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ダンジョン配信で指示厨してたら師匠になってた。  作者: 指示厨


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9/22

武器を選定する

翌朝、まだ空が淡い青のまま眠っている時間、アキトは家を出た。空気は冷たく、夜明け前の湿気を含んで、肌に張り付く。この冷たさが、彼の胸に残った“熱”との対比を強調しているようだった。昨日の師匠──s_opt──のコメントが、胸の奥にずっと火を灯し続けている。


《鉄パイプではお前の動きに追いつけない》


たった一行。それでもアキトは、その言葉が体の芯を変えてしまったような感覚を覚えていた。鉄パイプは初めてダンジョンに挑むとき、拾っただけの武器だった。それを通して生き延びたことも多い。しかし、それはもう、自分の成長に対して“足枷”になっている──師匠の言葉は、そう言っているのだ。


「……強く、ならなきゃ」


アキトは歩幅を広げる。探索者センターまでの道を、自分でも驚くほど迷いなく歩いていた。都市は朝焼けの中でゆっくり目を覚まし、人々は仕事へ向かう準備をしている。しかし、その端で武器を求めて歩く少年がいることを、誰も知らない。ただ、彼だけの戦いが、今日も始まろうとしていた。


探索者センターの自動ドアが開く。武器フロアへ足を踏み入れると、空気が変わった。油の匂い、金属の温度、整備員たちの作業音。それらが混じり合い、独特の“闘いの空気”を作り出している。


アキトは息を呑んだ。


壁一面に並ぶ武器たちは、まるで眠れる獣のようだった。剣、メイス、ハンマー、スピア、ナイフ、ワイヤー武器。さらには、ダンジョン素材を部分的に組み込んだ高級品まで揃っている。その光景に圧倒されながらも、アキトは深呼吸をした。


スマホを三脚にセットして配信を開始すると、すぐにコメント欄が動く。


《武器フロアか》

《選び方を間違えるな。武器は身体の延長だ》


「師匠……!」


アキトの声は、自然と緩んだ。緊張と安心が入り混じった声だ。師匠が見てくれている──それだけで、世界がわずかに軽くなる。


まず手を伸ばしたのは、ショートソード。見た目はシンプルで扱いやすいと評判の武器だ。アキトは慎重に持ち上げた。だが、腕にかかる重さに、思わず表情が歪む。


「重い……!」


《その武器は中途半端だ。リーチも火力も足りない。

 お前の体格では扱いきれない》


アキトは素直に戻した。次に槍。リーチが魅力的だ。しかし構えると、槍先がぶれて安定しない。


《槍は距離感の天才が使う武器だ。今のお前では間合いが揺れる》


次はハンマー。持ち上げるだけで肩が悲鳴を上げた。


「こ、これは絶対無理……!」


《論外だ》


即切り捨てられた。


ワイヤー武器のコーナーも見た。構造は複雑で、使いこなせば強力らしいが、今のアキトには技術が圧倒的に足りない。


《未来のお前なら扱えるかもしれないが、今ではない》


「未来……」


たった二文字が胸を締めつけた。“未来のお前”と言われたことが嬉しかった。


そして視線が吸い寄せられるように、ある武器に向かった。


ダガー。

短い刃。

軽く、鋭く、無駄がない。


アキトは一本手に取った。驚くほど軽い。腕の軌道に負担がない。自然に振れる。


「これ……すごく振りやすい……」


《悪くない。お前の初動は速い。軽武器向きだ》


喉が鳴る。

だが隣を見ると、似たような刃がもう一本並んでいた。


ツインダガー。

同じ形の刃が二本セットになっている。


アキトは二本同時に握ってみた。


軽い。

左右どちらでも扱える。

フェイントも入りやすい。


振ってみると──


シュッ、ヒュッ、と連続で空気を切った。


「これ……! これだ……!」


《ツインダガーは誤差適応型の最良武器だ。

 お前の直感型の動きに、最も合う》


「師匠……本当に、俺がこれを……?」


《選ぶのはお前だ》


胸が大きく跳ねた。

アキトは迷わず整備員の元へ持っていく。


「これにします!」


整備員は微笑んでうなずく。


「いい選択だな、兄ちゃん。片方が壊れてももう一本ある。

 しかも、お前みたいに細かく動くタイプには相性がいい」


滑り止め処理や細かな調整をしてもらい、アキトはツインダガーを購入した。


《武器を手に入れたか》


「はい! レジで買いました!」


《なら鍛えろ。その刃はお前を裏切らない》


帰り道、夕陽に照らされるガラス窓に映る自分の影を見る。


影は昨日よりも長く、鋭く、強く見えた。


「俺……変われてるのかな」


少年は刃を握り、未来へ向かって歩いた。




翌朝。

訓練室に入ったアキトは、リュックからツインダガーをそっと取り出した。新品の刃は照明を受けて薄く光り、その光だけで胸が緊張で震える。


「……いよいよだな」


配信を開始すると、師匠の名前が表示された。


《武器の初動は今日で決まる》


「師匠!」


《昨日の映像を解析した。

 ダガーはお前の身体に合う。だが扱いを誤れば自分を切る》


「気をつけます!」


まず構えから。右手の刃は低く、左は胸元に。

画面にコメントが飛ぶ。


《肩を上げるな》

《肘をたため》

《足を広げるな。瞬発を殺すな》

《軸を細くして重心を下げろ》


アキトは修正しながら構えを作る。

身体の中心が一本の線のように整い、呼吸が自然と深くなる。


「なんか……すごい動きやすい……」


《それが構えだ》


次に振る。

刺突、横斬り、逆手斬り、払い。

空気を切るたびに鋭い音がした。


ヒュッ、スッ。


《速い》


アキトの胸が跳ねる。


「ほんとに……!」


しかし次の瞬間、大きく振り抜いた反動で足が揺れ、危うく自分の腕を掠めるところだった。


「うわっ──!」


《止まれ》


吸い込むような冷たい一行。


《軽武器の弱点は二つ。

 一つは勢いが乗りすぎると制御不能になること。

 二つは相手の強度を突破する火力がないこと》


アキトは不安そうに刃を見る。


「じゃあ俺は、どうすれば……」


《軽さを“繋げ”》


「繋げる……?」


《大振りの一撃に頼るな。

 小さな“点”を連続して“線”にしろ》


アキトは動きを変えた。


スッ、スッ、スッ──

点が連続し、刃の軌跡がひとつの流れになっていく。


《それだ。お前は線で戦うタイプだ》


次はステップ訓練。

前へ、後へ、横へ、斜めへ。

動きながら刃を振る。


《重心が高い。沈め》

《半歩でいい》

《呼吸を合わせろ》

《考えるな。空気を切れ》


アキトの動きが急速に洗練される。

刃と身体の線が完全に一致した瞬間、師匠のコメントが流れた。


《その動きなら第二層の雑魚は殺せる》


アキトの目が強くなる。


「……本当に……?」


可動ターゲット二体が動き出す。


《右へ半歩》

アキトは即座に動く。


《しゃがめ》

身体が落ちる。攻撃をかわす。


連撃、三連撃。機体が停止する。


コメント欄が静止した。


アキトは不安になり、スマホを覗く。


「し、師匠……?」


数秒後、ぽつりと文字が現れた。


《……成長速度が予測を超えている》


心臓が跳ねた。

師匠が予測外を認める。それは奇跡のような言葉だった。


訓練後、刃を磨きながら深呼吸する。


《明日から本格的な戦闘訓練に入る。

 第二層の番人に勝ちたいなら、今日の動きを十倍に高めろ》


アキトは刃を握りしめる。


「強くなります。絶対に……師匠についていきます」


帰り道。

夕陽に伸びる彼の影は、昨日よりさらに濃く、鋭く、長かった。


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