「さすが、オウマくん!」魔王、一〇〇人抜きの大英雄として打倒魔王を期待される
終業式――
俺たち生徒は講堂に集まり、学長のありがたい話を聞いていた。
「明日より長い夏休みに入る。しかし、諸君らは自分たちが勇者を目指すものであることを忘れてはならぬ。日々の鍛錬を怠ることなく、休み明けに一回り強くなった姿を見せてくれることを期待する」
そうして、学長はこほんと咳をした。
「さて、儂からの話は以上じゃ。続いて、武術大会の表彰を行う」
学長が言い終わると同時、がらがらがらと教師たちが凸型の表彰台を舞台の上に引っ張り出してきた。
え、ええ……。
あれに乗るの……? 恥ずかしいなあ……。
「さて、では三位から表彰じゃ。フレイアくん、ミファーくん、ルシフくん前に来てくれるかの?」
「では兄上さま、お先に」
そう言って、俺の横にいたルシフェルが颯爽とした足取りで舞台へと向かっていく。
学長の話どおりルシフェルたち三人は同点で三位だった。
倒した人数的には俺が一〇〇人、キルビスが二人、アルカシオンが一人となる。
アルカシオンを倒したのはキルビスになるのだが、キルビスが先に倒れたのであいつの倒した数には入らないらしい。ミファーも自決なのでノーカウントだ。
それにチームの順位の加点を加味して――
一位は俺、二位はアルカシオン、三位が同点でルシフェルたちとなっている。六位がキルビス、七位に生徒会四人が並び、それ以降に残りの全生徒がぶら下がる形になっている。
異例らしい。
異例だよなあ……。俺がひとりで九割以上倒したんだから。
ていうか、むちゃくちゃか。
正直なところ、やりすぎたと反省している。
なんだかクラスメイトたちの態度がよそよそしい。前からそんな感じではあったが、さらに拍車がかかったというか。
――あいつはやばい。
それが全校的なコンセンサスになった感じだ。
いやいやいや! それほどでもないって! 二、三年生のエース格をひとりで全部ぶっつぶして、最強と噂の生徒会メンバーを軽くちぎっただけだから! そんなそんな! 自慢するほどじゃないって!
……自慢だよなあ……これ……。
さすがの俺だって無理があるのはわかる。
というわけで、俺は自分の立ち位置に悩む日々だ。
「フレイアくん、ミファーくん、ルシフくん! 君たちの健闘を称え、ここにメダルを授与する!」
学長が三人にメダルを渡した。
「……評価はありがたいが……未熟を実感する結果だった。まだまだ研鑽を積まねば!」
「はわわわわ……小生がこんなものをいただけるだなんて……小生ごときが……小生ごときが……!」
「(笑)」
三者三様の反応だった。
「続いて、二位を表彰する。アルカシオンくん! 前へ!」
緊張した面持ちのアルカシオンが表彰台に上る。
学長がアルカシオンにメダルを渡しながら言った。
「アルカシオンくん。優勝候補のキルビスくんを打ち倒したのは見事じゃったよ」
「ありがとうございます。せやけど、あの時点で生徒会長はかなり消耗してました。うちだけの勝利やありません。チームメイトのみんなが頑張ってくれたおかげです」
そう言うと、アルカシオンはフレイアたちに向かって軽く頭を下げた。
学長がうんうんとうなずく。
「その気持ちを胸に、おごることなく前に進みたまえ、アルカシオンくん。君の出自を良く思わないものは多いが――」
ちらりと学長は居並ぶ生徒たちを一瞥してから続けた。
「儂は君を信じておる。君の才、そして志は得がたいものじゃ。きっと人類を守る剣としてよい勇者となるじゃろう。その日を楽しみにしておるよ」
「はい!」
アルカシオンは紅潮した顔でそう言った。
やるじゃない、学長。
今の言葉はアルカシオンに向けた言葉とともに、他の生徒たちへの戒めなのだろう。
公然とした場での、学長からの言葉。
アルカシオンに向けられる敵意も少しくらいはマシになるだろう。
……学長は入学の頃からアルカシオンを気にしていたそうだからな……アルカシオン、お前を見てくれている人ってのは意外とたくさんいるんだぜ?
学長が振り返った。
そして、じっと俺に視線を送る。
「最後に、優勝者の表彰じゃ! 優勝者オウマくん! 前へ!」
俺は学長の呼びかけに応じて舞台へと足を向けた。
「オウマだ……」
「一〇〇人抜きだ……!」
「生徒会の大技すら防ぎきった男……」
「ほとんどの相手を一撃で倒したなんて……!」
俺を見送る生徒たちのささやき声が耳に入る。
その声に含まれる響きは――畏怖。俺という規格外に対する畏敬と恐怖。
今までは『わけがわからないけど強いやつ』だったが、どうやらそこに何かしらの濃い感情が含まれるようになった。
……やれやれ……メンドくさい!
ますます学校にいづらくなっちゃった……
夏休みの間に忘れてくれないかな……。
舞台までやってきた俺は表彰台へと上った。
そんな俺に学長が声をかける。
「オウマくん、優勝おめでとう」
「ありがとう」
「君は本当に儂の想像を超えるな。君が強いのは知っておったが、キルビスくんの優勝は揺らがぬと思っていたよ。それが一〇〇人抜きの栄誉を成し遂げての、ぶっちりぎりの優勝とは……。君の強さは果てしないのう」
「……運と調子がちょっと良かっただけさ」
学長は首を振った。
「君はいつも謙遜するが……もう、この儂のもうろくした目すらもごまかせんよ。君は強い。何者よりも。じゃが、深くは問わぬ。君が隠したがるのであれば、それも良かろう。詮索の苦痛が君を追い詰めてしまう可能性を儂は恐れる」
学長は居並ぶ生徒たちに振り返った。
「諸君――君たちは幸運じゃ」
そして、厳かな口調で続ける。
「このオウマくんこそは、このガルダ王国の、いや、人類の至宝。歴史の流れにその名を刻む大英雄となるであろう男じゃ。以前の儂はオウマくんがひょっとすると魔王を倒すかもしれぬと思っておったが、今は違う」
一拍の間を入れてから、学長がはっきりと言った。
「儂はオウマくんこそが魔王を倒すと確信しておる」
学長の言葉に、学生たちが大きくどよめく。
「……学長がそこまで!」
「最強生徒会長のキルビスをも超える実力を考えれば……!」
「……あいつこそが本当に英雄なのか……!?」
興奮のボルテージが上がっていく生徒たち。
俺は彼らの姿をわりと冷めた目で見ていた。
ああ……この流れは……きっと……例の、アレですよね……。
満を持してフレイアが叫ぶ。
「その通りだ! 以前にもわたしが言ったとおり! このオウマこそは魔王を倒す剣となる男! オウマの前に敵はいない! 先の王都での動乱、王はオウマに会い、その人品を認めてこうおっしゃられた! オウマこそが王国の希望だと!」
あああああああああああ!
そ、それ言っちゃう!? フレイアさん!?
王の言葉。
その言葉は貴族平民を問わず何よりも重い。
「王がお認めになった!? あのオウマを!?」
「というか、オウマが王と謁見した!? へ、平民が!?」
「王国の希望だと!?」
王の言葉の紹介で生徒たちがさらに興奮する。
フレイアを見ると、フレイアはふんと鼻を鳴らしてうなずいた。その目は『さすがにお前本人からは王の言葉を伝えづらいだろう。だからわたしが代わりに言っておいてやったぞ!』という感じの、謎の達成感を伝えてきた。
俺は諦めた。
……なんかこう、偉い人が俺を褒めて、さらにフレイアが保証するのってお約束だからね……。
だけど、今回はお約束だけで終わらなかった。
「小生も! 小生も保証します! オウマさんはすごいんです!」
ミファーが声を張り上げる。
ええええええええええええ!
ミファー、お前も頑張っちゃうのかよ!?
「ひとりで一〇〇を超える狼人種を蹴散らして難民キャンプを救いました! こんなことができるのはオウマさんしかいません!」
ミファーの言葉に、またもや学生たちが興奮の声を漏らす。
あああああああああああ……。
「うちもオウマがすごいこと知ってるで!」
続いてアルカシオンが名乗りを上げた。
いやいやいやいや! そこ対抗心燃やさなくていいから!?
「武術大会予選のダンジョンレース! うちとオウマはダンジョンの崩落のおかげで勝ち抜けたけど、でもそれは……言われへんけど! ホンマにただのダンジョンの崩落なんやけど! オウマがすごいねん! ただの偶然やけど、オウマやねん!」
ダンジョンの天井をぶち抜いた件は黙っててくれとお願いしたなか、内容を伏せつつ頑張って俺の凄さを言ってくれてるのはありがたいんだけど……。
……アルカシオン……もうそれ……俺がやったってバラしちゃってるから……。
「……やっぱりそうなのか……」
「そんなことできるのか……ただの人間が?」
「いやいや、オウマだぞ、あのオウマなら……」
みたいなひそひそ話が聞こえてくる。
頭が痛い……。
フレイアだけで終わらず、まさかのミファー、アルカシオンの追撃コンボを喰らうとは思わなかった。
さすがにもう終わりだろうと思っていたが、俺は俺への嫌がらせが大好きなドエスの存在をすっかり忘れていた。
ルシフェルが表彰台から降り、前へと進み出る。
「かような素晴らしい場にて、かようなありがたい言葉の数々をいただき――兄オウマの妹としてお礼を申し上げます」
優雅な仕草でルシフェルが一礼する。
その瞬間、生徒たちがしんと押し黙った。
ルシフェルは美しい。単純な外見だけではなく、所作のひとつひとつだけでも。
その比類なき美しさは人々の目をひき、意識を根こそぎ奪い取る。
「せっかくなので、わたしからも兄についてお話したいと思います」
え。
何を言うの、お前?
「ずっと昔からわたしは兄を見ていますが、間違いなく兄の力は現世における最強――あの魔王にも等しいと存じております」
……そりゃ俺が魔王だからな……そりゃ等しいよな……。
ルシフェルの言葉に生徒たちが小さくざわめく。
「魔王にも匹敵する……!?」
「それは言い過ぎじゃないのか?」
「いやいや……あれだけの力ならばあるいは……?」
さざなみのように言葉が全生徒に広がるのを待ってから、ルシフェルが凜とした声で続けた。
「兄を信じてください!」
瞬間、はっとした顔で生徒たちがルシフェルを見る。
「兄の力はきっとこの世界を変えるほどのものでしょう。皆さま方を正しい方向へと導く力です! ですが兄もただ一人の存在。できることに限りはあります。大功を成し遂げるとき、きっと皆さまの力が必要となるときがくるでしょう。そのときは皆さまの持つ刃を! 皆さまの持つ勇気を! 兄のために差し出してください! 兄は身命を賭して皆さまの期待に応え、必ずや世界を平和に導くことでしょう!」
ルシフェルが言い終えたと同時、講堂が熱狂する生徒たちの声で埋め尽くされた。
「やるのか……!? 本当にオウマが、魔王を!?」
「できるかもしれない、オウマなら……!」
「一〇〇人抜きを成し遂げた大英雄だもんな……!」
ちらりと俺に振り返ったルシフェルの口元がにやりと笑う。
――せっかくなので火に油を注いでおきましたよ、魔王さま?
そんな目をして。
俺は頭をかいて小さくため息をついた。
……なんか、毎回ぼやいている気がするんだけど、ホントこれどうしたらいいんだろうね?




