本戦出場は以下の五人! チーム・オウマ結成!
その日の放課後。
俺は少し遅れていつもの集合場所に向かった。フレイアが熱心な身振りでミファーに剣術を教えている。ルシフェルはあいかわらず離れた場所で本を読んでいた。
俺に気がついたフレイアが動きを止める。
「遅かったな。オウマ――」
フレイアの言葉が不自然に終わった。
ミファーもきょとんとした顔で俺を見ている。
俺がアルカシオンを連れているからだ。アルカシオンは緊張した面持ちで俺の横を歩いている。
俺は足を止めた。
「フレイア、ミファー。話があるんだ」
……筋は通さないとな……。
フレイアとミファーは四人で参加するとばかり思っているはず。俺がリーダーとはいえ、独断でメンバーを追加するのはよくない。
おまけにアルカシオンは厄介な出自なのだから……。
「こいつはアルカシオン。五人目のメンバーとして加えたいんだ」
俺が背中をそっと押すと、アルカシオンは一歩前に出て挨拶した。
「ア、アルカシオンや。たぶん……知ってるとは思うけど、その、魔族とのハーフや……」
おっかなびっくりという感じでアルカシオンが言う。
「本選出場はできたんやけど、仲間が見つからんくてな……そこのオウマが気を遣ってくれたんや。迷惑かけるつもりはないから、参加させてもらっても……ええかな?」
その声には拒絶への恐怖がありありと込められている。まるで今にも崩れそうな積み木を木の枝で突いているかのような。
俺が補足した。
「勝手に決めてすまない。だが、お前たちがどうしても嫌だというのなら考え直す。どうだ?」
受け入れてくれ、と俺は願った。
人間が魔族を嫌うことはそれほど気にしていない。当然の反応だからだ。だが、俺にはアールグレイブとの友情がある。アルカシオンの身の上を聞いた以上、見捨てることはできない。
最悪、俺とルシフェルとアルカシオンでチームを組むこともできる。だが、それはフレイアとミファーを捨てるということだ。それも乗り気にはなれない。
俺は俺で緊張していた。
他人の判断を待つってのは難しいものだ。
フレイアはにっこりとほほ笑み、右手を差し出した。
「よろしく。アルカシオン・ラダー」
アルカシオンはびっくりした目でフレイアの手を見た。
フレイアが続ける。
「そして、すまない」
「え、ええ……!? なんで謝るのん?」
「君が……孤立しているのは知っていた。何度か声をかけようかとは思っていたのだが……しばらく王都に戻っていたりして気が回らなかった。許してくれ」
「別にええよ、そんなん!」
「君の成績の良さは知っている。きっといいチームメイトになってくれるだろう。お互いに頑張ろう」
「う、うん!」
アルカシオンは感極まった顔でぶんぶんうなずく。
俺が耳元でささやいた。
「アルカシオン、握手」
「そ、そうや!」
アルカシオンは慌ててフレイアの手を両手で握り、勢いよく上下に振った。
「よろしく! フレイア!」
「ああ。こちらこそ」
握手する二人を見て、俺は少しばかりじぃんとした。
さすがフレイア。人徳者だなぁ……。
残りはミファーだが、俺はあまり心配していなかった。ミファーはおおらかな性格だ。俺の紹介であるアルカシオンに文句を言ったりはしないだろう。
俺が視線を送ると――
ミファーが険しい表情を浮かべていた。
ミファーが、険しい表情を、浮かべていた。
……。
……あれ?
ミファーは首を振った。
「む、無理っす……」
その言葉に――緩んでいた空気がぴしりと固まる。
「無理に決まっているじゃないですか、同じチームなんて……」
俺は思い出した。
ミファーは住んでいた村を魔族に滅ぼされているのだ。家族もろとも……。
アルカシオンもフレイアから手を離し、息苦しそうな顔でじっとミファーを見つめている。
「そや……な……そうやろうな……」
そして、後ずさりしながら言った。
「ええんや、うちみたいなんがおったら――」
いかん……俺が何とかしないと!
アルカシオンの声をかき消すようにミファーが言った。
「お、恐れ多いっす! 貴族さまと同じチームだなんて! 小生ごとき平民が! フレイアさまは寛大にも小生の参加を許してくれましたけど! さすがに他の貴族さまには無礼がすぎるかと!」
……。
そっちかーい!(白目)
お約束だな……。
アルカシオンは平民ミファーの卑屈さを知らないので、あれこれどう反応したらいいの? みたいな顔で突っ立っている。
俺はアルカシオンの肩を叩いた。
「あいつは平民でな……平民根性が染みついているんだ。貴族と一緒にいるのは恐れ多いことらしい」
「……そういうのを気にする貴族はおるな……」
「アルカシオンは平民と一緒のチームは嫌か?」
「そんなわけないやろ!」
アルカシオンはミファーに近づいた。
「……そんな……貴族とか気を遣わんでええで? そもそもうちは小さい頃は村育ちやし……今の家もただ住んでるだけやから……自分が貴族って感じすら別にないし……」
アルカシオンはミファーの目を見て続ける。
「よ、要するに! うちも平民みたいなもんやから! 一緒やねん! だから、もしも本当にそれだけが嫌やったら……気にせんと、その、仲よくしてくれると、嬉しい……」
アルカシオンが言った。最後のほうはぼそぼそとだが。
ミファーがうなずいた。
「アルカシオンさまもフレイアさまと一緒でお優しいのですね! そんな方とご一緒できるなんて光栄です! 一緒に頑張りましょう!」
ミファーの言葉を聞き、アルカシオンが安堵の息を漏らす。
俺はミファーに訊いた。
「ミファー、アルカシオンは魔族の血を引いているが――大丈夫なのか?」
ミファーはきょとんとした顔で俺を見た。
「え、何がですか?」
「いや、だってお前の村は魔族に滅ぼされたんだろ?」
俺の言葉にアルカシオンが身を固くする。
だが、ミファーは柔らかい笑顔を浮かべて言った。
「関係ないですよ。魔族の血とか関係なくアルカシオンさまはアルカシオンさまじゃないですか。それに村を滅ぼした魔族は別にアルカシオンさまじゃないですから」
ああ、そうだな。本当にそうだ。
でもな。そう言ってくれて、ありがとう。
俺は大きな声で笑った。
ミファーの肩をばしんと叩く。
「痛いです!?」
「すまん、すまん。ちょっと嬉しくてな。ミファー、お前はいいやつだな、やっぱり!」
俺の心は開放感でいっぱいだった。
フレイアもミファーもアルカシオンを受け入れてくれた。別に魔族を好きになったわけではないだろうけど、魔族の血を引いているというだけでアルカシオンを差別しなかった。
フレイアとミファーのそういう人間性が嬉しかった。
アルカシオンは辛い目にあってばかりだったけど、少なからずこういう人間もいるのだ。きっとアルカシオンの居場所はいつか見つかる。必ず見つかる。
アールグレイブ……。
お前の娘は元気にやっているぞ?
俺は腕をあげて言った。
「よし! 俺とルシフとフレイアとミファー、そして、アルカシオン! この五人で戦うぞ! みんなで頑張ろう!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
キルビスは生徒会室で一枚の紙を眺めていた。
その表情は不機嫌で、眉間には深いしわが刻まれている。
「どうしたの?」
部屋にやってきたリリィナが首をかしげた。
「穢れたものというのは存外にしぶといな」
キルビスがデスクに紙を叩きつける。
その紙は本戦出場チームの登録用紙だった。
書かれている名前は五人。
オウマ、ルシフ、フレイア・パーティキュル、ミファー。
そして――
アルカシオン・ラダー。
「あら。あの子、組んでくれる相手が見つかったのね」
リリィナが形のいい唇をゆがめる。
キルビスはため息まじりに言った。
「しかも、あのオウマだ」
計算できない男、オウマ。
キルビスの三連覇を阻むとすればあの男だろう。もちろん、キルビスに負けるつもりはないが。
そのオウマが、穢れた血と組む――
あまりいい流れとキルビスは感じられなかった。
「リリィナ。出場メンバーの懐柔はどこまで進んだ?」
「一〇〇%よ」
リリィナはぴっとデスクの紙に指をさした。
「オウマくんたちのチームを除いてね」
「そうか……」
キルビスは瞑目してから言った。
「オウマをここに呼んでくれ」
「どうするの?」
「リスクを徹底的に排除する。それだけだ」
キルビスが一〇〇の勇者をまとめ上げたと知れば、オウマも考えを変えるだろう。すでに現時点で勝敗は決している。本戦での戦いに意味などないと知れば――おとなしくキルビスの軍門にくだるだろう。
交換条件は退学免除の保証。
もちろん対象はオウマだけ。穢れた血は除外する。
キルビスはオウマという手駒を手に入れ、穢れた血の排除も達成できるわけだ。
キルビスは唇をゆがめる。
「勝敗とは――始まる前に決まっているのだよ、オウマ」
その顔には勝者の笑みが浮かんでいた。




