これが俺の包囲網? 無駄だ無駄! 蟻の大群が象を屠るなんて夢の話だ!
どごぉ!
俺の一撃で勇者が吹っ飛び、光の粒子となる。
「おい、アルカシオン。今ので何人目だ?」
「ちょうど五〇や!」
やっと折り返し地点か……。
不意に、俺を覆うように影が差した。
「どいつもこいつも頼りない……一年生ごときに舐められおって!」
見上げるほどにデカい。
生徒会のラガルドもデカかったが、さらにデカい。身長二メートル超えてないか、こいつ? 縦だけではなく横も膨張した筋肉でふくらんでいる。
その右手には先端に巨大な鉄球を取り付けた棒――モールを握っている。
「なっておらんわああああ!」
絶叫とともに、大男が俺目がけてモールを振り下ろした。
俺は右手でそのモールを受け止める。
大男が笑った。
「ほう! この俺の一撃を受け止めるか! ラゴリキの剛力を! ならば力勝負といこうじゃないか!」
言うなり、モールから伝わる力の圧が数段のレベルで増す。
「ははははあ! どうだ!? 普通の理力は全身を強化するだけだが俺は理力を両腕に収束することができる! このときの俺の力にはキルビスですら及ばぬ!」
「そうか。説明ありがとう」
俺はすばやくモールを横へと倒した。
ごきり、という音ともにラゴリキの腕の骨がへし折れる。
「うおおおおおあ!?」
「すまんな。痛くして。今すぐに退場させてやろう」
俺はモールを奪い取るとラゴリキの頭を一閃した。
巨体が崩れ落ち、俺が投げ捨てたモールとともに光となって消える。
「あ、あのラゴリキがこうも簡単に……!」
ラゴリキと同じチームなのだろう、他の勇者たちが青ざめた顔で後ずさる。
俺がそいつらのほうを向くと、身体をびくりとさせた。
「退け! 退くぞ……!」
勇者たちが背を向けて逃げ出す。
俺は悠然とした足取りで男たちを追う。別に今すぐ追撃して首を刎ねることは可能だが……。
少しばかり気になったのだ。
泡を食って逃げ出したように見えるが、その退却は整然としていた。おそらくは何かしらの作戦だろう。
さて、何を企んでくれているのかな?
勇者たちは小さな雑木林の中へと逃げ込んだ。俺とアルカシオンもその後を追う。
なるほどね――
「おい、アルカシオン!」
「え?」
「危ないから離れるなよ」
言うなり、俺はアルカシオンをひょいと左脇に抱えた。
「え、ちょちょ!?」
抗議の声は無視!
なぜなら――
左右の木陰から銀閃から走る!
俺は右腕でそれを打ち払った。
森のあちこちから気配を感じる。どうやら真っ向勝負は分が悪いと判断し、視界外からの一撃に賭けるつもりか。
別に俺は危険でも何でも無いが、アルカシオンをふらふら歩かせるわけにはいかない。
「くっ、バレたか!」
二人の勇者が飛び出して切り込んでくる。
俺はそれをかわし、二人をあっさりと退場させた。
罠だとわかっていても退くわけにはいかない。なぜなら全滅させなければ終わらないからね。
ここが奴らの戦場であるならば、それもろとも粉砕するのみ!
さっき逃げ出した連中はもう少し先で俺たちを待っている。ここまで来い、ということか。
いいだろう! 乗ってやろうじゃないか!
俺は木陰から次々と飛び出してくる勇者たちを撃退しながら、そいつらの元へと近づいていく。
あともう少し!
「どうした! 弾切れか!?」
俺が襲いかかろうとした瞬間――
轟!
空気の灼ける音ともに雑木林が炎に包まれた。
「む!?」
予想外の展開に俺の意識がわずかに揺らぐ。
その瞬間を突くかのごとく、真上から殺意が降ってきた。
反射的に俺は横っ飛びで転がってかわす。
「ほわあああああああ!」
俺に抱えられたアルカシオンが悲鳴を上げた。
俺は地面に片膝をついて、さっきまで自分が立っていた場所に視線を送る。
そこには地面に剣を立てた三人の勇者がいた。
あらかじめ木に登って身を潜め、一気に頭上から襲いかかってきたのだろう。
俺は立ち上がった。
空気の焦げたにおいが俺の鼻を刺激する。
雑木林の火災はより範囲を広げていた。何者かが火をつけて回っているのだろう。
「この火災はキルビスの作戦か? お前たちは捨てられたのか?」
「まさか!」
俺から逃げ回っていた勇者がせせら笑う。
「キルビスはすべてを俺たちに説明したよ。知った上で俺たちは志願した。オウマという強大な敵を落とすため――俺たちの犠牲だけでそれを成せるのなら安いものだ!」
なるほど……なかなかキルビスの人望は厚いらしい。
死なないルールとはいえ捨て駒なんて気分の悪いものを引き受けてくれるんだから。
「俺たちと業炎の中に沈め、オウマ!」
「そういう律儀さは嫌いじゃないぜ?」
だからといって、負けてやるわけにはいかないが。
俺は向かってくる勇者たちを片っ端から打ち倒す。
「つ……強すぎる……」
最後の一人がそう言って結界の外へと消えた。
「ごほっごほっごほっ!」
俺の脇に抱えられたアルカシオンが激しく咳き込んでいる。
火はすでにかなりの程度で回っていた。
だが、今はまだ回りきっていない。俺の脚力なら火の速度よりも速く脱出できるだろう。
俺が行動に移るよりも速く――
ぱきり、と小枝を踏む音がした。
「行かせるわけにはいかないな」
俺の正面から男が現れた。
「そうね。せっかくここまでやったのだから」
俺の背後から女が現れた。
鎧を身にまとい、右手に聖剣を握っているのは他の連中と変わらないが、二人ともひとつだけ大きな違いがある。
輪郭が揺らめいているのだ。
理力を炎に転化させたフレイアのように。
男が口を開く。
「驚いているのか? 悪いな、炎の形質変化は灼炎姫だけの専売特許じゃない」
なるほど……こいつらが林に火をつけて回ったのか……。
「もう少しで完全に火が回る。それまでつきあってもらおうか?」
言うなり、男の右手から炎がほとばしり俺のすぐ横に着弾した。
周囲のけむりの密度が増す。
「ごほっごほっ!」
別に俺は問題ないが、アルカシオンがやられてしまう。
仕方がないな……。
「おい、アルカシオン」
「な……なんや……? うちのことやったら……気にすんな……」
「先にここから出ていろ。すぐ追いつく」
「え、どういう――?」
「あと、すまんな。これ以外に思いつかない」
言って、俺はアルカシオンをぶん投げた。
俺から見て斜め上、青空の広がる方向へ。
「ちょ、えええええ! またああああああああああああ!?」
響き渡るアルカシオンの絶叫が空の向こう側に消えていった。
「な、仲間を投げ飛ばす……? 正気か?」
「ていうか、人ってあんなに飛ぶの……?」
男女があきれたような口調で言う。
それがそいつらの遺言になった。……別に退場するだけで本当に死んだりしないんだけど。
二人を倒した後、俺はアルカシオンを飛ばした方向に向けて全速力で走った。道の途中に燃えさかる炎があっても気にしない。ためらいなく正面から突破する。
フレイアの業炎の大刺突すら素手でつかむくらいだぜ?
この程度の炎、俺にとっては何の意味もない。
雑木林を突き抜けると平野が広がっていた。
「あああああああああああああああああああああああ!」
悲鳴を上げながらアルカシオンが降ってくる。
俺はさらに加速、間一髪でアルカシオンの身体を両腕で抱きかかえるように受け止めた。
「ふぅ……間に合ったか……」
俺は安堵の息を漏らす。
アルカシオンは目を見開き、はぁはぁと大きく息を吐いていた。
「あ、あかん……心臓がばくばく言うてる……」
「すまんな、アルカシオン。燃えている森からお前を助け出すためにはああするしかなかった」
「ええんやけど……ええんやけど……うん……気にしてないよ、うんうん……」
「そうか、ありがとう」
そのとき。
俺は大きなエネルギーの隆起に気がついた。反射的にそちらへと視線を向ける。
それは俺たちが目指す丘の頂上からだった。
遠視の魔法で見てみると、そこにキルビスたち五人が集まっていた。彼らの中央には煌々と輝く膨大なエネルギーのかたまりがある。
キルビスの目がじっと下界を見下ろし――
俺を見ていた。
俺はアルカシオンを降ろす。
「アルカシオン、ここは危ない。少し離れてろ」
「え……わ、わかった。オウマは逃げへんの?」
俺はにやりと笑った。
「せっかくとっておきを見せてくれるんだ。あっさり回避しましたじゃ面白くないだろ?」
アルカシオンが離れると同時――
網膜を焼き尽くすような閃光がキルビスから打ち放たれた。
純白に染まったエネルギーのかたまりが空気を圧し、俺めがけて一直線に飛んでくる。
ああ……見覚えがあるな……。
敵だった頃のルシフェルがぶっ放してきた『極光撃』にとても似ている。
それが――
お前の切り札か、キルビス・アーガイル!
とても普通の人間が扱える代物ではない。それを人の手で再現したというのなら、その才は認めてやらねばな!
俺はこぶしを握りしめた。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮とともに、俺はキルビスの極光撃をぶん殴った。




