあるような気もするが、そんなに時間がないような気もした。ライブ自体は十六時からと書かれていたが、特典券の販売は十五時からと書かれていた。もうお昼過ぎなので、今からペンライトを買ってから行くには、微妙な時間だ。

 そもそもペンライトがどこで買えるのかを知らない。というか、ペンライトって商品名は「ペンライト」で販売されているのか? 「ペンライト」で探して見つかるのか、どこで買えるのか、何もわからない。

 「ペンライト どこで買える」で検索をしてみた。アニメショップの通販ページが出てくる。たまに行くことがある大型のアニメショップだ。店舗数も多いので、今日のライブ会場の近くにもあるかもしれない。とりあえず通販ページを見てみるが、種類が多くてどれがいいのかわからない。

 棒状の物、ハート型、星型の物もある。「ペンライト 初心者 おすすめ」で検索してみた。どうやら「キングブレード」という商品名の物が一般的らしい。カラーをチェンジできるものと、単色と呼ばれるカラーが一つだけの物があるようだ。

 キョウカ様の色、黄色だけの物にするか、カラーをチェンジできる物にするか迷う。価格帯としてはカラーチェンジも単色もそこまで差はないように感じる。カラーチェンジできる物を一つ持っておけば、ティアスタのライブ以外にも、色々なイベントで使えるだろう。

 悩んでいたら、思ったより時間が経っていた。今日のところは、ひとまず、ペンライトはなくてもいいかもしれない。一旦は考えるのをやめて、電車に乗った。

 初めて行く場所なので、電車の中で乗換案内とマップを何度も確認する。なんだかとってもドキドキしてたまらなくなってくる。やっぱりペンライトは必要だったんじゃないかと思うが、買いに寄ったらちゃんと間に合うかわからない。

 ライブの後に買って帰るのでもいいかもしれない。次にライブに行く時のために、今日の帰りには忘れずに買おう。

 会場の最寄り駅に着いて、マップを見た。会場はそう遠くないはずだが、なにせ初めて来る場所なので、少し道に迷う。

 会場に辿り着いて時間を確認すると、まだ十四時半にもなっていなかった。特典券の販売開始まで三十分以上はある。

 飲食店に入るには微妙な時間だ。カフェでお茶を飲むくらいは混んでなければできるだろうが、土曜日のショッピングモールなんてどこも混んでいるだろう。

 ひとまず、ステージの場所を覚えておいて、ショッピングモールの中を見て回ることにした。お洋服や雑貨、お茶やお菓子など、お店の中には入らず少し距離を置いて見る。あまりキラキラしたお店は、私には場違いな気がしてしまった。

 トイレに寄って、鏡を見る。やっぱり自分の容姿はあまり好きにはなれない。時計を見るともうすぐ特典券の販売開始の時間だ。

 ステージの場所に戻ると、列ができていた。最後尾に並んでいる女性が、「ティアスタ物販最後尾」と書かれた札を持っているのが見える。

 同人誌即売会で見かける「最後尾札」だ、と思った。アイドルのライブ会場でも、ああいうものがあるのか。こないだの遊園地でのライブの時もあったのかもしれないが、こないだは初めてのことで慌てすぎてよく見えていなかったのだろう。

「最後尾もらいます」

 最後尾の女性に声をかけて、札を受け取って並ぶ。すぐに後ろに人が並んで、最後尾札を渡した。

 このタイミングで気付くのは遅すぎたのだが、特典券をいくつ買うかを決めていなかったことに気が付いた。私は少し慌てる。サイン付きのチェキが欲しいとは思っていたが、よく考えたらチェキよりも写メの方が画質はいい。

 というか、チェキを撮る時のポーズも考えなくちゃいけない。なにも考えていなかった。頭の中がパンクしそうな感覚になりながら、慌てて考える。

 とりあえずサイン付きチェキ一枚と、写メも一枚は撮りたい。特典券は三枚でいいか。ポーズは後で考えよう。もう順番が迫っていた。

「えっと、特典券を三枚……」

「メンバーは誰ですか?」

「えっ?! あ、キョウカ様でお願いします!」

「キョウカ三枚ですね。ではこちら特典券と、整理券です」

 整理券って何だろう、と思いながらスタッフさんから受け取って、レジを離れた。少し離れたところで受け取った物を確認する。キョウカ様の特典券が三枚と、もう一枚は「優先入場整理券」と書かれていた。

 説明を読むと、どうやらライブの観覧は無料だけど、特典券を買った人が優先的に前方エリアで観覧できるらしい。そういうシステムなのか。番号はランダムのようだ。整理番号は五十六と書かれていた。

 優先入場は十五時四十分から開始とのこと。十五時の販売開始からまだそんなに時間が経っていないので、三十分ほど時間がある。私はまた少し周辺のお店を見て時間を潰してきた。

 優先入場が始まって、スタッフさんが番号を順番に呼んでいる。私の番号は五十六だけど、そんなに人数がいないように見えた。番号の配布がランダムだからだろうか、呼ばれた番号の人がいない番号もあるらしい。二十番台の後半まで呼ばれたところで、残っているのは私を含めて三人くらいだった。

「三十番以降の方〜、お進みください〜」

 私を除く二人が前に進んだ。私は五十六なので少しためらったが、もう何番でも関係ないようだ。そういうこともあるのか。

 ひとまず入場したものの、ライブが始まるまでどうしていればいいかわからない。ペンライトを用意している人もいるし、ケータイを見ている人もいる。

 友人同士なのか、隣と会話している人も多い。ペンライトは買うべきだったか、と後悔しながら、とりあえずケータイを開く。ぼんやりとSNSを眺めて時間を潰した。

 こないだの遊園地でのライブよりもステージが近いけど、座るところがなくてみんな立っているからか、ステージの見やすさが違うように感じる。

 あと二分ほどで十六時になるところで、ケータイをカバンにしまった。もうすぐライブが始まる。とても胸が高鳴るのを感じた。

 ステージに三人が登場した瞬間、歓声が上がり、拍手が起こる。私は声を出すことに慣れていないので、拍手しかできなかった。

 キョウカ様の歌声はやっぱりとても特別に感じる。ライブを見るのは二度目だけど、改めて、アイドルの輝きってすごいと思った。すごくキラキラしていて、眩しくて、息を呑む。

 キョウカ様は歌っている時の表情の変化がすごく豊かで、目が離せない。三人のバランスも良いなと感じる。歌もダンスも、私には良し悪しはよくわからないけど、とにかくすごかった。

 あっという間に二曲が終わって、自己紹介になった。私はここで、声を出してみようと決意する。

「想いを届ける流れ星! 白峰ミユキです! メンバーカラーはホワイト、ミユキって呼んでください!」

「ミユキ〜!!」

 周りの声がすごくて、私は少しびっくりした。私も周りに混ざって声を出そうとしたものの、か細い声しか出せなかった。白いペンライトが揺れている。

「煌めく笑顔の元気印! 横谷サトリ、メンバーカラーはヴァイオレットです。サトきゅんって呼んでねー!」

「サトきゅん〜!!」

 今度はさっきよりは声が出せた気がする。でも、まだ周りの人のように思いっきり叫ぶことはできていなかった。

「始まりを告げる一番星! 新村キョウカ、メンバーカラーはイエローです。キョウカ様って呼んでほしいな」

「キョウカ様〜!!」

 我ながらびっくりするほど大きな声が出たと思う。でも、周りの人の声に比べたら小さい声だった。

 次の曲が始まる。二曲ほどやって、ライブは終わった。楽しくてあっという間だった。楽しい時間って、どうしてこんなに一瞬で過ぎ去るように感じるんだろうか。本当に一瞬で終わってしまったように感じる。

 ほどなくして、特典会の列形成が始まった。並んで待つ。とってもドキドキソワソワして、心臓が口から飛び出るかと思ってしまう。

 まもなく三人が出てきて、挨拶をして特典会が始まった。順番を待っているあいだは、すごく時間が長く感じてしまう。徐々に列が進んでいくのを待っているあいだ、ドキドキしてたまらない。

 今になって思い出したが、チェキのポーズを考えていない。ライブに圧倒されて、そんなことを考える余裕がなかった。慌ててケータイで検索しようとしたが、もうすぐ順番が来てしまう。

 ケータイをカバンにしまおうとして、そういえば「写メ」も撮りたいんだった、と気付く。慌ててカメラアプリを開いた。もう私の順番だった。

「特典券は三枚ですね。チェキと写メどうしますか?」

「えっ、えっと、サイン付きチェキと、写メ、一枚ずつで……」

「かしこまりました。ケータイお預かりしますね。カバンはこちらにどうぞ」

 カバンを置いて、キョウカ様の隣に立った。

「リオンちゃん! また来てくれてありがと〜!」

「えっ、えっ?! お、覚えてるんですか……?!」

 驚いて目を白黒させる私に、キョウカ様は当然のように微笑む。

「覚えてるよ〜。ポーズどうする?」

「えあっ、あの、なにも考えてなくて……」

「そっか、じゃあ、俺に合わせてポーズ取って!」

 言われるがまま、私はキョウカ様に合わせてポーズを取った。チェキと写メが撮影されて、スタッフさんが、チェキをキョウカ様に、ケータイを私に手渡す。

 そういえばこのお洋服にはポケットがなかった、と今になって気が付いた。とりあえずケータイを片手に持ったままにしておく。

「ねえ、リオンちゃん、俺のイラスト描いてくれたよね?」

 キョウカ様が、サインを書きながら、そう言った。

「えっ、あっ、み、見てくれたんですか?!」

 いいねされたのだから、見られたことはわかっているのだが、そんな言葉しか出ない。

 そのことを聞きたくて来たはずだったのに、ライブに感激してすっかり忘れていた。まさか、キョウカ様からそのことを言われるとは思っていなかった。

「見たよ〜! 俺さ、イラスト描いてもらえて、めちゃくちゃ嬉しかったんだよ! ありがとね!! また描いてくれたら嬉しいな」

「え、やっ、こちらこそ、嬉しいです、ありがとうございます……!」

 キョウカ様が本当に嬉しそうで、私は感極まった。

「ファンアート描いてもらえるって本当に嬉しいからさ、今度からはハッシュタグとかメンションとか付けて見つけやすいようにしてね! 俺はエゴサしまくるからなくても見つけるけど、メンションしてくれると助かる!」

「あっ、はい……!」

 怒涛の勢いでそう言われて、頷くことしかできなかった。 

「それに、今日は黄色のお洋服を着てくれてるのも、嬉しい〜。すごいかわいいね!」

「ひぁっ……」

 かわいい、と言われた瞬間、背筋がゾクッとした。拒否感というか、気持ち悪いような感じがして、とてもびっくりする。

「お時間でーす」

 スタッフさんに声をかけられた。キョウカ様からサインを書かれたチェキを受け取る。

「リオンちゃん、またね!」

 キョウカ様が片手を掲げて、私はそれに合わせてハイタッチをした。キョウカ様の笑顔が、眩しい。

 カバンを手に取って、私はふらふらと近くのベンチまで歩いた。とりあえず座って、深呼吸をする。ケータイとチェキも手に持ったままで、なんだか手が大変だ。

 写メのデータに問題がないかチェックする。問題なく撮れていた。チェキの方も確認する。「リオンちゃん大好き! またね!」と書かれていた。なんだかよくわからない感情で胸の内がごちゃごちゃしている。

 感情を整理したい気がするが、あまり長い時間ベンチに座っているのもよくない気がした。とりあえず今日は帰宅するのがいいと判断する。ペンライトを買いたかったはずだが、早く帰るのを優先したい。

 ふらふらと立ち上がって、駅まで歩いた。なんだか胸が苦しい。電車に乗ると、ちょうどよく座れて助かった。とにかく早く頭の中を整理したい。ケータイのメモアプリを開く。

 なにかを書き出そうとして、なにを書くのかわからなくなった。こういう時はどうするんだったか。とりあえず頭に浮かんだ感情を書き出してみる。

 ライブがとても最高ですごく楽しかった。キョウカ様に会えて嬉しかった。ファンアートを描いたことを喜んでもらえたようで嬉しかった。黄色のお洋服を嬉しいと言われて……かわいいと言われて、気持ち悪かった。

 気持ち悪かった? 少し違うような気がする。拒否感……? 拒絶? 嫌悪感……? 嫌悪感、これが合ってると思う。なにに対して?

 「かわいい」と言われたこと……。「かわいい」と言われたことに対して嫌悪感が出た。なぜ? そこで少し手が止まる。

 なぜだろう、なにに対しての嫌悪感なのか、そこを突き詰めたい。単純に「かわいい」と言われることに慣れていない。これはあるかもしれない。でも、びっくりしたならわかるけど、嫌悪感になるのはわからない。

 わからないけど、事実として嫌悪感がある。「かわいい」と言われたことが、今までの人生でまったくなかったわけでもない……いや、ないかもしれない。思い出せる限り、そんな記憶は全然なかった。

 今まで言われたことがなかったから、初めての感情が出たのか、そんな単純なことでもない気がする。

 キョウカ様に言われたからびっくりしすぎた? 推しに「かわいい」なんて言われて……推しが、自分の容姿のことを、褒めた。

 そんなことが、現実で起きることがあるなんて、夢小説じゃないんだから……いや、本当に夢小説ではなく、現実なんだ。

 現実で、推しに……男性に「かわいい」と言われたから、嫌悪感が出た? これかもしれない。そう、私は現実の男性に対して苦手意識がある。

 あぁ、そうか、それだ。現実の男性から自分の容姿について言われたから、嫌悪感が出た。私は、昔から、男性から性的に見られることにも、男性を性的に見ることにも、嫌悪感がある。いい年齢だけど、アダルトなコンテンツなんて死んでも見られないと思っている。

 そうか、現実の男性から、自分の容姿について触れられたから、嫌悪感が出た。そういうことだ。

 でも、相手はアイドルなんだから、私のことを性的に見て発言するなんてありえない。私だって、キョウカ様のことを性的に見てはいない。単純に「かわいい」って言われただけ……。

 気が付くと、かなり時間が経っていて、自宅の最寄り駅に着いていた。慌てて電車を降りる。

 帰宅して、ひとまずカバンを置いた。まだ感情の整理が終わっていない。でも、帰宅したらどっと疲れが出てきた。

 夕飯を買っていないことに気付いたが、買い置きのカップ麺かなにかでいいだろう。ひとまず部屋着に着替えて、お洋服を洗濯機に入れる。こういうかわいいお洋服は洗濯ネットに入れなくちゃいけない。

 洗濯は今するか、明日にするか迷った。洗濯なんて洗濯機を回して待つだけ、と言えば、それだけだが、洗濯物を干すことだけでも重労働に感じてしまう。

 それくらい疲れていた。けど、洗濯はなるべく早めに済ませてしまいたい。洗濯機のボタンを押した。

 シャワーを浴びて、洗濯物を干し、ご飯を食べて、深呼吸をした。ひとまずSNSをチェックする。キョウカ様の投稿があった。「今日はショッピングモールでのライブ、楽しかった! 会いに来てくれてありがとう! またね〜!」という文章に、キョウカ様の写真。

 とっても愛おしくて、胸が高鳴る。いいねを押して、返信の文章を考えた。少し迷いながら、「お疲れ様です! 今日のライブとってもステキでした!」と送った。

 SNSを閉じて、メモアプリを開く。気持ちの整理をしてしまいたかった。

 キョウカ様に「かわいい」と言われて嫌悪感があった、それは事実。恐らく私は男性から自分の容姿に触れられることに嫌悪感があると仮定。男性への苦手意識があるから。もしかしたら、自分の容姿が嫌いだから、っていうのもあるかもしれない。自分の容姿が嫌いだから、自分の容姿を褒める言葉を受け入れられない。

 男性から性的に見られるのが嫌なのは、別の話? 繋がっているような気もするし、分けて考える方がいい気もする。

 そもそもキョウカ様の言葉は、私の容姿に触れていただろうか。「お洋服」に対しての言葉ではなかったか、と考える。お洋服がかわいいと言われたなら、それは私のお洋服選びのセンスを褒められたことになる。それは心の底から嬉しい言葉だった。

 そう思ったら、少し心が軽くなる気がした。あの時、すぐスタッフさんに声をかけられたから曖昧になったけど、キョウカ様は戸惑うような顔をされていた。

 私が変なリアクションをしてしまったから。申し訳なかったな、と思う。それに、緊張してマトモに会話ができなかった気がする。次に行く時は、もっとしっかり会話ができればいいな。

 疲労感に襲われて、今日はお薬を飲まなくても眠れるんじゃないかと思った。でも、うつ病を患ってお薬を出されてる身なんだから、お薬は毎日ちゃんと飲まなくちゃいけない。

 明日は日曜日だから、朝は特撮ヒーロードラマがある。明日を楽しむためにも、今日はしっかり寝よう。


〈三話に続く〉

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