生徒会の切り札『極光撃』
キルビスたち生徒会メンバーは頂上を目指して丘を登っていた。見晴らしがいい場所のほうが戦術的に有利だからだ。
キルビスはラガルドの肩を借りて坂道を上っていた。
ルシフから受けたダメージは無視できないものだったが、それ以上に大きな打撃をキルビスは精神に受けていた。
ルシフから感じた圧力は――
今までキルビスが感じたことのないものだった。
絶望と言ってもいいだろう。
袋小路に追い込まれた状態で迫りくる分厚い壁を相手にしているようだった。どんなにキルビスが殴りつけてもビクともせず、じわじわとキルビスを追い詰めていく。
そこにあるのは圧倒的な力の差。
さらに恐ろしいことは、ルシフが全く本気ではなかったことだ。
理力五万のキルビスを子供のごとくあしらっていた。
(……ありえない……)
まるで悪夢のような出来事。
しばらく茫然自失としていたキルビスだったが、彼の強靱な精神はじわじわと回復していた。
キルビスはゆっくりと深く息を吐く。
今は三連覇を賭けた戦いの最中なのだ。まだ戦いは終わっていない。失意に沈んでいる暇はない。
「……ラガルド。ありがとう、ここで大丈夫だ」
そう言って、キルビスはラガルドから身体を離した。
キルビスはリリィナに視線を送った。
リリィナは後ろ歩きをしつつ低地に視線を送り、右耳から頬をなぞるように伸びるインカム――魔法的な力で短距離の音声を飛ばす装置で生徒たちに指示を出している。
リリィナの表情は険しく、声は鋭い。
「リリィナ。戦況はよくないのか?」
言いながら、キルビスがインカムを取り出して装着する。
『八番隊壊滅しました!』
『ひいい! つ、強すぎる!』
『オウマの進撃、止められ――ぐああああ!?』
インカムから配下の生徒たちの悲鳴のような報告が届く。
キルビスはつばを飲み込んだ。
オウマの底知れない強さは想定していたが、まさかここまでだとは思わなかった。
展開してる生徒たちは決して弱くなどない。
あの予選を勝ち抜いた精鋭たち。間違いなくこの学園のトップ一〇〇に位置する使い手だ。
それが、こうもあっさりと。
リリィナがため息まじりにつぶやく。
「すでに三割の味方が退場しているわ」
三割!
その数値にラガルドたち他の生徒会メンバーに衝撃が走った。
まだ開始してそう時間は経っていないのに。
たかだか二人――否、実質はオウマだけが戦っているのだから、たった一人に駆逐されている。
だが、キルビスには納得できる部分もあった。
ルシフの異次元のような強さ。あれを身をもって体感した今、それほど不思議でもない。
なぜなら――
オウマはルシフの兄なのだから。
キルビスの胸にぽっと火が灯った。
倒すべき敵、乗り越えるべき敵がそこにいる。キルビスの全知全能を駆使しなければ勝てないだろう。
(この難局を制してこそ、キルビス・アーガイルの才は強く輝く!)
まだ身体中の痛みは消えていない。
だが、キルビスの心は再起動した。
「ありがとう、リリィナ。代わろう、私が指揮を執る」
キルビスは低所に視線を送り、一瞬で戦況を把握した。インカムから細やかに指示を送る。
そして、インカムのスイッチを切り、リリィナたちに顔を向けた。
「動揺するな! 生徒会諸君!」
リリィナたちが驚いたようにびくりと身体を震わせる。
「確かに敵は強い!」
キルビスは言葉を続けた。
「だが、君たちもまた強い! 彼らが学園のトップ一〇〇であるのなら、我々は選び抜かれたトップ五! いずれ人類の希望となる五本の剣であり、打倒魔王を成し遂げる英雄なのだ! この程度のことで臆するな! 我らが力を示すとき! 諦めるな、我々にはまだ切り札があるのだから!」
キルビスの檄を受けて、生徒会メンバーの顔に覇気が戻る。
いつだってキルビスは勝利を約束した。勝利を宣言した。そして、その通りの結果になった。
キルビスの指し示す未来、そこに勝利は常にあった!
リリィナがじっとキルビスを見る。
「キルビス・アーガイル、完全復活――そう思っていいのかしら?」
「もちろんだ、リリィナ」
キルビスは両手で髪をなでつけ、乱れた髪を手早く直した。
リリィナがさらに問う。
「ところで、切り札って何かしら?」
「極光撃を撃つ」
生徒会メンバーを包む周囲の雰囲気が一段と緊張感を増した。誰かが生唾を呑み込む。
――極光撃。
それは生徒会メンバー五人が揃ってはじめて撃てる、究極奥義。
もともとは天界に住まう天使たちが大昔の大勇者に伝えた理力を用いた技で、キルビスが学校内にあった古い文献から見つけ出し、現代に復活させた。
膨大な理力が必要で人の身では扱えぬ代物だが、優秀な生徒会メンバー五人が理力を結集すればその限りではない。
彼ら五人の極光撃は小さな丘すら消し飛ばす。
その威力を見て、キルビスは断を下した。
この技は封印すると。
対魔王用の決戦兵器として運用すると。
からかうような口調でリリィナが言う。
「対魔王戦まで使わないんじゃなかったの?」
「実戦での練習は必要だよ、リリィナ。一撃必殺は必中でなければならない。動き回る標的に対する練習だ。ありがたいことに結界のおかげで彼が死ぬこともない。遠慮は無用だ」
キルビスは遠くに見えるオウマに視線を送った。
「さすがだオウマ、この私に極光撃を撃たせるか。対魔王用の決戦兵器――お前には過ぎた代物だろうが、とくと味わうがいい」
キルビスは丘の頂上へと歩み始める。
「進むぞ、諸君。常に勝利は我々とともにある!」
「はっ!」
生徒会は勝利を疑わない。
生徒会はキルビスを疑わない。
生徒会は進撃する。
その先にある確かな栄光へと向かって――




