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ダンジョン配信で指示厨してたら師匠になってた。  作者: 指示厨


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8/22

飼われるか?変われるか?

 翌日、アキトは筋肉痛で起き上がれなかった。


「……いってぇ……っ!」


 身体中が悲鳴を上げている。

 腕は鉛のように重く、太ももは一本一本に鋼の棒が刺さったみたいに痛む。


 しかし、アキトは笑った。


「これ……成長してる証拠だよな……?」


 痛みさえ、もはや喜びへ変換されていた。


 布団から転がるように起き上がり、水を飲み、軽いストレッチをする。


「よし……今日も行く」


 誰も褒めてくれない。

 誰も期待していない。

 だがアキトには、たった一人だけ“見てくれている存在”がいた。


 ――師匠。


 その存在だけで、アキトは立ち上がれた。



 支援センターに到着すると、受付の女性が苦笑した。


「真木くん……本当に毎日来るのね」


「はい」


「倒れないようにね。新人さんは、無理して怪我する人も多いから」


 アキトは軽く頭を下げ、訓練室へ向かう。


 扉を開けた瞬間、昨日の自分がそこにいるような感覚に襲われた。

 この部屋はもう、アキトにとって“戦う場所”になっていた。



《走れ》


 脳内に蘇る師匠の声に従って、アキトは全力疾走を始めた。


 昨日より速い。

 足が自然と前へ出る。

 腕も無理なく振れている。


 筋肉痛の痛みはあるが、動けないほどではない。

 “動くための痛み”だ。


「はぁ……っ、はぁ……っ!」


《肩の力を抜け》


「すぅ……!」


《無駄な上下動をするな。水平に進め》


「はいっ……!」


 息は荒く、喉は焼けるように痛い。

 しかしアキトは止まらない。


 走るたびに、師匠の声に一歩でも近づいていく気がした。



 反応速度測定器。


 赤。


 叩く。


 青。


 避ける。


 数分前には思いもよらなかった“流れで動く感覚”が彼の体に生まれていた。

 思考していない。

 ただ反応している。


 考えるより体が先に動いていた。


《その調子だ》


「っ……はい!」


 “褒められた”という事実だけで、アキトの視界が鮮明になる。



 そして模擬戦闘ロボとの実践訓練。


 アキトは昨日とは違う構えで臨んでいた。

 膝が柔らかく、重心が低い。

 腕ではなく、体幹で武器を扱っている。


「……来いよ」


 ロボが突進する。


《右へ》


 アキトは半歩右へ滑るように動き、攻撃をかわした。


《踏み込め》


「っ……!」


 アキトはロボの死角へ入り込み、鉄パイプを叩きつける。


 ガンッ!


 ロボが大きく揺れる。


「よしっ!」


《気を抜くな。次が来る》


「っく!」


 ロボが肘打ちを繰り出す。

 アキトは寸前で身を引き、攻撃を避けた。


 その動きは昨日よりも速く、正確だった。


《悪くない。だが近い》


「くっ……!」


《避けると同時に次の位置を考えろ》


「あっ……!」


 アキトは後退しすぎて壁にぶつかった。


 ロボがさらに殴りかかる。


《しゃがめ》


「っ!」


 アキトは咄嗟にしゃがみ、攻撃を回避する。

 頭上でロボの腕が空を切る。


《跳べ》


「跳ぶっ……!」


 アキトは地面を蹴って横へ跳び、ロボから距離を取った。


 心臓が激しく脈打つ。

 息が荒い。

 汗が目に入って視界が揺れる。


 それでもアキトは立ち続けた。


「まだ……やれます……!」


《やれ。倒れたら終わりだ》


「終わりませんっ!」



 そして――訓練開始から40分が経った頃。

 アキトの動きが一段階“変わった”。


 ロボの動きが見えるのだ。


 正確には、ロボの動きの“予兆”を感じられるようになっていた。


 重心が前に乗る――殴りが来る。

 肩が開く――フックが来る。

足が滑る――距離を詰めるつもりだ。


《気づいたな》


「……はい……見えます……!」


《それが“戦闘の感覚”だ》


「戦える……!」


 アキトは踏み込む。


 鉄パイプを振る。

 ロボの腕を避ける。

 反撃する。


 それらすべてが、“昨日のアキト”では考えられない動きだった。


 そして最後の一撃。

 アキトは渾身の力でロボの胸部を打った。


 ガンッ!!


 ロボが後退し、膝をついた。


「……やっ……た……!」


《その一撃は“攻撃”になっていた》


 昨日まではただの振り回しだった。

 だが今日は武器として成立していた。


 アキトはゆっくりと鉄パイプを下ろし、壁に手をついた。


 息が上がり、視界が霞む。

 膝が震え、今にも倒れそうだった。


 しかしその表情は、勝者のものだった。


「師匠……俺……やれました……!」


《まだ弱い。だが確かに……成長している》


「成長……!」


《お前は、弱者から“戦う側の人間”へ変わりつつある》


 アキトは涙をこぼしながら笑った。


「俺……ほんとに……変われるんだ……!」



 訓練は三時間続いた。

 倒れ、立ち上がり、転び、殴られ、それでもアキトは一度も諦めなかった。


 その姿を見て、支援センターのスタッフが呟く。


「あの子……あんなに動けたっけ?」


「いや、昨日までは……普通の少年だったはずだが」


「誰かに教わってるんじゃない?」


「いや、あれは……自己流じゃない。誰かの指導だ」


 アキトは誰の声も聞いていなかった。

 彼の耳に響くのは師匠の声だけだ。



 訓練後、アキトは汗を拭きながら空を見上げた。


 夕暮れの赤色が、どこか“明日の光”に見えた。


「師匠……俺、強くなります。絶対に」


 その声は、もう迷いを含んでいなかった。







翌朝。

まだ日の出前の薄暗い時間帯、アキトは誰もいない訓練室に入った。


「……よし。今日も来たぞ……」


昨日の筋肉痛が、身体のあちこちをじわりと締めつける。

だが、その痛みは嫌ではなかった。

“生きている”ことを実感できる痛みだった。


アキトはスマホを三脚に立て、配信モードにする。

視聴者はまだ十数人だが、問題ない。


画面の隅に、あの名前が現れた。


《s_opt が入室しました》


「おはようございます、師匠! 今日もよろしくお願いします!」


コメント欄が一行流れた。


《筋肉痛は正常。昨日の動作を“記憶している証拠”だ》


「えっ……俺の動き、覚えてくれてたんですか?」


数秒後──


《お前の軌道は記録してある》


アキトは一瞬だけ目を丸くし、そして照れたように笑った。


「……じゃあ、今日の俺、見ててください」


 



まず走る。


アキトは訓練室に設置されたランレーンを全力で駆け出した。

スマホの画面越しに、コメントが流れる。


《肩の力を抜け》

《足が重い。地面を“押す”意識で走れ》

《呼吸が乱れている。鼻から吸え》


アキトは走りながら、画面をちらっと確認する。

視線を落としすぎると危険なので、タイミングは一瞬だけ。


そして、指示を即座に修正に変換する。


「はぁ……っ……! 押す……押す……!」


フォームが整う。

速度が上がる。


筋肉痛は消えないが、痛みに上書きするように動きが滑らかになっていく。


 



次は反応速度訓練。


赤が光ると叩き、青が光ると避ける。


昨日より明らかに速い。

アキト自身もそれを自覚していた。


画面にコメント。


《視界の中心だけで判断するな。周辺視野を使え》


「周辺視野……!」


アキトは意識を変える。

“見る”のではなく“感じる”。


赤、青、赤、青。


叩く。避ける。叩く。避ける。


昨日はできなかった流れが、自然と形になっていた。


スマホ画面に、短いが重い一文が現れる。


《昨日の限界を越えている》


アキトの胸が跳ねる。


「……ほんとに……?」


《事実だ》


たった5文字。

だがその5文字が、身体の奥に熱を灯した。


 



最後は模擬戦。


可動ターゲットが二体、同時に動き出す。


「よし……来いよ!」


画面にコメント。


《間合いを測れ》

《攻撃を“見る”な。予兆を感じろ》

《膝が甘い。もっと沈め》


アキトは動きながらコメントを拾う。

まるでリアルタイムで“師匠が隣にいる”ようだった。


一体目の腕がうねる。


《右へ》


アキトは即座に右へ飛ぶ。


二体目が背後から腕を振り下ろす。


《しゃがめ》


アキトは瞬時に身体を落とし、攻撃をかわす。


「っっ……!」


そのまま踏み込んで鉄パイプを叩き込む。


ターゲットが後方へ弾かれる。


画面にコメント。


《判断は悪くない。だが踏み込みが浅い》


「浅い……わかりました!」


《最後まで動け。そこで止まるな》


アキトはターゲットへ二撃、三撃と連打する。

動きが昨日と違う。

“考えながら”ではなく、“感じながら”戦っている。


 



訓練が終わった頃には、アキトの呼吸は荒く、シャツは汗で張り付いていた。


「はぁ……はぁ……今日……どうでしたか……?」


数秒の沈黙。


そして、画面に文字が現れる。


《お前は昨日の自分に勝った》


アキトの目がゆっくり見開かれた。


「……勝った……!」


《それができる人間は少ない。お前は成長している》


「っ……はい!!」


《明日から武器を変える》


「武器……変える?」


《鉄パイプではお前の動きに追いつけない》


スッと、喉の奥が熱くなる。


アキトはスマホを両手で持ち、深く頭を下げた。


「……師匠。俺……もっと強くなります。

 必ず……番人を倒せる人間になります」


画面に、たった一行だけコメントが返ってきた。


《なら鍛えろ。俺が見ている》


アキトの目が強く光る。


「はい!!」


 



その日の帰り道、アキトの影は昨日よりまた少し濃く、太くなっていた。


スマホの画面には、師匠の最後のコメントが静かに残っている。


《俺が見ている》


それだけで、少年はまた走り出せる。

また立ち上がれる。


そして──

その強さが、いずれ第二層の門番を倒す力へ変わっていくことを、

佐藤はまだ知らない。

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