魔族嫌いの勇者キルビスvs半魔の勇者アルカシオン
キルビスの聖剣とアルカシオンの黒剣がぶつかり合った。
金属音を巻き散らしながら二人の勇者が激しく斬撃を応酬する。
理力五万のキルビスと――
理力一万そこそこのアルカシオンの戦い。
本来であれば勝負にすらならない組み合わせだが、二人の戦いは伯仲していた。
理由は単純だ。
キルビスの動きに精彩がない。
フレイアたちを相手にしていたときに比べ、明らかに速度とパワーが落ちている。
ルシフェルにボコられたダメージが深刻なのと、極光撃を撃ったことによる理力の消耗のせいだろう。
一方のアルカシオンは傷ひとつない疲労ゼロ。
「あああああああああああああああああああ!」
気合いの声とともにアルカシオンが黒剣を振り下ろした。それを受け止めるキルビスだが、パワー不足で聖剣が弾かれる。
「ぐう!?」
できた隙をつき、切り込むアルカシオン。
アルカシオンの黒き刃とキルビスの水の膜がぶつかった。一瞬の膠着の後、アルカシオンの剣が波にそらされる。
「くそっ!」
その隙を逃さず、キルビスの刃が走った。肩口を浅く切られながらも、アルカシオンが距離を取る。
やはり……難しいか。
ほとんど互角だが、俺の見立てではややキルビスが優位。
満身創痍といえど、やはりそこは過去の大会で二連覇した最強の生徒会長。そう簡単には勝たせてくれない。
あのキルビスを覆う波、あれが厄介だ。
だが、その波も最初の頃のキレがないのも事実だ。アルカシオンの刃を流し切れていない。
もう一押し。
あと少しの差なのだ。それを詰め切ることができればアルカシオンの刃はキルビスに届くだろう。
その最後の一押しだけは自分で成し遂げなければならない。
俺ができるのはお前を無傷でキルビスの前に立たせることだけ。これ以上はお前次第だ。
頑張れ、アルカシオン!
アルカシオンは何とか事態を打開しようとキルビスを攻め立てるがなかなか切り崩せない。
逆に小刻みな反撃を許し、少しずつ生傷を増やしている。
そして、ついに――
鈍い音ともにアルカシオンの左肩が深く切り込まれた。
「ぐああああああ!?」
肩を押さえながらアルカシオンが後ろへと下がる。その顔は苦痛で歪んでいた。
「くふ……はっはっは……ははははははははは!」
突如としてキルビスが笑い出す。
「それだ! それがお前の本質だよ、穢れた血!」
「な……なんのことや!」
「さっきから観察していたが、お前がダメージを受けたときに見せる反応、大きすぎると思わないか? いや、自分でも気づいているだろう? 練習で受けるよりもダメージが大きいことに?」
アルカシオンは答えない。だが、その額ににじむ脂汗と余裕のない表情がすべてを物語っている。
「聖剣だよ」
キルビスが聖剣の切っ先をアルカシオンへと向ける。
「聖剣には退魔の力が宿っている。それがお前の身体に宿る穢れた血に反応しているのだ! どうだ? 聖なる力で灼かれる気分は? 自分が間違いなく卑しい存在であることを自覚できるだろう!?」
「……うるさい!」
逆上したアルカシオンがキルビスに襲いかかる。
しかし、そんな冷静さをかいた攻撃が格上のキルビスに通じるはずもない。
キルビスの技量と水の結界に阻まれ、手痛い逆撃をくらった。
「くっ――!」
聖剣から伝わる痛みにアルカシオンが身をこわばらせる。
キルビスの攻撃が加速した。
「聖剣が物語っているな! どちらが正義かを!」
「……だまれ……!」
「聖剣に否定された貴様が勇者を目指す!? ほざけ! 身の程を知れ! お前は聖剣を握る資格すらない! 聖剣のさびになるのがお似合いだ! 神に見捨てられた穢れた血よ、分をわきまえよ!」
「だまれ言うてるやろ!」
「それなりの理力を持っているようだが残念だったな! お前は聖剣に愛されていない! 恨むならばお前の母を憎め! 穢れた魔族の母を! お前に呪われた運命を与えた母を!」
「うるさいッ! 母親は関係ないやろが!」
激高したアルカシオンが一気に踏み込む。
怒りとともに薙いだ刃がキルビスの首筋をとらえた。黒の刃と水の結界がしのぎを削る。
アルカシオンが押し切ればキルビスの首を打ち落とせるが――
「ぬうううううあああああああああああああああ!」
アルカシオンが満身の力を込める。
ばぎん!
音ともに弾かれたのは、アルカシオンの刃!
「……くっ……そぉ!」
「はっ! 正義に敗北はないのだよ!」
キルビスの逆襲の袈裟懸けがアルカシオンの身体を完璧に捕らえた。
一刀のもとに叩き切られたアルカシオンの鎧から赤い液体がこぼれ落ちる。
「うう……あああああああああああああああああ!」
アルカシオンが傷を手で押さえて呻いた。おそらく斬撃の深さは見た目ほどではないだろうが……聖剣の特攻が効いているのだろう。
「もう勝負は決したかな、穢れた血よ?」
「……やめろや、その言い方……」
「うん?」
「穢れた血……穢れた血……って……うちはそんな名前やない……うちの名前はアルカシオンや! それが両親がつけてくれた大切な名前や! うちに残してくれた唯一のものや!」
「お前の名など覚えてやるものか」
キルビスが冷然と言い放つ。
「魔族など斬って捨て、滅するだけの存在。そんな穢れた血を引くお前の名など口にするのもおぞましい」
「……お前というやつは……!」
「これ以上の接触は無用だ。言葉も! 剣をあわせることも! お前に関わるすべてが不愉快極まりない!」
踏み込んだキルビスが聖剣を振り下ろす。
アルカシオンは諦めない。
キルビスの聖剣を、母から受け継いだ黒剣で受け止める。
「無駄なあがきを!」
「うるさい! うるさいうるさいうるさい!」
アルカシオンが声の限りに叫ぶ。
「お前にはわからんやろ! うちの気持ちが! この悔しい気持ちが! 大切な母親の血を侮辱される気持ちが!」
アルカシオンが奥歯を噛みしめ、キルビスをにらみつめる。
「絶対に負けん! うちはお前をぶっ飛ばす! うちの怒りをお前に叩きつけたる!」
「はっ!? 怒り!? そんなものが役に立つとでも!? 戦いを左右するのは冷静な判断力だよ!」
そのとき――
俺は聞いた。
ぱちり、と何かが弾ける音を。
アルカシオンの周辺に緑色の小さな閃光が弾けている。
俺は思い出した。
ああ、そうだったな、アールグレイブ。お前も感情が昂ぶってきたら雷撃が止まらなくなるタイプだったな。
どうやらお前のその性格は娘にも継がれているらしい。
ぱちり。
キルビスが眉をひそめる。
「これは……?」
「黙れと言うてるやろが、キルビス・アーガイル!」
その瞬間。
まるで閃光が炸裂したかのような強烈な光がアルカシオンを中心に弾け飛んだ。
「うううおおおおおああああ!?」
キルビスの絶叫。
光がやんだとき、状況は一変していた。
後ろに弾き飛ばされたキルビスが尻餅をついていた。急激な光で目を痛めたのか、顔をしかめている。その目をこすろうとした手は自由に動かないようで無様に震えていた。
「な、なんだ、これは……?」
あれを喰らえばそうなるな……。
アールグレイブの大技、広範囲スタンだ。周辺に雷撃をまき散らし、対象者の視界と痺れによる身体の自由を奪う。
ま……母親のやつに比べればまだまだだがな……もしも本家の火力なら今ごろキルビスは消し炭だっただろう。
キルビスをアルカシオンが見下ろしていた。
アルカシオンの全身から緑色の雷が終始ほとばしっている。
緑色の雷光がまとわりついた黒剣をキルビスに向け、アルカシオンが叫んだ。
「キルビス! うちは絶対にお前を許さん!」




