vs生徒会!――最強魔王、勇者一〇〇人抜きを達成する!
「そろそろ終わりにしようか?」
俺の言葉と同時――
キルビスを守るように四人の生徒会メンバーが立ちはだかる。
その顔に悲壮感はあったが、意気は衰えていない。
ほう……この戦力差を見てもまだ戦意を失わないか。なかなか鍛えられているじゃないか、生徒会の連中も。
「お前は……いったい何者なんだ……!」
ラガルドが絞り出すように叫ぶ。
「別に。退学寸前のできの悪い学生だよ」
「ふざけるなぁッ!」
巨漢のラガルドが踏み込み、怒声とともに両手剣を振り下ろす。
俺の裏拳が両手剣の刀身をぶっ叩いた瞬間、その両手剣が半ばでへし折れた。
「な……! 聖剣だぞ、これは!?」
「はは! 古いものだろ? 老朽化していたんじゃないか? ま、終われば元に戻るんだからそう気にするな」
俺はラガルドの腹をぶん殴った。
派手な金属音とともに分厚い金属鎧が割れ砕ける。
「ごあっ!?」
ラガルドが唾液とともに苦痛の声を吐き出した。
俺は痛みで腰を曲げたラガルドの顔をつかむ。
「お前もね、アルカシオンに倒させたかったんだよ。あんな暗いところに閉じ込めやがって。でも、アルカシオンの仕事はキルビスを倒すことでな。消耗させるわけにはいかないんだ」
みしりとラガルドの頭蓋骨がきしんだ。
「アルカシオンに謝れよ」
「ふざけるな! 穢れた魔族の血などに!」
「あまり侮辱するな」
別に魔族をどう言おうがそれほど気にしないが――
盟友アールグレイブの血に泥を塗る言葉を俺は許さない。
「その言葉は俺を不快にさせる……!」
俺は喋り終わると同時、ラガルドの顔を握りつぶした。
ラガルドの身体が光となって消えるよりも速く、俺の横合いから銀閃が走る。
ルゥリーだ。あの帝国からの留学生の。
彼女の獲物は二本のショートソード。両手で操るそれらと体術を組み合わせて、初撃をかわした俺に休む間もなく攻撃を叩き込む。
攻撃の回転が速い!
なかなか面白い戦い方をする!
直後、俺の背後に気配が現れた。
名は知らないが、黒髪短髪の男が背後から俺へと斬りつけた。ルゥリーの絶え間ない斬撃に意識を向けさせてからの不意打ち!
だが、遅い。
最強の魔王相手にその程度で不意がうてるとでも?
男の一撃はからぶった。なぜなら、俺はすでに男の背後に立っていたからだ。ルゥリーの両目が見開く。それはそうだろう。さっきまで男に背後を取られていた俺が、一瞬後には男の背後に立っているのだから。
ルゥリーの視線に気がついた男が振り向くよりも速く――
「邪魔だ」
俺の横薙ぎの一撃が男の身体を吹き飛ばした。
「……冗談でしょ……?」
ルゥリーが顔を引きつらせる。
俺が何かを言おうとした刹那。
きぃん!
金属音が離れた場所から聞こえた。
「くっ!」
アルカシオンの声。アルカシオンに銀髪で赤メガネの女が斬りつけている。
ちっ――!
俺がラガルドに言った『アルカシオンの仕事はキルビスを倒すこと』という言葉から、どうやらアルカシオン狙いに出たようだ。
ルシフェルにボコられたキルビスをかばった様子から、やつがキルビスの副官なのだろう。俺の狙いをくじくという意味では冷静な判断だ!
アルカシオンは劣勢。
まずいな、キルビスという強敵を打ち倒すにはアルカシオンを無傷で届けるのが絶対条件なのだが……。
「わわ……!」
足を取られたアルカシオンが後方へとすっころんだ。
銀髪女が剣を振り上げる!
まずい!
「いかせない!」
ルゥリーが銀髪女の狙いをサポートしようと俺に攻勢を仕掛ける。
どん!
「……え?」
ルゥリーは自分の土手っ腹に開いた穴を驚いた顔で見た。
俺が殴ったのだ。
「悪いな。遊んでいる暇がない」
俺は崩れ落ちるルゥリーから剣を奪い取った。そして、それを銀髪女めがけて投げつける。
今まさに剣を振り下ろさんとしていた銀髪女の首筋にルゥリーの剣が突き刺さった。
「がっ……!?」
銀髪女が恨めしげな目で俺をにらむ。その手から剣がこぼれ落ち――銀髪女とルゥリーは光となって消えた。
ふぅ……。
何とか間に合ったか……。
「す、すまん……助かったわ、オウマ」
立ち上がったアルカシオンが俺に走り寄る。
一〇〇人。
ついに俺はキルビスの手勢一〇〇の勇者を打ち倒した。俗に言う一〇〇人抜きというやつだが、特に感慨はない。達成感を得るには戦力差が激しすぎる。
それに――
もともと俺は魔界統一戦で文字通りの一騎当千をしているからね。今さら一〇〇を倒したところで。
俺は最後に残った大将をじっと見た。
一〇一人目。
大将キルビス・アーガイルを。
「お前のご自慢の精兵たちは壊滅したぞ」
キルビスは取り乱さない。ルシフェルにぼろぼろにされた甲冑を身にまとった姿で、じっと俺を見ていた。
その目は死んでいない。
死も敗北も覚悟していたが。
キルビスが口を開く。
「まさか、こうも追い込まれるとは思わなかったよ。一〇〇の優秀な生徒たち、選び抜かれた生徒会メンバー、切り札の極光撃――ここまで揃えて私は勝利を確信していたのだがな……」
「すべてをぶっ壊された気分は?」
「最悪だな。実に気分が悪い。何もかも投げ出したい気分だよ」
キルビスが腰の聖剣を引き抜いた。
「だが、そうもいかなくてね。私には従ってくれた部下たちのために最後まで戦う責務がある。さあ、最後の戦いといこうか、オウマ?」
「悪いな」
俺は首を振った。
「生徒会室で言っただろ? お前の相手はアルカシオンだって」
俺はぽんとアルカシオンの背中を押す。
アルカシオンは緊張した顔でうなずくと一歩前に出た。
「こいつはこいつで腹に据えかねているらしくてね。お前に穢れた血と呼ばれた上に退学寸前まで追い込まれてな」
アルカシオンがぎりっと奥歯を噛み、肩をふるわせた。
「キルビス! うちは……うちはお前を許さへん!」
「ふざけるなァッ!」
キルビスが絶叫した。
「なぜこの私がこんな穢れた血と剣を打ち合わせなければならない! こいつに私と戦う資格などありはしない! 私は拒否する!」
アルカシオンが怒りで顔を真っ赤に染める。
俺は言った。
「キルビス……悪いな。お前に拒否権なんてないんだよ。弱者は強者に従う。それが俺のルールだ。この場での強者は俺。お前にはアルカシオンと戦ってもらう」
「貴様、私をどこまで侮辱するのだ……!」
キルビスが憎悪の瞳を俺に向け、血を吐くような声で言う。
それほどまでにキルビスはアルカシオンを、彼女の身体に流れる魔族の血を憎んでいるのだろう。
「……迫害された半魔の少女が悪の生徒会長を倒してハッピーエンド――それが貴様の筋書きか、オウマ?」
「そんなところだ」
「いいだろう……」
キルビスの視線がついっと動き、アルカシオンをにらみつけた。
「ならば! その穢れた魔族の血を私が倒して、お前の優勝に一点の染みを残してやろう! このキルビス・アーガイルを舐めるな!」
怒りの声と同時、キルビスが水の膜で身体を覆う。
アルカシオンがアールグレイブの黒き刃を構える。
魔族の根絶を掲げる勇者と――
魔族の血を受け継ぐ勇者の戦いが始まった。




