キルビスは一〇〇の勇者を集めた! キルビスは勝利を確信した! 俺(魔王)>え、一〇〇〇でも余裕だけど?
「次の戦い。一〇一対五の戦いになるだろう」
「一〇一対……五?」
「わかりやすく言い直そう。君たち以外と君たちの戦いになる」
「なぜ?」
「君たち以外の参加者はすでに私と同盟を組んでいる」
「――!」
「つまり、君たちは一〇〇を超える勇者たちと戦うことになる」
キルビスがにぃと笑みを浮かべた。
「さて、勝てるつもりかね?」
いや、勝てるけど……。
楽勝で勝てるけど……。
どうせ全員せいぜいお前くらいのザコなんだろ?
一〇〇どころか一〇〇〇でも話にならない。
とはいえ、今ここでそれを言ってもなあ……どうせ信じてもらえないだろうし、逆にイキリ野郎と思われそうだし……。
どう反応しようか……。
「言葉を失っているようだね」
俺の沈黙を別の意味に解釈して、にこりとキルビスがほほ笑んだ。
その笑みは自分の勝利を確信したものの表情。
俺は少しばかり――いらっときた。
「悪く思わないでくれ、オウマ。競技相手を仲間に引き込む。卑怯な手だと思っているかな? だが、これは立派な戦略だよ。敵を味方に引き込むこともまた作戦。勝つべくして勝つ。下準備に余念がないのは卑怯でも何でもない。わかるかな?」
「わかるさ」
俺はあっさり認めた。
そんな話は耳タコだ。ルシフェルの前の副官から魔界統一戦時代にさんざん言われたからな……。あいつの軍略のおかげでどれほど戦わずに勝利してきたか。
だから、別にキルビスの作戦を卑怯とは思わない。
とはいえ――
俺のスタイルではないのだけどね。
キルビスが口を開く。
「オウマ、君は誇っていい。私にここまで準備させたのは君を警戒するがゆえだ」
「俺を?」
「そうだ。このイベントは全学生を観客として行われる。彼らにとってみれば一学期を締めくくる大エンターテイメントなのだ。できれば私も優秀な生徒による本気の戦いをみせてやりたい。だから、去年の私は掌握率を五〇%程度で留めた。今年もそうするつもりだった」
キルビスは俺の顔をじっと見る。
「だが、五〇%程度で君を抑えきれると私は思わなかった。七〇%でも満足できなかった。それゆえの――」
キルビスが一拍の間の後に続けた。
「全軍の掌握だ」
ふふっとキルビスが笑む。
「ここまでして私はようやく安心して君に勝利宣言できたわけだ」
まだ足りないけどな。
俺はその言葉を呑み込み、代わりに別の言葉を口にする。
「それはそれは。俺を過小評価してくれてありがとう」
「オウマよ、それを言うのなら過大評価だろ?」
「ああ、そうだったか?」
いけないいけない。うっかり本音が出てしまったか。
キルビスが口を開く。
「さて、それを踏まえて、だ。君に提案がある」
「何だ?」
「降参したまえ」
「……ほう?」
「君は私の配下の重要な駒になるだろう。そんな君を集団でリンチするのは後味が悪い。君の心にも暗いものが残るだろう。ここで賢く手打ちにする。それがお互いのためだと思わないか?」
「そして、お前は戦うまでもなく一位になるわけだ」
「その通り。言っただろう? 戦わずして勝つ、と」
まったく悪びれもなくキルビスは言い切った。
「もちろん、君の退学免除は私が保証しよう。ついでだ。順位も保証する。君の欲しい順位をくれてやろう」
「俺の退学免除は保証してくれるんだな」
俺は続けた。
「だが悪いな。うちのチームにはできの悪いのが俺以外にもいるんだ。アルカシオンの退学はどうなる?」
「彼女は対象ではない」
キルビスは冷然と言い放つ。
「穢れた血はこの学校に必要ない。今学期で退学してもらう」
「そうか」
ありがとな、キルビス。最後まで魔族排除主義者でいてくれて。
お前への答えなんて最初から決まっていたけどさ、これで遠慮なくお前に示せるよ。
さあ、戦争をしようじゃないか、キルビス。
「アルカシオンは俺の仲間でね。俺は仲間を裏切らないんだよ」
そんなことをしてしまえば――
俺は死んだアールグレイブに顔向けできないだろ?
キルビスは失望をありありと顔に浮かべた。
「義理かね? くだらない。皆から嫌われている半魔の少女など捨ててしまえ。私の進む道にこそ栄光があるのだぞ」
「これが返答だ」
俺はキルビスのデスクにこぶしを落とした。
ごっ、という音ともにデスクが真っ二つに割れる。傾いた机からばさばさと書類やら本が転げ落ちた。
「宣戦布告ってのは、これくらいわかりやすいほうがいいだろ?」
キルビスがおおげさにため息をつく。
「本当にそれでいいのかね?」
「ああ、構わない。そもそも俺とお前はあわないよ、キルビス」
こいつの『戦わずにして勝つ論』しかり。
別に言っていること自体は間違いではないのだけど、そこまでするか? という気持ちが強い。
己の命と未来を賭けた戦いならともかく、こんなショーのような、たかだか学生の遊びでやることではない。
この程度のもの――
純粋な力比べで楽しくやればいいじゃないか。
組織力だの誇示するほどか?
こいつと俺は根本的に嗜好が違うのだ。
「お前を倒して俺とアルカシオンで上位をとる。俺たちは退学を免れる。それだけだ」
「わかった。やってみるがいい。楽しみにしているよ」
目の前でデスクをたたき割られてもキルビスは眉ひとつ動かさない。静かな表情で俺をじっと見ている。
俺は口を開いた。
「机は悪かったな。だがまあ、お前は大貴族で金持ちなんだろ? 買い換えるいいきっかけになったんじゃないか?」
「そうだな。三連覇達成と君を倒した記念としていいものを選んで買うとしよう」
キルビスが右手を挙げた。
「それでは本戦で。楽しみにしているよ、オウマ」
話は終わった。俺はキルビスに背を向ける。
しかし、俺は部屋を出る直前で足を止めた。
……違うな。まだ終わっていなかった。
「そうそう、アルカシオンからの伝言だ」
俺は振り返る。
「お前に退学するよう迫られたことを根に持っているらしい。お前をぶん殴ってやるってさ」
俺はぴっとキルビスを指さした。
「覚悟しておけよ、キルビス」
そう言い捨てて、俺は生徒会室を後にした。
チーム結成、キルビスとの決裂を経て――
いよいよ学校最強の座を賭けた本戦が始まる。




