キルビスvsフレイア+ミファー+ルシフ
キルビスが提案した『余興』――
それはフレイア、ミファー、ルシフェルを三人同時に相手するというものだった。
え、ええ……。
キルビスは『優等生とはいえたかだか一年生だろ?』みたいな雰囲気で言っている。フレイアとミファーはそれでもいいけど、ドエスな堕天使が入ってるってのは……。
やめとけー! 全力でおすすめしない!
キルビスは両手を広げて話を続けた。
「ここの戦いは学校に中継されていてね、生徒たちがリアルタイムで見ているのだよ」
へー、そうなんだ。
「今回の大会は圧倒的で――それゆえに見所のない結果になりそうだから。生徒会長の私としては観客に見所を提供したいのだ」
……なるほど。
俺の圧勝だとつまらないだろ? そう言っているのだ、こいつは。
他にもこの提案には意味がある。
たとえば、キルビス本人の武威を示すこと。一〇〇人の勇者が配下にいてはキルビスの強さがぼやけてしまう。緒戦で三人がかりの生徒を倒せばキルビスの強さを証明できる。
人選もなかなかだ。
魔族の血を引いているアルカシオンと、実力の底が読めない俺は一〇〇人の勇者でじっくりと叩きつぶす考えなのだろう。
それゆえの、この三人の選定。
個人的には勝手にやれよという気持ちではあるのだが……。
問題は、アルカシオンにキルビスをぶん殴らせる予定だってことなんだよね。
オッケーって言っちゃうと――
ルシフェルがキルビスをぼこぼこにして終了するだけ。それだとちょっと困るんだけどなあ……。
「生徒会長どの!」
フレイアが鋭い声を飛ばす。
「三人を同時に相手!? 我々を甘く見すぎではありませんか!?」
「過信というかね、灼炎姫?」
キルビスがふっと笑う。
「ならば己の剣で証明したまえ」
フレイアは口をつぐんだ。ミファーとともに俺に視線を向ける。俺の判断に任せるという様子だ。
さて、どうしよう……。
断るってのもなあ……。逃げたみたいで後味が悪い。
俺はルシフェルに視線を送った。
ルシフェルには『アルカシオンにキルビスを殴らせる大作戦』を話している。ルシフェルも今の展開がよろしくないことに気づいているはずだ。
俺の視線に気づいたルシフェルがこくりとうなずいた。
任せてください、魔王さま。
その目はそう言っている。
よーし、わかった。頭のいいお前を信じるぞ、ルシフェル!
「……いいだろう。その話、受けてやろう」
そう言って、俺はアルカシオンとともに後ろへと下がる。
キルビスは脇に抱えていたフルフェイスの兜を頭にかぶった。
「さて、どこからでもかかってくるといい」
キルビスがすらりと剣を抜く。
瞬間、キルビスの全身を覆う純白の鎧に薄い膜のようなものが浮かび上がった。
なんだ、あれは――?
「では、行きますよ!」
ルシフェルが剣を片手に襲いかかる。
その刃がキルビスの鎧に触れた瞬間――まるで波に流されるかのように、刃がするりと滑った。
フレイアがうなる。
「むっ!? 理力の形態変化か!?」
「その通り、私の鎧――否、身体中には水の薄膜が張られていてね。何者の攻撃も私には通らない」
キルビスが笑った。
「絶対無敵――これでもまだ過信と言うかね、灼炎姫?」
ルシフェルと剣を打ち合いながらキルビスが言う。
言い終わると同時、キルビスの鋭い蹴りがルシフェルの腹をとらえた。
「あーれー(棒)」
変な悲鳴を上げてルシフェルが後ろへと吹っ飛ぶ。
念のため言っておくが、本当にキルビスにやられたわけではない。キルビスに斬りかかった初手から露骨に手を抜いていたからね。
……わざと負けるつもりなのだろうか?
ルシフェルにしては底が浅い気もするが。
「あのルシフをこうもあっさりと!」
フレイアが息を呑む。
ちなみに、ルシフェルは授業でかなりの好成績を残していて、フレイアと同じくらい『普通に強い』と評価を受けている。
フレイアが聖剣イグナイトを構えた。
「さすがは生徒会長……三連覇をかけた英雄だけありますね。では、わたしも出し惜しみはしません!」
フレイアの真っ赤な甲冑を、ゆらめく炎のような膜が覆った。
「行くぞ、ミファー!」
「はい!」
フレイアとミファーが同時にキルビスへと斬りかかる。
しかし、その刃はキルビスの鎧にすら届かない。キルビスが剣を高速で操り、二人の刃を同時に受け流す。
血相を変えた二人が斬撃の回転速度を上げる。
だが、変わらない。
「どうしたのかね? その程度か?」
キルビスは余裕の笑みすら浮かべて二人の剣を防ぎきる。
「しかし落ち込む必要はない。私の理力は五万。君たちも成長めざましいようだが、まだ二万にすら届いていないだろう? 理力の差は基礎能力の差に直結する。三倍の差は――」
二人の刃を軽く流し、キルビスが言った。
「圧倒的だ」
フレイアもミファーも渋い顔をしている。
なるほど……これは厳しい戦いになろうだろう……。
だがな、キルビス。
お前は俺の弟子を甘く見すぎだ。こいつらは最強たるこの俺がずっと胸を貸しているんだぞ。
そう簡単にやられたりしないぜ?
俺は声を上げた。
「ミファー! みせてやれ!」
「わかりました!」
ミファーが踏み込む。
だが、その速さは今までとは明らかに違う。
「――!」
余裕の笑みを消し、キルビスが反応。その一撃を剣を受け止め――られない!
「おお!?」
ミファーの一撃を受けてキルビスの剣が大きく弾かれた。
ミファーの潜在的な理力はとても高い。訓練のおかげで、ミファーは一瞬だけなら暴走せずに理力を飛躍的に高めることができる。
もちろん、そう連発できる技でもないが。
「フレイアさま!」
「うおおおおお!」
ミファーが切り開いて生み出した隙に、フレイアが雄叫びとともに切り込む。
聖剣イグナイトの刀身を炎が包み込む。
ぎん! と耳が痛くなるような金属音が響いた。
その刃はキルビスの純白の手甲によって阻まれたが、ルシフェルのように刃が流されることはなかった。
剣と鎧の接点がじゅぅと音を立て水蒸気を立てている。
「……炎の形態変化だと、私の水の結界を突破できるのか。いい勉強になったよ。鎧がなければ危なかった」
「はたして剣だけですかね?」
フレイアが口から炎を吐き出した。
「ぐっ!」
キルビスは派手に――燃えない。炎はキルビスの水の結界とぶつかり合った瞬間、互いに相殺して消え失せる。
「ちっ!」
キルビスが距離を離す。
フレイアが叫んだ。
「ミファー! 時間を稼いでくれ!」
「任せてください!」
フレイアの言葉とともに、ミファーが斬りかかる。
キルビスが剣を滑り込ませてミファーの刃を受け止めた。
「さっきの剛力はどうした? 連続では使えないのかな?」
「どうでしょうね?」
ミファーが連続して斬りかかる。
その刃はキルビスによって阻まれているが、だんだんと速く重くなっていく。キルビスの動きに余裕はない。
「くっ……この……!」
形勢はミファーの有利に進んでいる。
だが、俺は叫んだ。
「ミファー! やめろ!」
ミファーは解放している理力の量を急速に上げていっている。すでにミファーが制御できる量を超えているのは明らかだ。
ミファーの顔が苦しそうに歪んでいた。
「やめろ! やめるんだ!」
「……いいんです!」
ミファーは俺を見て叫んだ。
「信じていてください、オウマさん!」
……ミファー……。
お前が覚悟を決めてやるんだったら、いいだろう。俺はそれを見届けよう。
「くそ! 私に本気を出させるか!」
キルビスが全力で理力を解放する。その動きはわずかにミファーを上回るが――すぐさまミファーが上限突破する。
防戦一方のキルビスをミファーは押しに押しまくる。
だが、その限界は近い。
ミファーの身体が苦しげに震えた。
「フレイアさま! ミファーここまでです!」
叫ぶと同時、まるで己の全力を叩き込むかのように右手の剣をキルビスへと叩きつける。
「つあっ!?」
聖剣で受け止めたキルビスだが、衝撃を殺しきれずに態勢が大きく崩れた。
だが、もう俺の興味はキルビスにはなかった。
すでに制御できる理力量を大幅に超えたミファーは我を失いつつあった。ふたつの意志がひとつの身体の主導権を奪おうと争っている。
ミファーは間髪いれず――
左手で腰の短剣を引き抜き、自分の喉を短剣で突いた。
さっきの教師と同じくミファーの身体が光の粒子となって消える。
そうか……それが狙いだったのか。
死なないルールの今回だけは、自分の判断による『強制終了』が可能。最初から倒れるつもりでミファーは限界を超えて理力を解放していたのだ。
「お前の犠牲は無駄にしないぞ、ミファー!」
言葉と同時、フレイアがキルビスへと襲いかかる。
ミファーの重撃で体勢を崩したキルビスにかわす余裕はない。
フレイアの聖剣イグナイトが勢いよく柱のような炎を吹き上がらせた。あらゆるものを灼き切る赤き業炎が、まるで渦のように高速で回転する。
「『業炎の大刺突』!」
フレイアの打ち放った一撃がフルフェイスの兜に包まれたキルビスの顔面を直撃した。




