生徒会の切り札『極光撃』vs最強魔王!
キルビスの眼前には、純白に光り輝くエネルギーのかたまりが輝いていた。
生徒会メンバーとともに極限まで練り上げた理力が転化した代物――
純然たる破壊のエネルギーだ。
まるでそれは荒れ狂う波のようだった。今にも制御から外れそうな衝撃が空気を通して伝わってくる。誰かひとりでも気を抜けばとたんに暴走し、五人を消し炭にするだろう。
「キルビス……準備は、万全よ……!」
リリィナの声も疲労が激しい。
キルビスはうなずいた。
片目に拡大鏡をつけてオウマの姿を見る。
オウマは口の端をゆがめてキルビスを――極光撃を見ていた。
その顔におびえはなく、むしろ楽しげですらあった。
こいよ。
そう言われているかのようだった。
(これを見てもなお、己の優位を疑わないのか、オウマ!)
しかし、キルビスに恐れはない。
それがオウマの過信だと知っているからだ。
(愚かな! 人の身で受けきれる代物ではないぞ!)
キルビスは右手に持った聖剣の、その切っ先をオウマへと向けた。
「三、二、一――」
キルビスの美しい口元がゆっくりと数を刻む。
そして、声の限りに叫んだ。
「極光撃!」
キルビスのかけ声と同時、膨大なる光の奔流がオウマへと殺到した。空気を圧し、噛み殺し、光の波濤が驀進する。
オウマは動かない。
「消えてなくなれ、オウマ!」
キルビスの絶叫。
同時、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
オウマが咆哮を上げた。
そして、右のこぶしでキルビスの極光撃を思いっきり殴り上げた。
「バカかッ!?」
キルビスは笑った。破壊エネルギーのかたまりを素手で殴るなど狂喜の沙汰。ただの自殺志願者だ。
そのまま破壊エネルギーに呑まれてしまえ!
勝利を確信したキルビスだったが、次の瞬間、また叫んだ。
「バカなッ!?」
極光撃が曲がった。
オウマに殴られた部分を支点に、ぐいっという感じで折れ曲がった。純白のエネルギーはそのまま空へと打ち上がり、青空に白い軌跡を残して飛び立っていった。
「な……なんてこと……」
リリィナが息を呑む。
リリィナだけではない。キルビスを含めた全員が信じられないものを見た気持ちだった。
生徒会の精鋭が磨き、練り上げた究極のエネルギーが――
天界の熾天使たちが扱う神の御技が――
ただの一撃で粉砕されるなど!
「一体あいつは何なんだ!」
ラガルドが激怒まじりの声を吐き捨てる。
「さすがにちょっと……勝てないかもね……」
ルゥリーがため息まじりに言葉をこぼす。
大量の理力を吐き出したのだ。
絞り出し、必死に制御した上での結果がこれ。
生徒会メンバーの疲労は濃い。
――勝ち目はない。終わりだ。
キルビスはこぼれそうな弱音を――
奥歯で噛み殺す。
キルビスは統率者なのだ。キルビスの役割は部下たちを鼓舞し、勝利へと導くこと。
キルビスに弱音を吐くことなど許されない。
統率者であるキルビスが諦めるわけにはいかない。
――まだだ! 諸君! まだ戦いは終わっていない! 勝利の可能性はまだあるぞ!
そう叫び、味方を鼓舞しようとしたが。
その声が出なかった。
自分がこれっぽっちも思っていないことを言えるほど、キルビスの精神はふてぶてしくもなく下品でもなかった。
キルビスは言うべき言葉を見つけられず、静かに手を握りしめた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「おー、いい感じに飛んだなー」
俺は青空へと飛んでいく極光撃を見送った。
「オウマ、あんたすごいな……あれを無傷でいなすなんて……」
背後からアルカシオンの声。
「いや……無傷じゃないさ」
俺は極光撃を殴った右手のこぶしを見た。こぶしの薄皮がはげ、うっすらと赤くなっている。
たいしたものだよ、キルビス。
かすりのかすりのかすり傷だが、魔王の身体に傷をつけたのは人間だとお前が初めてだ。
本家本元、昔のルシフェルがぶっ放していた極光撃に比べれば話にもならないほどの低出力だが――
よくぞここまで人の身で練り上げた。
お前の全知全能は俺の薄皮を灼く程度には高いらしい。
少しばかり俺はお前を認めてやるよ。お前は『人の上に立つ器』と吹聴するくらいの資格はある。
「……アルカシオン」
「なんや?」
「俺はどれくらいの勇者を倒した?」
「さっきの火を使う二人を勘定に入れたら七〇人や」
「敵は一〇一人。残り三一人。生徒会を除けば二六人か」
俺たち目がけて一〇人の勇者が駆け下りてくる。
勇ましい声をあげているが、その顔は恐怖で歪んでいた。怖いのだろう。生徒会の大技すら軽く弾き返すこの俺が。
正しいよ。その感性は実に正しい。
大型の肉食獣に恐怖しない草食獣などいない。
俺はまたたきする間も与えず、一〇人を叩き伏せる。
「これで残り一六人」
よく頑張ったよ、キルビス。
ただ一〇一人を殴り飛ばすだけのくだらない遊びかと思っていたが、お前のおかげで存外に楽しめた。
だがまあ、見世物の弾も尽きただろう?
何事も終わり際が肝心。
これ以上は蛇足というものだ。
「行くぞ、アルカシオン」
「え?」
「決着だ!」
俺はキルビスたちが極光撃を打ち放った丘へと走り出した。
新たな勇者たちが立ち塞がるが、そんなものは障害にもならない。次々となぎ倒しながら丘を駆け上っていく。
「あと三人や、オウマ!」
あの目の前に立っている連中が最後か。
「うわああああああああああああああ!」
悲鳴にも似た声をあげながら三人が俺に斬りかかる。
俺の一撃で一人の身体がくの字に曲がり、別の一人が蹴りを食らって後ろへと大きく吹っ飛ぶ。
最後の一人が――
「もらった!」
振り下ろした聖剣を俺は指先一本で軽く横へとそらした。
「ば、化け物……!」
「喰らうわけにもいかないからな」
喰らったら、お前の聖剣がへし折れるかもしれない。そのほうが異常っぷりが際立っちゃうだろ?
俺はその頭をデコピン一発で弾き飛ばした。
三人を蹴散らした俺は丘の頂上へとたどり着く。
そこにはキルビスたちと生徒会メンバーが突っ立っていった。蒼白な顔で俺をじっとにらんでいる。
「九六人をなぎ倒して、はるばるここまでやってきたぞ、キルビス・アーガイル」
俺は両腕を開いた。
「そろそろ終わりにしようか?」




