キルビスくんの絶対勝利宣言!(それ敗北フラグだからやめておいたほうがいいよ……)
本戦出場の登録用紙を提出した翌日の放課後――
授業が終わると同時に、誰かが教室へと入ってきた。俺はそいつのことなど気にも留めていなかったが、ずんずんと俺の席へと一直線に近づいてきた。
「君がオウマ?」
立っていたのは女だ。レモン色の髪を短く切っている。目鼻の雰囲気がフレイアやミファーと少し違っていて俺は違和感を覚えた。
「そうだが……あんたは?」
「わたしはルゥリー・ファレンティナ。生徒会の所属だよ」
生徒会……ねえ……。
「俺に何か用か?」
「キルビスから君を呼んでくるよう頼まれたんだよね。今から生徒会室まで来てもらえる?」
「やれやれ……急な呼び出しだな……」
断ってやりたい気持ちもあるが、わざわざ生徒会メンバーを動かしての呼び出しだ。断らせるつもりもないのだろう。
俺は立ち上がった。
「わかった。行こうか」
「兄上さま」
隣に座っていたルシフェルが俺に視線を送ってくる。
俺はルゥリーに目を向けた。
「用があるのは俺だけか?」
「キルビスは君を連れてくるように言った」
「てことらしい。生徒会長どのは俺にだけ用があるんだとさ。ルシフ、先に戻っていてくれ」
片手でルシフェルを制すると、俺はルゥリーとともに部屋を出た。
てっきり先導すると思っていたルゥリーだが、俺の横を歩きながら無遠慮な視線を俺に向けてきた。
「……な、なんだ?」
「君がダンジョンをぶち抜いたの?」
「い、いや……! 学校に報告したとおり、いきなり天井が抜けたんだよ!」
「で、上昇気流で飛ばされたと」
じぃーっとルゥリーは俺を見て言った。
「嘘くさー」
だって嘘だからね!
しかし、認めるわけにはいかないのだ。
「ほ、本当だって! アルカシオンも言ってただろ?」
「口裏ってあわせられるよね?」
ぐぬぬ……!
なかなか鋭い。
このままではいけないと思って話を変えることにした。
「俺のほうも質問があるんだが」
「なに?」
「お前って風貌が他の生徒と少し違うよな? どうして?」
「ああ」
ルゥリーは自分の顔をつるりと撫でてから言った。
「わたしは帝国人だから」
「帝国……?」
俺は思い出した。確か先日ボランティアで世話した難民たちの村を攻めたのが帝国だ。
「ローディアス帝国……だったか?」
「そうだよ。この学校には留学制度があってね。帝国から友好の特使として留学しているわけ」
「ふーん。そうなんだ……あれ? ちょっと前、帝国ってこの国を攻めてたよな?」
「あら、意外とちゃんと情報は仕入れてるんだね」
「意外とってなんだ、意外とって」
……ボランティアのおかげでたまたま知っているだけなんだけど。
「だけど少し正確ではないよ。ちょっと前『だけ』じゃなくてね、帝国はわりと頻繁にこの国を攻めてるよ」
「へえ」
と、うっかり流しそうになったけど……。
頻繁に、攻めてる?
「……いやいや! より悪くなってるし!?」
「あれ、そう?」
くすくすとルゥリーが笑う。
確かフレイアも言っていたな。ローディアス帝国は領土的な野心が強くてあちこちに小競り合いを仕掛けていると。
「攻めている側の国から留学生って来れるものなの? 居心地悪くない?」
「もちろん、針のむしろだよ?」
「うおーい!?」
お前って我慢強いなあ!?
「だけどね、戦争と外交は別ものなんだよ。殴り合いをしながらも優雅に口は動かし続ける。それすらできなくなれば――」
ルゥリーが両手をぱっと広げて続けた。
「後戻りのできない殺し合いになるわけ」
「そうならないように、お前は特使として頑張っているわけか」
「そうだね。いずれはこの国の中心となるキルビスと顔見知りになれたのはよかったかな」
「国の中心ねえ……キルビスはそんなに立派なの?」
「傑人だよ」
ルゥリーは言い切った。
「帝国からの留学生であるわたしでも能力があるとわかれば生徒会に加える。もちろん、帝国とのパイプ要員としての将来性も加味して。彼は度量が広く、先見性もある男だよ。そういう人間が国の要である大貴族なのはこの国にとって幸運なことじゃないかな」
ルゥリーが会話を切った。
「ついたよ」
ドアの上にある表札には『生徒会室』と書かれている。ドアは開いたままだった。
部屋は大広間だった。部屋の端に折りたたみのイスや机が置いてある。奥に閉ざされたドアがあった。
「わたしはここまで。生徒会長はあそこにいる」
ルゥリーが後ろに下がる。
「じゃあね、オウマ」
そう言って、ルゥリーは部屋から出ていく。
俺は奥のドアを押し開けた。
がらんとした大広間から一転、事務作業をするための機能を詰め込んだ部屋がそこにあった。
大きなデスクの向こう側に見知った顔が座っている。
生徒会長、キルビス・アーガイル。
「ようこそ、オウマ。生徒会室へ」
キルビスが柔和な笑みを浮かべて俺への歓迎の言葉を口にする。
俺はデスクの前に立った。
「わざわざ呼び出してくれたようだが、俺に何か用かな?」
「もう一度、君を勧誘したくてね」
「勧誘?」
「そうだ」
じっと俺の顔を見上げて、キルビスが口を開く。
「私の配下になれ、オウマ」
俺はふっと笑った。
「その話は終わっただろ、キルビス? 俺はお前の下につくつもりはない。そう言ったはずだが?」
「私のほうが君よりも優れていたとしても?」
一瞬、俺は何を言われたのかよくわからなかった。
こう言ったのか?
キルビスのほうが俺より優れている?
俺は、はっと笑った。
「面白い冗談だ!」
だが、キルビスは余裕のある表情を崩さない。
「そうかね? だが、そう遠くないうちに証明できるが」
「証明?」
「次の本戦、私は君に勝つだろう。圧倒的な力の差を見せつけて」
いったい何を言い出すのかと思えば……。
お前が、俺に、勝つ?
しかも圧倒的な差で?
「その表情だと――私の言うことを信じていない様子かな?」
「当たり前だ。いきなり勝利宣言されても困るだろ。根拠はどこにあるんだ?」
「根拠……根拠か。なるほど。では教えてやろう」
キルビスがふふっと笑った。
瞬間、むせかえるような優越感がキルビスの身体から立ち上る。
もったいぶるような間を置いてから、キルビスが言った。
「次の戦い。一〇一対五の戦いになるだろう」




